第10話

 吐瀉音の様な、悲鳴の様な曖昧な音と共に血煙の渦をライルは確認する。

 本日の討伐は終わった。後はこの者たちの持ち物を探って、証明になるモノが無いかを探すのみだ。

 半刻程拠点を探った時、焼いた後がある金属箱から人の小さな息と声を耳を拾った。

 箱を開けると、はたして全裸に近い格好をした幼女が息を潜めていた。

「…無事か?」

 面当を上げて、己の瞳孔を少女の目線へ重ねる。

「あの… どうして… 燃やしたの?」

「この者たちは罪人だ。ただ邪な愚行を重ねただけで殺すしか許されない存在なだけだ」

「でも… あんなに苦しすぎそうに声が聞こえるなんて… 私は怖い目に会わされたけど…」

「俺を悪鬼だと俺自身が死ぬまで蔑んでも構わん。それよりも温かい格好をしてこの場所を去るか」

 ライル自身も己は人を捨てていると自覚している。しかし、目の前の小さき存在に対しては手を差し伸べるべきだと直感が語った。昔の救われなかった頃の自身への贖罪になれば、と頭の片隅で自覚の無い考えが浮かんでいたのもある。


 なるべく上等な服とお手つきの無いパンを与えて、護衛を兼ねて慎重に幼女を出口へと導いた。

 鎧に備わった念話の力によりイレインと護衛達の馬車は既に目の前で脱出を待ち続けていた。

 幼女は馬車で保護されて毛布に包まり、冷たい紅茶を飲まされて落ち着いた様だ。

「ライルも乗って行く?」

「遠慮する。夜もまだ半ばだ。野宿でもしながら気になる箇所を調べる」

 手出し無用の雰囲気を重く撒き散らし、ライルは来た道に踵を返した。


「あの子はいつも自分だけで完結し過ぎる。でも、そこが良いのよねぇ」

 誰にも聞かれないようイレインはそっと呟いた。

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Iblim外伝 「潰滅の騎士」 沼モナカ @monacaoh

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