第45話 過去を越えて、未来へ


 みんなの方へ歩いてたレヴァンが、僕の声で振り向く。


 その顔はまるで信じられないものでも見るかのようだった。


「エミルくん、無事だったんですね」


「エミルならきっと大丈夫って信じてたよ!」


「エミル……よかった」


 鎖に繋がれたみんなは、僕の姿を見て喜んでいる。


 必ず助けるから、少しだけ待ってて。


「な、なぜその傷で立ち上がれる……!?」


「みんなのおかげかな」


「ふざけるな! なにがみんなだ、1対1の戦いに他は関係ないだろ!」


 本心で答えたんだけど、レヴァンはどうも納得いかなかったみたい。


 実際にイーリスやリフィ、セレナ。みんながいてくれるから僕は再び立ち上がれたし、今も力が湧いてくるように思える。


「ふん、だが望むところだ。あれでは到底納得できないからな、お前の心までへし折らなければ俺は満足いかないんだよ!」


 レヴァンは剣を構えた。


 魔法を封じる腕輪は僕の腕についたままだ。


 状況は依然として変わらず絶望的なのにどうしてかな、不思議と負ける気はしない。


「あっ? なに笑ってやがる。俺を……俺を笑うんじゃねえ!」


 突然、怒りをあらわにして斬りかかってきた。


 僕の口元が緩んでたかな。レヴァンを笑ったわけじゃないけど、訂正しようにも聞いてもらえなさそうだ。


 レヴァンの剣が迫るなか、僕は自然とエアライドを発動していた。


 エアライドによる低空の高速移動で後ろへ跳び、距離を開く。


「あれ、エアライドは使えるんだ」


 できると確信してたわけじゃなかったので、僕自身驚いてしまう。


 じゃあこれはとウインドを使ってみる。


「なにっ!?」


 こちらの動きを見てレヴァンは声をあげながら警戒したが変化は見てとれず、多少の風も起こってない様子。


 風を生み出し放つ手ごたえはあったけど、すぐ消えてしまったかのようだ。


 この腕輪があっても生活魔法なら使えるのかと思ったけど、そうじゃないんだ。


 ただなんとなく、分かってきた気がする。


「なんだ、おどかしやがって!」


「ウインドストーム――」


 警戒を解き接近しようとするレヴァンだったが、僕の魔法を見てまた足を止める。


 突き出した両手の手元で、風の渦は発生し、手元にとどまっていた。


 そう、放つと消えるけど、留めていれば消えることはないんだ。


「やっぱり。放たなければ使えるのか」


「チッ、気づいたか。だがそれがどうした? 俺の強さは、俺に模擬戦で手も足も出ず何度もやられつづけた落ちこぼれのお前が一番よく知ってるだろ! そんな俺に、放てない魔法で勝てるとでも思っているのか!」


 たしかにレヴァンの剣の腕を考えたら、これをそのまま当てるのは難しそうだ。

 

 放てばすぐ消えてしまうのだから、消える前のを当てようと思うなら剣の間合いに入らなきゃいけない。


 それなのに留めるための制御をしてるときは、エアライドの使用は無理ときたもんだ。


「……そうだね、僕ではどうやっても勝てない。村にいたころの僕なら、そう思ってたよ」


 今は違う、なんとしても勝つ。


 みんなを助けるために、負けられないんだ!


 想いに応えるかのように、手元の風の渦が形を変え始める。


「なっ、なんだそれは!?」


「ウインドストーム・ブレイド!」


 風は収束すると、一振りの剣の形を成していた。


 その剣を手に、強く握りしめる。


 よし、これなら腕輪で消えたりしないし、形作って安定してるからエアライドも自由に使えるはずだ。


「魔法の風を剣の形にしただと……!? だ、だが結局は剣だ! 剣で……剣で俺が負けるかよお!」


 レヴァンが叫びながら斬りかかってくる。


 こちらも剣を合わせて必死に防いだ。


 1発、2発と剣がぶつかり合うたび、打ちつけた場所を中心に周囲へ風が広がる。


 レヴァンは風をものともせず、さらに剣を振ってきた。


 剣の腕はやっぱり相手の方がいくつも上だな、なんとかギリギリで対応できているけどこのままではどこかでやられてしまう。


 だけどもちろんそのままやられるつもりはない。


 さらなる追撃が襲い来るなか、僕はエアライドで後方へ跳び、回避する。


 つぎはこっちの番だ。


 再使用可能になるとすぐエアライドを使い、跳んで斬りこんだ。


 レヴァンはそれを剣で受け止め、斬り返してくる。


 エアライドによる高速移動だけはレヴァンを上回る速さだけど、防いでくるか。


 とはいえおたがい余裕があるわけじゃなさそうだ。


 再使用までの1秒ほどは、至近距離で斬り合わなければならず。


 相手の攻撃を剣で防ぎ、こちらからも剣を振り、ぶつかる数だけ風が生まれた。


 エアライドで間合いの外へ跳び、再使用が可能であればまた跳びこむ。


 そうした攻防を何度も繰り返す。


 幾度いくども剣がぶつかり合って、多数の風が発生し。


 しかしおたがいの剣が相手の身体に届かずにいた。


「なぜだ! なぜ俺の剣を防げる!? 速さは認める! 魔法によるその動きは俺より速い、それはいい! だが剣の技量では俺の方が圧倒的に上のはずだ! なのになぜ! なぜ! 落ちこぼれのお前に! 俺の剣が防がれるんだ!?」


