Q.彼女達は『最可愛』なのか?
蠱毒 暦
無題 ゆっるい企画
◾️月❤︎ 日
「…ん?何だこれ。」
———◾️ ◾️◾️
「おい、馬鹿助手…勉強は進んでいるか?」
「っ。進んでるわよ…ほら、これ。」
私の部屋に勝手にやって来た眼帯ゴミ館長は、机に向かって真面目に私が解いた数学の問題集をパラパラと眺めて…顔を顰めた。
「休日でも、こうしてちゃんと勉強しているの。全問正解でしょ?」
「そうだな。その意欲だけは褒めてやってもいいが、全問不正解だ馬鹿め……!!一度でも我輩が教えた公式ちゃんと使って解いたか?」
「ふん…公式なんて、実戦では通用しないわよ。」
「この後天的脳筋が…チッ。一応は我輩の助手なのだから、見習って欲しいものだ…全く。」
鉛筆を動かす手を止めて、両手をポケットの中に突っ込み……眼帯ゴミ館長を睨んだ。
「間接的に『皆』を…
「…そんな口論をする為に来た訳ではない。故に大人な我輩が訂正して、この話を終わらせてやる。申し訳ございませんでした。」
(…声に全く覇気がないわね。)
睨む私を他所に、眼帯ゴミ館長は私の机に大きな封筒を置く。
「わざわざ、実験の手を止めてこれを持って来てやったんだ精神未成熟女…お前宛てだ。」
私は置かれた封筒を手に取った。
「これって…」
……
とある昼下がり。今日も怪我なく高校から華麗に…少し訳ありで現在、居候している井上家に帰宅した。
(井上は部活。プラネさんは買い物中。じゃあこれ…)
玄関に置かれた封筒をジッと見つめる。
「…何?」
差出人についての記載がないが、その宛先は…
仮に…ドアの下から入れようとしても、こんなに分厚い封筒は入らない。そこから考えられるのは何者かによる不法侵入。だが、誰かが潜伏している気配はない。
普段なら井上の先輩達の仕業だと思う所だが…宛先がボクという時点で、それはおかしい。
開けずに放置もいいが、もしも重要な資料とかだったら後が怖そうだし…。
「はぁ…」
やれやれ。折角、今日は先週に出たホラゲーをやろうと思っていたのに…まあ、手早く済ませればいい話か。
「20…いや、10分で終わらせよう。」
そして部屋で楽しくポテチとコーラ片手に、ホラゲーをやるんだ。明日は午後からソシャゲの新マップ解放もあるし…楽しみすぎる。
そんなボクの意気込みは封筒を開けた瞬間、黒い光に包まれた事で、見事に打ち砕かれた。
……
…
だだっ広い何もない空間の中、神職の服を着た陽気な中年の男が口を開く。
【レディー&レディー&レディー!!皆様ようこそ、『第2回最可愛女子決定戦』へ!!何故、2回なのかって…それは聞かないでやれ。】
『……』
【ぬふふ…では気を取り直して、1人目を発表するでち。ビールとチーズが大好きな特殊清掃員こと、明…っと。
「あっはっは!!超簡潔な私の自己紹介してくれちゃってさ。てかここ何処よ?さっきまで家にいた筈だけど。」
【お次は、かつては最強の荷物持ち…今は、黒幕にこき使われている博物館の職員こと、
「あー普通に続けるのね。」
「ぶ…ぶっ殺すわよ!訂正して、私はあんな眼帯ゴミ館長の手下じゃないわ!!」
「まあまあ落ち着きなよ橘さん。私の飲みかけの缶ビール…飲む?」
「え、なんか…距離が近くない?一応、これ初対面…よね?」
「あっはっは…勿論、初対面だとも!」
【そして最後はこの中では最年少。昼波高校2年生にして、『三代目帰宅至上主義者』の
「ねえ、司会の人!その残雪ちゃんって子…説明してる間に、どっかに行っちゃったよ?」
【……ふむ。想定内でち。】
司会の人が指を鳴らすと、隣に鎖で簀巻きになって横倒しにされた残雪さんが現れる。
「すーぐ逃げちゃって、可愛いねぇ。頬っぺたをプニプニしてあげよう。それそれ〜♪」
「むー…むー!!」
「ねえ、質問があるんだけど。これでもし優勝したらどうなるの?」
【いい質問でち。優勝すれば特典として『何でも一つだけ願いが叶えられる権』が与えられるでち。】
「…っ!?」
「ええっ、本当かい!?」
「嘘…本気で言ってるのそれ?」
【マジでち。それじゃあ…もう逃げなさそうだから、拘束を解くでちよっと。】
手を叩くと拘束していた物が、溶けるようになくなって、残雪さんはおどおどしながら起き上がった。
「あ。ど…どうも。初め…まして。
「あっはっは!!よろしく☆聞いてなかったと思うから、もう一度言うけど、
「
「え、まあ…はい。大丈夫です。お手柔らかにお願いします…橘さん。久留さん。」
【おほんっ…ブレイクタイムはこの辺にして、第一種目は『お料理対決』でち。女子といったら、やっぱ料理…ま。偏見でちが。審査員の人達を喜ばせる素晴らしい料理を期待してるでちよ〜制限時間は2時間でち。】
【では…スタート!!】
その瞬間、男の姿が消えて『キッチン』とデカデカと墨で書かれた正方形のドア付きの建造物が3つ現れて残された3人は各々、顔を見合わせた。
(何でも願いが叶う…って。皆を…阿達くんを救えるって事だよね。)
(やっり〜ビールやチーズ、飲み放題に食べ放題とか出来ちゃうじゃん!!!)
