2 ベリンダ着てないやつ。厳しいって。
最近SNSを見ていて気になっている人がいる。
その人は寝る前に動画を流し見していたら突然おすすめでふらっと現れた。
「これは、ヤバいを通り越して厳しいって。」
ん…なんだっぺ?ヤバいを通り越して厳しい?
冒頭で聞きなれない日本語を使うのは若い青年でした。
その青年の見た目は短髪のアッシュに色付きレンズのサングラス、そしてピチピチの服に厚底スニーカーを履いている。
シュッとしている服装だが、ところどころ主張が強い。
なかなか着るには勇気がいりそうだ。
そんな見た目に独特な口調と歩き方が相まって出来上がっているパリピ感。
学生時代に先輩や同級生にこんな人いたなぁと思い出しながら私は思った。
—— うむ、これは苦手なタイプだ ——
私のパーソナル防御センサーが「フィールドが違いすぎる。関わっていけない。」と、反応する。
そんなパリピ感強めの彼は主にTikTokやInstagram、YouTubeなどのショート動画に生息しており、自身のアパレルブランド『ベリンダ』の商品紹介をしている人のようだ。
令和のこの時代にSNSでアパレルを紹介する動画はたくさんあるし、彼のような見た目の人は繁華街の居酒屋エリアに多くいるし珍しくない。
じゃあ、なぜ他のアパレルやパリピの方の動画ではなく、彼の動画が気になってしまうのか。
それは苦手と思われた彼の喋り方にあった。
「新作来たよ(履いているパンツを指差し)ベリンダ!このジャケットも…ベリンダ!靴もベリンダ!アクセも勿論…ベリンダ!」
これである。
このどことなく聞いたことがあるかなりクセのある話し方。
このいかにもパリピな若者が思いつきそうな四文字を惜しげもなく唱える姿。
頭の中で狩野英孝がチラつく。
そのせいなのかやたらと親近感を感じる。
私は思った。
—— この溢れ出る厨二病感…嫌いじゃない ——
「どうだ、これが俺が考えたベリンダだ」と言わんばかりの力強い眼差し。
他の人達と一線を画す突き抜けたナルシズム。
あまりにも動画内でベリンダベリンダ言うもんだから、奇しくもブランド名をしっかり憶えてしまう。
気がつけば他の動画も見まくっていた。
そして彼の魅力はこれだけではない。
物事ははっきりと言うタイプだ。
「これ着てないヤツ、厳しいって。モテないって。」
どの角度から物事を見ているのかわからないが、概念を思いっきりぶった斬っていく。
なのにも関わらず不思議と嫌な感じがしないのがベリンダである。
こちら側の意見としてはベリンダを知らないし、必要性を感じていないのになぜだか耳を傾けてしまう。
私が悩んでいる間に彼は続けてこう言う。
「ベリンダ持ってないやつ危機感持った方がいいよ!」
な、なんてこと言うんだよベリンダ、そこまで言わなくてもいいんじゃないか。と思うかもしれないがこれこそがベリンダ。
受け入れましょう。
でも、実際この言葉って凄くないですか?
「この服最高」とか、「カッコいい」とか、「今季マストアイテムなんです」って言葉は安心感があるも何度も聞いたことあるから新鮮さを感じなくなっている最中、ベリンダが生み出した新しい言葉「危機感持った方がいいよ」。
もうノーガード地帯にいたのにライフルで打たれた感じですよ。
私には目から鱗のような言葉でした。
それぐらい新鮮でした。
そして彼のずるいのが時々こんなお茶目な面を見せてくれるんです。
服をひとつひとつ丁寧に”ベリンダ”と紹介していく彼。
最後にマフラーに手がかかり、自信満々に答える彼はこんなことを言いました。
「マフラーは、ルイ・ヴィトンッ!!」
…その動画を見てきっと私だけではなく他の多くの視聴者の方も同じツッコミが入れたと思います。
「いや、マフラーはちゃうんかいwww」
それもひっくるめた上で全てベリンダの魅力なのである。
彼は続けます。
「このロンT…ベリンダ!これも…ベリンダ!これは、ヤバいを通り越して厳しいって!」
そうさ、ヤバいを通り越すと厳しいのさ。
気がつけば私はベリンダの虜になってしまっていました。
完全にベリンダが脳内に刷り込まれていき、今ではすっかり私のお気に入りワードになっています。
ここまでくるともうベリンダ愛は止まりません。
日常生活に置いて突然ベリンダを欲する症状が出始めます。
動画を見漁るとベリンダをあまり言ってくれないものに当たる時もあります。
するとベリンダが足りない私は足りない分のベリンダをベリンダ多めの動画を見て埋めようとしまうほど。
そうなったら最後、今度は真似をしたくなる。
机から立ち上がり服を指差し、カメラが本来置いてあるだろう地点を見つめポーズを決め、こう言います。
「こ、このアウターも…ベリンダ…フフッ。」
ふっ。どうやら恥ずかしさと自分とは違うジャンルに足を踏み入れてしまった背徳感で照れちまったようだ。
こんなんじゃベリンダのべにもなれやしない。
「厳しいって…も、モテないって。」
恥ずかしさからキメる時に鼻が伸びてしまいます。
ベリンダを観るだけでは飽き足らず、演じる側になってしまった自分に笑ってしまう…だが、楽しい。
「帽子も…ベリンダ。このスヌーピーのTシャツもベリンダ…スリッパも…ベリンダ…ポン酢もベリンダ…んふっ。」
今日も私は何かに向かって指を差し、ベリンダと唱えているのである。
「 最高の人生だった 」と言って死ねるまで 1/f ゆらぎ @sakurato4ki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「 最高の人生だった 」と言って死ねるまでの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
音楽、映画、美術、舞台、食事、文学、観光についての体験感想文集/酒井小言
★25 エッセイ・ノンフィクション 連載中 3,162話
春はあけぼの、夏は夜/mamalica
★112 エッセイ・ノンフィクション 連載中 313話
表現のきざはし/そうざ
★26 エッセイ・ノンフィクション 連載中 84話
零れた金平糖を集めて/一初ゆずこ
★74 エッセイ・ノンフィクション 連載中 21話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます