十、納戸の絵画
これは父親とともに体験したことです。
まあ、肩透かしをくらったといえばそれまでなんですけどね。
その出来事のきっかけは、一枚の古い写真を見たときでした。父親が引っ張り出してきた父の幼少期の写真です。その写真には父の両親・叔父、そして父親本人が写っていました。父が4歳くらいで、叔父が8歳くらいの写真だそうです。祖父母の家のリビングで撮影した家族写真のようなものでした。
その背景に大きな額縁が壁にかかってありました。父がその写真の額縁を見て、「これ懐かしいなあ」と言ったんです。
その額縁について詳しく聞くと、どうやら父の初のトラウマとなった出来事の話をしてくれました。
「この額縁に、西洋絵画のすごい怖い顔の女性が描かれた絵があったんだ。それがなぜか部屋に飾ってあってね」と父は言います。ある時、両親に「どうしても怖いから今すぐ取り外してほしい」と頼んだとか。
「なんか、両親も兄貴も困った顔をしていたのを覚えているよ」と笑っていました。わざわざ外すほどの怖い絵をなんで家のリビングに飾っていたのか、少し気になりました。
「おじいちゃんとおばあちゃんとか、おじさんは怖いと感じなかったの?」と聞いてみると、「うん。多分怖くなかったんだろうな。まあ、両親は大人だし、兄貴も結構肝が据わっていた性格だったから」と言っていました。
ふーん、程度で流すつもりだったんですけど、父はなんだか高揚していました。終いには「今もまだあるんじゃないか」なんて言ってました。
そこから、祖父母の家で大捜索が始まりました。祖父は既に他界しており、祖母は現在介護施設に入っているため、定期的に父親が家に行って掃除やらセキュリティチェックを行っています。
父はもはや魔窟の状態となっている納戸の整理を始めました。
「だいたい、昔のものはこの中にあるはずだ」と息巻いていました。数時間ほど整理をすると、なんだかそれらしきサイズの箱が出てきました。
「これかもしれない」とテンションが上がっている父親。さすがに私もここまで話を聞いた手前、かなり気になっていました。いくら4歳とはいえ、恐怖を感じて外すことを懇願するほどの絵画。その女性がどんな顔をしているのか。とても気になりました。
たしかに、西洋絵画って子供の頃、少し不気味に見えましたよね。あんな感じなのかな?とか想像してました。
二人ともそれぞれこっそり高揚している状態で、いざ箱をあけました。額縁が背を向けて収納されています。父は箱から額縁を立てると、こちらを向いてにやりと笑いました。「今なら怖くないかもな」なんて言ってました。
くるりと額縁を回すと、二人とも呆気にとられてしまいました。その額縁の中に、怖い顔をした女性の西洋絵画、なんてものは入っておらず、ただ無地の暗い色のマット板が入っていただけでした。額縁買ったときの下地みたいなやつです。
父も私も肩透かしを食らってしまいました。
「なんだよ。おふくろ捨てちゃったのかな」とかなりがっかりしている父を横目に、箱に額縁を戻しました。その時、自分の顔がその額縁のガラスに反射していたのですが、私もかなりしょんぼりした顔をしていました。
ですが、その顔をみたとき、少し嫌なことを考えてしまいました。もし、この額縁に最初から何の絵も飾っていなかったら。
子どもの頃の父にだけ、「反射する何者か」の姿がいつも写っていて、その顔がおどろおどろしい顔をしていたら。
なんとなくですが、祖父母と叔父が訝しげな顔をしていた理由が分かった気がしました。
まあ、気づいてからはその額縁を見てはいないんですけどね。というか、見る気になれません。なにか、反射してしまいそうで。
創作怪異談 うがやまかぶと @tsukanomaai
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