(一生分のお金を望めば、課金アイテムが沢山…っ、駄目だ。冷静になれボク。目先の利益に囚われるな…いや、金銭事情でまだ買えてない数多のゲームを大量に購入するのも悪くない。)
この時だけは、別々の世界で過ごす3人の心は、一つになっていた。
何としてでも、絶対に勝つぞ。…と。
……
❤︎
黄色のエプロンをつけて、まな板の上にいい感じに切り刻んだチーズ眺めながら、そっと包丁を懐にしまった。
「…ん〜どうしよっかな。」
料理…料理かぁ…普通に出来ないんだよなぁ。
(冷蔵庫に何かあるかな……おっ?)
……プシュ!!
「…くぅぅ!!〜キンッキンに冷えた缶ビール!!!こりゃあ堪らんっ…あっはっは!!私にしてはいい事思いついちゃったぞ。」
嗚呼…ビール様。一緒ついていくっすよ!!!
……
◾️
始まってから30分が経過した頃。私は鍋の火を一旦止めてオタマで小皿に掬って味見をする。
「味も…うん。完璧。」
鍋一杯に作ったこの白玉ぜんざいは昔、早乙女さんが振る舞ってくれた…私にとっては
(残雪さんと久留さんは…今頃、何を作ってるんだろう。)
そう思いながら、ドアを開けて私は近くにある残雪さんがいる個室キッチンへ向かってると、仄かに刺激的な匂いがした。
(……っ!?)
こっそりドアを開けて中を覗いてみると、お皿に盛られた中華料理のフルコースがズラリと並んでいて…必死に何かを呟きながら、忙しなく料理を作り続ける残雪さんの姿があった。
「…次、豆板醤25g…甜麺醤は…うっ、もうないの!?なら、別の調味料で…」
(凄い…何を言ってるかとか、何をしているのかが全然分からない。)
「…っ橘さん、もし甜麺醤とか残っていたら、貸して下さい!!」
「えっ!?」
気づかれたのには驚いたけど。
「お願いします。ボク…今、手が離せなくて…」
誰かが助けを求めているなら、たとえ、競い合っている敵だとしても…助けなきゃ。
——でしょ?『皆』。
「…分かったわ!でも、甜麺醤ってどれのことを言ってるの?」
「えっと…そこにある、容器と同じ物を持って来てくれれば…」
「…!すぐ持ってくるわね!!」
私は容器を持って、自分のキッチンへ向かって駆け出し、時間一杯まで…残雪さんの手伝いに回った。
……
…
2時間後…個室キッチンの外で、司会の男の前に置かれた机の上に料理がズラリと並んだ。
【ぐふふ…壮観でちね。じゃあ最初の審査員を紹介するでち。博物館の館長の福沢さん。『特殊清掃員』の桜さん。後…井上さんでち。】
「おれの紹介、雑じゃないですか!?」
【審査員の皆様はこれから1番、食べてて美味しかったものを、選んでもらうでち。それで、ポイントが1番高ければ、その人が勝利でち。一応、プライバシー保護の為に作った料理人の名は伏せるでち。】
残雪さんは橘さんに頭を下げた。
「…橘さん。さっきは…その。」
「いいのいいの。誰かに頼られるのって…嬉しいから。」
「なら…いいですけど。」
「むむ。私がいない間に、いい感じになっちゃってさ〜あっ、司会の人っ、料理紹介よろ☆」
【…Aは白玉ぜんざい。Bは…何だこれ?…で、Cは中華フルコースでち。どれでも好きなものからどーぞでち!】
先に桜さんと呼ばれた女性が動いた。
「その、
「「……?」」
「あーちょっち、席外すね〜♪」
桜さんの口を塞いで、久留さんが近くの個室キッチンの中に連れ込んでいる間に、わざとらしく福沢さんが橘さんに近づいた。
