無垢の国

雛形 絢尊

第1話


異世界に行ける方法を知ってる?

そんな話題が出たのは今朝のことである。

私はそういった話題が好みで、

枕元で行うもの、

エレベーターを使うもの、そういったものを

いくつか知っていた。

私は新しいそのやり方は決まって

難しいことではなかった。

そのやり方はこのようなものだ。


深夜2時を回って風呂場へ行く。

そして冷水で桶に水を張る。

その後目を瞑り、桶に顔を近づける。


誰にでもできる簡単なことだ。

私は少し刺激を求め、

今晩やってみることにした。


夜も更け、世界が寝静まる頃、

私は階段を

ゆっくり降りていく。

音を立てずにゆっくりと。

世界の溝のような暗さを放つ

夜の家の中は少し怖かった。

ゆっくりと足を進める。

すたすたと音を立てる。

そうしてゆっくりと風呂場のドアを開ける。

電気はつけずにこのまま、

なるべく音を立てないように。

時刻は2時を回った。

暗闇の中私はレバーを引き、水を流す。

桶に水を溜めていく。

水嵩が徐々に上がっていく。

水を止め、再び沈黙の渦に塗れる。

私は息を止め、その水に顔をつけた。


世界の音を全て混ざらせた

その反対側にいるような、

音がない世界へとやってきた。

耳に違和感を覚える。

音がないことで不安がより一層増した。

目の前は暗く、真っ黒である。

その空間は奥行きだけがあり、

再び恐怖を覚える。

異世界に来た!

私は喜んだ、しかしすぐに不安が襲うのだ。

逃げられないその暗闇には何も映らない。

どこを歩いても、

どこまで歩いても闇の中である。

もういい、助けてくれ、

やめてくれ出してくれ、

その声はどこにも届かず空に散った。

焦って再び踠くのだ。助けてくれ。

その暗闇は続いていく。

出してくれ、もう出してくれ頼む。


私は彼らの言葉を思い出した。

「未来永劫に水に閉じ込められるんだって」

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無垢の国 雛形 絢尊 @kensonhina

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