ヤンキー専用コンビニ

ちびまるフォイ

ヤンキーコンビニに染まれ

「君が今日からこのコンビニで働くバイトだね?」


「はい店長。あのひとついいですか?」


「なにかな」


「なんでこの店の外装……デコトラ風なんですか」


バイトの面接受けるときは気づかなかったが、

夜になるとギラギラとイカ釣り漁船のような雰囲気を醸し出していた。


「そりゃうちがヤンキー専用コンビニだからだよ」


「客層がニッチすぎる!!!」


「いや、この近辺は治安悪くてね。

 ヤンキーが人口の99%を占めているんだよ」


「治安悪いというか、この世の終わりじゃないですか。

 残りの1%はなんなんですか」


「襟足がめっちゃ長い子どもだよ」


「ヤンキーじゃないですか!!」


「まあまあ、でもほらヤンキーがいるおかげで

 うちで強盗とかはないから。ある意味で安全だよ」


「そ、そうなんですか……」


「これが制服だよ。営業時間中は必ず着てね。

 休憩中も脱いじゃダメ。常に着ていること」


「えらく厳しいんですね」


「大事なことだから」


社のイメージをしょってるから、とかだろうか。

胸元には「あなたとタイマン・ヤンキーマート」と刺繍され

裾は長めな特攻服スタイル。


「それじゃカチコミよろしく」


「カチコミ!?」


「品出しってことだよ」

「わかりにくい!!!」


ヤンキーマートでのバイトが始まった。


ヤンキー専用コンビニとはいえやることはほとんど変わらない。

店内の清掃、商品の陳列、レジ横商品の調理などなど。


やることは変わらないものの、やっぱり普通のコンビニと異なる点は多くある。


「店長」


「なにかな。僕いまマッチングアプリで忙しいんだけど」


「この地元じゃヤンキーとしかマッチングしませんよ。

 それより、ひとつ聞きたいんですが……。

 うちの商品なんでこんな偏ってるんですか」


「え? そう?」


「やたら金のネックレス多いし。タバコもめっちゃある。

 漫画は喧嘩漫画ばかりだし、お弁当はカルビ弁当だけ」


「うちは地元に根づいた商品を入荷しているからね」


「まあそうだと思いましたよ。

 で、一番の疑問なんですが……なんで入口4つもあるんですか」


コンビニには出入り口が4つもあった。

いつどこでヤンキーに襲われても逃げられるようにするためか。


「ああそれね。ほらうち駐車場広いじゃない」


「ええ。でも車停めてるの見たこと無いですよ」


「だって車停められないようにしてるし」


「駐車場の意味は!?」


「駐車場ってヤンキーがしゃがむためのスペースだよ?」


「ヤンキーの常識はこの国じゃ非常識だよ!」


「でね。駐車場でたむろするヤンキーがいるとさ、

 入口が入りにくいじゃない。ときとして抗争が勃発するじゃない」


「あ、それで入口が4つもあるんですね……」


「そういうこと。でも問題はさ……」


「問題?」


「僕、ぜんぜんマッチングしないんだよね」


「いいから仕事してください店長」


ヤンキーマートでの仕事も徐々に慣れ始めた頃。

カウンターでレジ打ちをしていると、ひとりの客がやってきた。


ドン、とカウンターにお酒を置いた。


「ん」


会計しろ、ということなのだろう。

ヤンキーは「うぇい」「おー」「あ?」など、

一文字~二文字で意思疎通を行う高等言語を扱う。


「あのこれお酒なんですが……」


「で?」


明らかにお客様は未成年様でございましょう?


などと声が出そうになったのをこらえた。

お金より先にパンチが出てくるかもしれない。


しかし店員としてはここで酒を渡すわけにはいかない。

かといって、ここで逆らえばどうなるか。


相手はヤンキー。

しかも未成年。


"昔はワルかったんだよ"と飲み会で息巻く

一番血気盛んでトガっていた時代を生き抜く黄金の世代。


コンビニ店員をボコボコにした話なんて、まさに武勇伝そのものじゃないか。


「ね、年齢の確認できるものを……(裏声)」


「あ? んなもの持ち歩いてるわけねえだろ。早く会計しろ」


「でも……」


「っせえなああ!! ぶっころすぞ!! ああ!?」


「ぴゃあああ!!」


カウンター越しに襟首を掴まれたときだった。

掴んだ瞬間、相手の顔がみるみる青ざめていった。


「す、すみません!! ごめんなさい! 失礼します!!」


「あ、お、お客さん!」


さっきまで闘犬のような勇ましさだったのが

一瞬にしてポメラニアンのような姿になって逃げていった。


「バイト君、どうしたの? 大きな声がしたけど」


「店長! どうして助けてくれなかったんですか」


「マッチング見逃すまいとスマホ見てたから」


「いい加減あきらめてください。実はさっき胸ぐらつかまれまして……」


「そりゃ大変だ」


「でも逃げていったんです。なんだったんでしょう」


「それが制服の効果だよ。着ててよかったね」


「はあ?」


「それよりもう閉店だよ。そろそろ着替えよう」


「はい」


更衣室に戻って制服を脱いだときだった。

制服には外側からだと肌に入れ墨が入っているような加工がされてあった。


「店長これ……」


「あ、そうそう。うちの制服はねみんな"モンモン"仕様なの」


「なんで客がビビったのかやっとわかりました……」


ヤクザはヤンキーの上位職で、遊び人を極める必要がある。

見た目は普通でも相手がヤクザだと誤解してビビったのだろう。


着替えを済ませるとコンビニを施錠して外に出る。

外はまだ昼間だった。


「店長。昼間なのに店閉めちゃっていいんです?」


「ヤンキーは昼間にコンビニなんて来ないでしょ」


「まあそうかもですけど」


「お!!! ついにマッチングした!! やったーー!」


「店長……」


もうあきれてツッコミのフレーズすら思いつかなかった。

嬉しそうにしている店長へ好奇心で聞いてみた。


「で、どんな人とマッチングしたんです?」


「関東抗争会の人とだよ! これから河川敷で会うんだ!」



「……ん?」


メンチを切りまくっている写真が載っていた。


「それじゃ、僕これからケンカだから!

 君もケンカマッチングアプリはじめるといいよ!

 毎日がバトルロイヤルだから!」


店長は自分の言葉をかき消すように改造バイクにまだがり、

パラリラパラリラと口で鳴らしながら爆音エンジンで河川敷に向かった。



ちょっとかっこいいなと思えてしまった。もうやばい。

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