「ふん。プライバシー…か。料理を見た時点で堂々と自己紹介されたような気分だ。」
「白玉ぜんざいを見ながら、私に語りかけるのはいいけど違うわよ。私が作った料理は…」
「論外だ。もう食べ飽きたのだよ、ワンパターン女。」
「なあっ…?!」
「後…我輩に嘘をつこうなど千年は早い。まずはグリム童話を全て読破し、色々と学んだ上で出直して来い。ふむ…この中華の味は言わずもがなだが、調味料とチーズが混ざったゲテモノもその見た目さえ度外視すれば、生粋のビール飲みなら大絶賛だろう。意外にもレベルが高い…悩ましいな。」
「へえ…そう。今朝の事といい一発は喰らわせないとこの怒り。収まりそうにないわ!!」
福沢さんは危険を察知したのか、その場から逃げ出し、橘さんは取り出した二丁拳銃を何発か発砲しながら追いかけて行く。
「…だからさ後輩ちゃん!私の手作り料理、食べてみなよ〜♪こんな機会、もうないぜ?」
「何度も言いますが、拒否します。どう見ても食べ物じゃないですよそれ。」
「あっはっは!!〜じゃあ、食べさせてあげるよ。口移しとかでどう?」
「は?正気ですか…え、待って…こっちに、こっちに、来ないで下さい!!」
「ハッ…怒ったらすぐこれだ。脳筋低脳女め。そろそろ学んだ方がいいのではないかね?不毛であると。」
「っ、いちいち避けるな!!」
「もぐもぐ…んまっ。この麻婆豆腐うっま…でもメッチャ辛い…いや待てよ…なあ唯!白玉ぜんざいで無限にいけるぞ!!ヤバそうなのも…おっ。意外にいけるかも。」
「うん……悪くない。」
あっちこっちが、騒がしくなっている中…机に置かれた料理を美味しそうに食べる井上さんと小腹が空いたのか、しれっと料理を食べている残雪さんを遠くから眺めながら、私は苦笑いを浮かべた。
数時間後…
【えー…審査員達の公正な投票の結果、第一種目の勝者は…残雪 唯ちゃんでした〜!見事、1ポイント獲得でち。審査員の皆様、ご協力ありがとうございました。それでは、第二種目に移るでち。次の種目は…】
【『ファッションセンス対決』でち。可愛い女子は必然的に、服装も可愛いでち。制限時間は3時間。今回も公平(?)なジャッジをしてくれる審査員が3人いるので、頑張るでちよ。】
【では…スタートっ!!】
スタッフ達の力によって、キッチンが消えて…巨大な服屋が形成された。
……
…
❤︎
女性向けコーナー…ではなく、男性向けコーナーの服が並ぶ場所を歩きながら考える。
「私…スカートとか似合わないんだよねぇ…でも小学生の時は、嫌々着せられてたっけ…残雪ちゃんはどうだった?」
「……!」
背後の服の間から恐る恐る、顔を出した。
「い…いつから、その…」
「あっはっは…最初からさ♪…私を怖がってる事も分かってるよ〜。白髪で右目が赤色、左目が黒色の超絶美人なんて、そうそういないだろうからね。」
「……」
「折角だから一緒に選ぶ?最近の高校生がいると、何かと参考になるしね。」
残雪ちゃんは頷いて、私の隣に立った。
「ボクは…そ、その。ファッションには疎くて…だから…」
「そっかぁ。私もその点疎いから同じだね♪いつも同じ黒いスーツ着てるし…あ。じゃあさ、じゃあさ、ちょっと冒険してみないかい?」
「冒険…?え、待っ…」
私は背後に佇む気配から離れるべく、残雪ちゃんの右手を掴んで、女性向けコーナーへ走り出した。
……
「じゃーん!水着…似合ってるっしょ?」
「は、はい…似合ってます…でもそれ、寒くないんですか?」