 レヴァンが剣を振るいながら、声を荒げる。


 たしかにエアライドによる直線的な速い動きだけで、ヤツとの剣の腕の差を埋めてるわけじゃない。


「オマエの剣は、数えきれないほど受けたから」


 何度も受けて見てきた剣筋だからほんの少しだけ予測がつき、わずかに早く対応できた。


 本当にごくわずかな分だけど、それがこの応酬を成立させる最後の決め手になっていた。


「あっ!? 受けたってまさか模擬戦のことか!? 一方的に痛めつけられてただけだろ! あんなものお前相手に俺は本気を出しちゃいない!」


「たしかに一方的だったし、レヴァンは本気じゃなかったろうね。それでも僕は、ずっと本気で挑んでたんだ!」

 

 まったく勝てず落ちこぼれと呼ばれたあのころの自分があったから、レヴァンの剣に今ついていける。


 話してる間にも、いくつもの風が生まれ。


 僕はまたエアライドで距離をとった。


ごとを! 俺は強いんだ、そう強いんだ! この俺が剣で! 1対1の戦いで! お前のような落ちこぼれに! 落ちこぼれなんかに! 負けるかよおおお!」


 激高したレヴァンが距離をつめてくる。


「オマエが強いのは誰よりも知ってるよ」


 僕もエアライドで前へ跳ぶ。


「だけど負けない、負けるもんか! みんながいるから、僕は強くなれる!」


 剣と剣が交差する瞬間。


 風でできた剣が、光り輝く。


 2つの剣がぶつかり合うと、レヴァンの剣は粉々に砕け散り。


 僕の剣が、相手の身体を斬りつけた。


「そんなはずは……ぐはぁっ……!?」


 レヴァンは信じれれないという表情で白目をむき。


 周囲に風が広がるとともに、地面に崩れ落ちた。


「剣で勝ったとも、1人で勝てたとも思ってないよ。でも、この勝負は僕の勝ちだ」


 もう聞こえてはいないであろう倒れた相手にそう告げると、エアライドでみんなのもとへ跳ぶ。


「ひっ!? ど、どうするのよ、レヴァンやられちゃったじゃないの!?」


「だ、だってよう、余計なことするなって言われてたし、あのレヴァンが負けるなんて思いもしねえじゃねえか!」


 近づいてみるとみんなのそばにいたジュリアとグラッグがあわてふためいていた。 


「おい」


「「はいっ!」」


 声をかけると、背筋を伸ばした2人から返事が聞こえた。


「じいちゃんが残した家を燃やしたことや、仲間をこんな目に合わせたことを僕は許さない。ただお前たちのことなんて興味はないしどうでもいい。……だからもう僕たちには関わるな。もし次なにかあったら」


 僕はそう言って風の剣を構える。


「「はいいいいいいいいいいいい!」」


 2人は何度も高速でうなずいて。


 それからレヴァンのもとまで走ると、倒れてるヤツをかつぎあげ急いで去っていった。


 これでりてくれたらいいけど。


 ……っと、身体がふらつく。いけない、戦いで無理をし過ぎたか。


 あと少しなんだ、せめてみんながつながれた鎖を外さなきゃ……。


 僕は最後の力を振り絞り、手にしたカギで解錠した。


 みんながなにか言ってるけれど、耳に届く音はかすれてうまく聞き取れない。


 限界かな、でも助けられてよかった……。


 身体が倒れ込む感覚とともに、僕の視界は閉ざされた。






 目を開くと、うっすらと陽の光が飛び込んでくる。


 空を覆っていた雲が少しずつ薄れ、光がわずかにあふれ始めたみたい。


 ああ、そうか。上空を見て寝転んでるのは、気を失って倒れてしまったからか。


 上体を起こして、座ったまま辺りを見まわす。


 そこにはイーリス、リフィ、セレナがいた。


 3人とも心配の色を残しつつも安堵と喜びの表情をしている。


「イーリスが回復してくれたのかな、助かったよ」


「いえ、エミルくんが私たちを助けてくれたからこそですから」


 僕が聞くと、イーリスはいつも以上に明るいほほえみで答えてくれた。


 回復を受けた感覚があり、それまでの痛みもなくなっている。


「斬られたときは驚いたけどそこから立ち上がって勝っちゃうんだもん、やっぱりエミルかっこよかった!」


「はっきりとは覚えてないんだけど、あのときみんなの声が、聞こえた気がしたんだ」


 僕の左手を握ってぶんぶんと上下に揺らして喜ぶリフィを見てると、こっちも笑顔になってしまう。


 不意にセレナが正面からぎゅっと抱きついてきた。


「わっ、あた、あたってるし、それによごれちゃうから……!」


「心配、したよ」


 だから離れてと続けようとしたけど、今にも泣きそうな震える声を聞いたら、そう言うことができなかった。


「うん、僕も……みんなが無事でよかった」


 代わりに右手でそっと抱き返す。


 戦いの終わりを祝福するかのように、雲間から光が差し込んでいた。




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【一章完結間際】故郷を追放された落ちこぼれの少年は、最強の魔力で冒険者としてまっすぐ生きます 天野わたぐも @watagumoA

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