第5話
採掘場の事故から三日。
フィンリーは借りている部屋で、荷造りをしていた。そろそろこの村から旅立つつもりなのだ。
彼は定着する気が無い。
どれだけ親しくなっても、楽しくても。
それでも、フィンリーは旅を辞めるつもりがない。
(アタシは旅を続けなきゃいけないの……)
元々旅人故、荷物が少ない彼の荷造りはすぐに終わり、部屋を綺麗に整えてから下の階に降りて行く。すぐに宿屋の老婆が寄って来て、声をかけて来た。
「あら、フィンリーさん。もう行っちゃうのねぇ……寂しくなるわぁ」
「そう言って頂けて嬉しいわ、マダム。でも、これはアタシが決めている事なの。ごめんなさいね?」
「人それぞれ事情があるからねぇ、仕方ないわ。これ、ウチの採掘場で採れる鉱石の一つでねぇ? お守りとして人気なのよ。フィンリーさんの旅路に幸あれって事で、受け取ってくれるかしら?」
差し出された、全体的に黒色ながらも色とりどりに輝く鉱石を加工したお守りに、フィンリーは微笑みながら受け取る。
「ありがとうマダム。大切にさせて頂くわ。じゃあ、これ今日までの宿代ね?」
「確かに受け取ったよ。それじゃあ、いつかまたこの老婆に会いに来てくれると嬉しいわ」
「ふふ、そのためにも長生きしてもらわないとね? それじゃ、そろそろ失礼するわね。本当にお世話になったわ! ありがとうございます」
穏やかに会話をしつつ、フィンリーが宿屋の扉を開けようとした時だった。
勢いよく扉が開き、エマが飛び込んで来た。その服装は、濃い紺色のローブに白いワンピースと茶色のブーツを履いており、手には木製の杖を持っている。背中には大きなリュックを背負っている。その姿に老婆が驚いていると、フィンリーが優しくエマに声をかける。
「着いて来るつもりなのね? 親御さんには?」
「両親は既に他界していて、ずっとこの村で一人暮らしをしていました。名残り惜しい気持ちはありますが、私! 魔法使いとして成長したいんです! どうか、連れて行って下さい! お願いします!」
「エマ、アンタが決めた事ならあたしゃ反対しないよ。気を付けて、行ってらっしゃいな。はい、これお守り」
「お婆ちゃん……ありがとうございます! フィンリーさん、いいですか!?」
「ふふ。ここまで来たら、置いて行かないわ。でも、旅は過酷よ? 自分の身くらいは守れるようにね?」
「は、はい!」
二人は老婆の見送りを受けて揃って宿屋を出る。外はまだ寒い。朝の陽ざしこそ暖かいが、風が冷たい。その中を二人は並んで歩く。
――こうして、占い師と魔法使いの旅は始まった……
夢姫へのセレナーデ 河内三比呂 @kawacimihiro
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