「寒くなんて…へっっ、くしょい!!…ずびび…ないよ!残雪ちゃんこそ、平気?」
「ボクは…えっと…山暮らしで寒さにはもう、慣れましたから。」
「はえぇ…意外にたくましいね。特に、その引き締まった太ももとか…!」
「!?!?さ…触らないでぇ…」
軽いスキンシップのつもりが、触られる事に対して何かトラウマがあるのか残雪ちゃんは涙をポロポロと流しながら、しゃがみこんでしまった。
「えっ、そんなつもりじゃ…ご、ごめんよ…泣かせるつもりはなかったんだよ!!」
ちなみに、私と残雪ちゃんは女性向けコーナーで、適当に沢山の服をカゴに入れて、今…一緒の試着室の中にいる。
「チアガールのスカートの丈短っ…所謂、見せパンって奴なのかなこれ。残雪ちゃんは…」
「…っ、ボクは着ませんよ。そんな露出度が高い服は。」
「制服も水着も割と、露出度高いと思うんだけど…」
「正直、水着は上着…制服は下からジャージが着たいです。」
「あっはっは!大変だねぇ高校生も。」
私は元々着ていた黒色のスーツに着替えてから水着姿のまま、俯いてしゃがみ込んだままの残雪ちゃんの側に座った。
「ねえ…高校生活って楽しい?」
「…楽しくないです。」
「そっか…実は私さ。高校とか…中学とか。一度も行った事ないんだよね。」
残雪さんは顔を上げて、僅かに驚いた表情で私を見た。
「…えっーと。私が小学生の頃に両親が亡くなってね。それから生きる為にずっと仕事をしてたんだけど、当時は羨ましかったんだ。中学生や高校生の子達が制服を着て、他愛のない会話をして笑い合う姿が。キラキラしてて…眩しかった。」
「義務教育を受けて…ないんですか?それは、」
「残雪ちゃんは恵まれてるよ。私よりも。」
「……?」
少なくとも「羨ましいですね。」だなんて言わせない。中高の楽しい学校生活を夢見ていた昔の私を裏切りたくないから。
「あー…なんか変な空気感になっちったね。私はこの服装のままで行くよ。そう生きるって決めてたのを残雪ちゃんを見てて、思い出せたからさ。残雪ちゃんはいい服…選びなよ。」
「……。」
残雪ちゃんを1人残して、私は試着室から出ると、少し離れた場所に喪服を着た黒髪の男が立っていた。
「あのさぁ。誰だか知らないけど…乙女の試着室の会話を盗み聞きなんて、ふてえ野郎だとか思わない?ついて来た所を見るに、残雪ちゃんの関係者なんでしょ?」
「…さあな。」
私は確信を得るために、男に抱きつこうとするが、避けられた。
「あぁ?…発情期か??」
「違うよ…ん。やっぱり君から少しだけ、残雪ちゃんの匂いがする…険しい山に根付いて、生きようと足掻く野草の香り。」
男は一歩、後ろに下がった。
「ケケッ……気持ち悪いな。お前さん。」
「残雪ちゃんには似つかわしくないんだよ。君から漂う、血が滴った金の延べ棒の香りが。」
「そんな匂いなのか?オレ…帰ったらシャワーでも浴びるか。」
「浴びても分かるけどね。というか、白状してくれないかな。君は、残雪ちゃんの……」
「…しつけえな。じゃあ最初っから教えてやるよ。オレの名はリード。少し前まで、生贄としてアイツが捧げられた事で現界してた『全てを奪う悪魔』だ。」
ブツッ……
「ちょっと…早く起きなさいよ!」
「…久留さんっ。」
「……何。って…あれ?」
体を起こすと、何でか純白の花嫁衣装に身を包んだ橘さんと白黒のメイド服を着た残雪ちゃんが心配そうに見ていて…私は首を傾げた。
(…さっきまで、誰と話をしてたんだっけ?)
