7話 いつも強気な子が押しに弱いのは仕方ないね
ファーストキス。
今、七瀬は確かにファーストキスと言った。
それはつまり、七瀬はキスをするのがハジメテということで……。
「へ、へぇー……そ、そうだったんだぁ……七瀬もファーストキスだったんだ……」
何故か頭が真っ白になってしまった僕は、色々言いたいことがあったはずなのに、つい微妙な答えを返してしまう。
「はい、そうです」
「そ、その割にはなんか慣れてたみたいだけど? 初めてなのに、し、舌まで入れてきたりさ」
「そのことに関しては……すみません。私としても意外だったんです。あそこまでするつもりはなくて……」
僕の追及に、申し訳なさそうに目を伏せる七瀬。
それを見て、僕は少し気分が良くなる。殊勝な態度を取られたことで、僕たちの立ち位置についてようやく頭が追い付いてきたからだ。
(そうだよ、出るところに出れば勝つのは僕だもん。勝手にキスとか犯罪だよ犯罪)
今更だけど、この貞操逆転世界においても、性被害ってやつは普通に存在している。
勿論被害を受けるのは男が大半であり、加害者は女性のパターンが一般的だ。
逆というのは滅多にない。この場においても、僕が一方的にキスをされた被害者であり、世の女性が七瀬がした所業を知れば、大半が彼女を責めるだろう。
つまりこの場のアドバンテージは僕にあるということだ。
「ふーん、じゃあなんであそこまでやったのさ」
「それは……」
気を良くしたことで、改めて七瀬の言い分に耳を傾けることにする。
まぁどんな答えが返ってこようと、僕はなにも思うところなんて……。
「気持ち、良かったからです」
「へ?」
「御門くんとのキスが、思ったより気持ちよくて……つい、もっと欲しくなってしまいました」
「——————」
思考が止まる。
気持ちよくなった……? 僕で? 七瀬は今、そう言ったのか?
僕との、キスで……。
「う……」
さっきまでのキスの感触を思い出し、頬が熱くなる。
七瀬も少し頬を赤くしており、恥じらっているみたいだが、それどころじゃない。
(な、なんだよ、それ……)
僕はこれまでの人生で、気持ち良かったなんて、そんなこと言われたことない。
周りをからかうのは好きで、軽いボディタッチくらいは何度もあるけど、誰かと付き合ったことはなかったし、キスとかセックスなんて経験すらなかった。
それは、僕自身がそういった対象に見られてないと思ってたからだ。
外見が女の子そのものである僕が、女子から求められることなんてないんだって考えが、昔から自分の中にはなんとなくあった。
だから、今日七瀬からキスをされるなんて想定外もいいとこで、おまけに気持ち良かったなんて言われたら、なんて言えばいいのか分からなくなってしまう。
だってそれは、僕が男として認められたようなものだからだ。
僕の中に、それに対する答えなんて存在してない。
「さ、さっきも言ったけど僕、こんな顔だよ? 女の子の顔してる僕とキスして、気持ち良くなるなんて、そんなのおかしいんじゃないかな?」
だからだろうか。咄嗟に出てきたのは逃げの言葉だった。
思考停止。これまで何度も女の子をからかうために口にしてきた言葉に、僕は無意識に頼ってしまったのだろう。
「違いますよ?」
だけど、七瀬はそんな僕の甘えを許してくれなかった。
「御門くんは男の子です。確かに可愛くて綺麗な顔をしていますが、立派な男の子ですよ。少なくとも、私は御門くんのことを女の子だなんて思ったことはありません」
「う、ぇ……?」
「逆に聞きますが、御門くんは私とキスをして、気持ちよくなかったんですか? 御門くんから見れば、私こそ女の子にしか見えないと思いますが」
そんなことを言われ、つい七瀬の唇を見てしまう。
綺麗なピンク色をして、形もよくて、そして柔らかくて……。
「う、ううぅぅ……」
「御門くん?」
「うわーーーーーーーーーーーーー!!!」
気恥ずかしくなった僕は、全力でその場から逃走したのだった。
見た目超絶美少女な男の娘の僕が貞操逆転世界に転移したので女の子たちをオスガキムーブでからかっていたら、学園の女神様に分からせられて躾けられちゃってる件 くろねこどらごん @dragon1250
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