【…さて、長々と審査員の方々の審議は終わったみたいなので、そろそろ結果発表を…】
「まだぁ終わってましぇんよ〜久留しゃんが1番ですぅ…っく。」
「馬鹿か。橘ちゃんが1番に決まってるって何度言えば分かるのかなぁ!!!だって、花嫁衣装なんだぞ!?!?もう…優勝じゃないか…はははは!!どうだ
「ひっく…おこちゃまですねぇ?」
「身長は僕の方が高いだろ。てか、飲んだくれに言われたくないね!!この未成年が。」
「はあ?未成年とかじゃないですぅ〜こう見えて、24歳ですぅ…未成年はぁ、そっちじゃないですかぁ?」
「どう見ても小学生。見栄張っても無駄でちゅよ…は、はははは!!!」
「ムッキィィィィ!!!!」
見知った少女と見知らぬ少年がこうしてずっと討論するのを眺めていると、橘さんがため息をついた。
「いつまで続くのかしら…あの独り言。」
「えっ、橘さん…視えてない?少年と少女が。」
「?あの女の子なら分かるけど…少年って何処にいるのよ?」
「橘さん…視えてないの?」
「ええ!残雪さん見えてる!?嘘…ちょっと疲れてるのかな…私。」
私は残雪ちゃんと顔を見合わせた。
「いるよね?」
「…うん。で、でも……」
「言わない方が良さそうだよね。」
残雪ちゃんは無言で頷いた。
【はい。審査員の話が全く纏まらないので…こっちの独断で、花嫁衣装というガチ装備で挑んだ橘ちゃんの勝利〜って事で、1ポイント獲得。おめでと〜】
「…くっ。」
「しゃぁぁぁぉぉぉ!!!あひゃ、あひひゃ、橘さんの可愛さは日本一…いいやぁ、世界一なのだぁぁ…ぐ、はっはっは!!!…ブベラッ…や、やばい、血涙、ヨダレヤバい…でも嬉しい、嬉しい、嬉しいよぉ〜♪♪どうだ、ロリババアぁぁぁぁ!!!!」
「…あ、ありがとう。牧田くんが昔、私の花嫁衣装が見たいって言ってて…偶然その衣装があったから、試しに着てみたんだ。」
「へ…へぇ〜良かったじゃん♪くっ…きっとその人も喜んでる…よ。」
「う…うん。」
「そ、そうかな。どこで見てて、満足してくれてたらいいな…なんて。」
私と残雪ちゃんは、ずっと床でウナギみたく、ビクンビクンして歓喜に震えている少年の所為で…同時に吹き出した。
「なっ、どうして笑うの…残雪さんまでっ!!」
「ご、ごめん、ごめんなさ…ふくくっ…」
「あっはっはっは!!!」
閑話休題
【現在の得点は、こんな感じでち!】
【とうとう最終種目でち。三種目は…『ガチバトル』…真の美少女は戦闘すらも、そつなく華麗にこなせるでち。】
「華麗。」
「どったの残雪ちゃん?」
「あ……何でもないです。」
【これは個人戦ではなく集団戦。極限状態において誰よりも最可愛ムーブを決めれた方が勝ちでち。尚…最可愛ムーブじゃないと判断されたら、減点もあるから気をつけるでちよ。】
3人は顔を見合わせた。
「これで、最後か…バトル、バトルねぇ。私は非戦闘員だから後ろにでも隠れてよっかな♪」
「はぁ。まさか戦うなんて…残雪さんは私の後ろにいて。絶対、守るから。」
「私は、ねえ…私は!?」
【泣いても笑ってもこれが最後の種目。悔いがないよう頑張るでち。】
【では…スタートでちぃ!!!】
瞬間…3人の視界が暗転した。
◯
目を開けると、見知った空間…だった。
「…嘘。ここって…」
某製薬会社にあるパーティ会場。早乙女さんの最期を娶った……因縁の地。でも、そこには…早乙女さんはいない。
「3人…あの強欲悪魔の生贄の小娘に
「…えっと。少年…君を倒せばいいのかな?」
「倒す…倒すか…く、くくくっ…あの詐欺司会が一度でも、そう言ったのかい?」
(今、手元にある武器は早乙女のマグナムと牧田の二丁拳銃だけ。二丁拳銃の残弾は、眼帯ゴミ館長を撃った時に使ってもうない…マグナムの残弾も1発だけ。)
大きな三度笠を被り、鞘がなく血で錆びた一振りの刀を腰に差した落武者のような格好の少年はニヤリと嗤った。
「どう足掻こうが
私は2人を守る為に、前に出て…腰のホルスターから早乙女のマグナムを抜き、照準を少年に合わせた。
「下がってて…私がやるから。」
「…いい。実にいい。
少年は、腰にある錆びついた刀ではなく…近くに落ちていたパーティで使われていたであろうナイフを手に取って、構えた。
「その蛮勇に免じて、これくらいのハンデは背負ってあげよう。光栄に思いながら…」
———死ね。
ドンッ!!
私が早乙女のマグナムを発砲しようとした瞬間、誰かに押されて…私が立っていた場所に、腹部から血を流す久留さんが…いた。
「無駄な足掻き…くく…余程、死に急いでいるようだな。酒女。」
「あぁもう…痛いなぁ…いつ受けても、この痛みだけは永遠に、慣れそうにない…よ。」
「く…久留…さん……」
少年はナイフを引き抜き久留さんは、そのまま地面に崩れ落ちた。激情が私の心を支配していく中、少年は倒れる私に少しずつ歩み寄ってくる。
「さあ立てよ。銃女…すぐに酒女の元に逝かせてあげるか…っ!」
少年は背後から放たれた包丁を、振り返りざまに、ナイフで叩き落とした。
「しれっとキッチンから拝借して来た…奥の手だったんだけどな。橘さん。まだそれ撃っちゃダメだよ。」
「…死なない程度で、致命傷を与えた筈だけど…何で、動けてる?」
(……)
「さ…さあね。可愛い守護神でも憑いてるんじゃない?」
右手で腹部を抑えて、辛うじて立っている久留さんの言葉を少年が吟味して、それが冗談であると悟った少年は持っていたナイフを捨てた。
「殺しちゃ駄目らしいけど…もういいや。そんな事知ったこっちゃない。こんな雑魚に刀を使うのも癪だから、絞め殺してあげるよ。」
私ではなく、久留さんを狙う少年の三度笠が、突如、吹いた横からの突風(?)で宙に飛んだ。
「……っ。」
軽く跳躍して、三度笠を空でキャッチした少年は…再度、風(?)が吹き、受け身も取れずに床を転がった。
「今だよ!!」
私は久留さんの声に従って発砲した。
「…づっ!?そんな程度で、この
胸から血を流し、怒りの形相で刀を持ってこちらに走って来る…が。それよりも早く、久留さんや私の腕を残雪さんが掴んだ。
「…きゃっ!?」
「うへぇ。やっぱ残雪ちゃんだったか☆」
「帰ろう。元いた場所へ。」
何故か活き活きとしてる残雪さんに、尋常じゃない力で引っ張られて…私は意識を失ってしまった。
……
…ボクの名前は
面倒事に巻き込まれるのが苦手で、常に家に帰宅し、快楽を貪る事にしか興味がない数多ある帰宅部の頂点に君臨する…
——『三代目帰宅至上主義者』である。
故に、初っ端で帰宅を阻害されてテンションがダダ下がりしていていたのだが、特典や周りの人達の熱気にらしくもなく乗せられた結果…三種目の時に、偶然見つけてしまった。
無論、あの子供の事ではない…その奥の埃塗れの机の上に置かれたデジタル時計を。
子供と久留さんや橘さんが話している間、どうしても気になったボクはこっそり時刻を確認しに行って、飛ばされた日の翌日の午後になっている事が分かり…思い出した。
…すぐにでも家に帰宅し、新マップを開拓しなければならない事を。
このまま1人で帰宅するのは容易い。でも…これまで、こんなボクに対して優しく接してくれた恩義を忘れ、2人を見殺しにする程…ボクは恩知らずじゃない。
——ボクは競歩のギアを…3つ上げる。
だからといって…企画主共の思惑に乗って、シリアスに戦う気は毛頭ない。時間の無駄でしかないからだ。
正直、特典が手に入らないのは残念だけど…もう知った事じゃない。後悔なんて未来のボクが勝手にやるさ。2人には…うん。いつかまた会える機会があった時にでも謝ろう。
家に帰って来たボクは、自室のパソコンの電源をつける。
今回も華麗に帰宅出来たし…せめて、新イベと探索度80%くらいは今日で終わらせるか。
……
…
得点板を眺めながら、私は小さく笑う。
「逃げられたでちから…終わりか。下らん仕事だったが、約束通り特典は俺が頂く。」
『いつ使うの?』
「…さてな。」
そう言い残し、司会…否、詐欺師は消えて私だけが残る。
『よし…結論。』
A.やっぱり彼女達に『最可愛』は似合わない!
了
Q.彼女達は『最可愛』なのか? 蠱毒 暦 @yamayama18
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