第8話 幸
「凛くん、おはよう.....!」
私は梨花ちゃんを連れて、彼が入院している病院にやってきた。
「....はよざいます....。あ、どうも」
梨花ちゃんを見ても、彼はいつも通りの表情。
「いやいや、もうちょっとあるじゃん。あ、林山さんすか。来てくれたんすね。とかもう一言ぐらい頂戴よ」
彼女もいつも通り、きれいにツッコむ。
「あ、すんません。林山さんすか。来てくれたんすね」
「そのまんま言うんかい。少しは文章変えんかい」
彼女のツッコミのキレは鋭くて、場を盛り上げてくれる。これなら、いつもより彼の笑った顔が見れそうだ。
「すんません。じゃあ、椅子に座ってください。なんか、飲み物いりますか?」
彼がベッドから降りて、動こうとした。それに気づいたのか、梨花ちゃんが私よりも先に声をあげた。
「じゃ、座らせていただくね〜。ドリンクは後で買いに行く予定なんだよねー。さーちゃんと。どう?羨ましいっしょ」
彼女は私の肩に手を置き、さらっとかっこよく彼に負担をかけないように振る舞った。
「いや、別に」
彼は冷たい声でそういったけど、少しだけいつもより顔が不機嫌そうだった。
「あ、嫉妬してるな?ごめんごめん、冗談だよとは言わないけど、ノリだよノリ」
「そうそう、ノリだよ凛くん」
私も笑いながら、彼女の振る舞いに乗った。凛くんが次にどんな言葉を発するのか気になったのだ。
「いいっすよ別に。俺はいつも咲笑ちゃん独占してるんで」
「え」
彼の発言に、私の顔が熱くなった。突然そんなセリフをぶっこんでくると、心臓が危なくなる。
「.....空先さ....さーちゃんのこと...まじで大好きなんだね....」
梨花ちゃんが感心したように、かつちょっといじるような口調で言った。前の凛くんだったらこんなことを言う想像がつかないのは、梨花ちゃんの方が私よりも感じているはずだ。
「そうっす」
彼女の嘆きに普通に答える彼も、前だったら想像がつかなかった。
「そういえば、今日呼んでる人いるんすよ」
「呼んでる人.....?」
彼が話の風向きを変えた。彼が人を呼ぶとは珍しい。友達だろうか、それとも親戚?どちらにしても珍しい。
「え、もしかして.......愛人?」
梨花ちゃんが今度はボケた。それも結構なボケ。
「なわけないじゃないっすか。俺には咲笑ちゃんだけっすよ」
またも、キュンとするセリフを入れてくる凛くん。彼女のボケのおかげで、バラエティ豊かな胸キュンセリフを聞ける。ありがたい。
「じゃあ、誰呼んだのよ」
彼女が今度はふざけるトーンではなく、真面目に聞き始めた。
「知ってる人っす」
「.....知ってる人....誰だろう...」
私達が共通で知ってる人なんて、学校の人しかいない。かつ凛くんも名前と顔を把握している人。私は一人しか出てこない。
その時、病室の扉が開いた。そこには私が想像した人が立っていた。
「あれ、もー咲笑たち来てたん?」
部活のTシャツを着た駿河だった。夏の暑さのせいか、汗が滲んでいる。でもなんで駿河が?凛くんとそこまで仲がよかった記憶はない。何回か彼と話したって言ってもいいかは分からないが、一緒な空間でおしゃべりした程度だ。それに二人はピリピリしていたはず。
「え、空先よ、呼んだって......駿河のこと?」
梨花ちゃんは状況が掴めない様子だった。それは彼女だけでなく、私も。
「そうっす。俺が呼びました」
「え、なんでなんで?そんな仲良かったっけ?それにそれに、普通に恋敵じゃん!」
梨花ちゃんは、駿河と凛を交互に見た。彼女が言っていることは正解だ。それにいつの間に連絡先を交換してたんだか。
「...なんか、林山さんだけに言ったらなんか、仲間外しなんじゃないかと思って」
そう彼が言った瞬間、駿河の目が潤んだ。プラス、梨花ちゃんの目も潤んだ。
「空先ーー!!!!........っ....俺...を....そんなに大切な....仲間だと.....っ....思ってくれてたんだな...っ....」
駿河が凛くんに泣きながら飛びついた。多分演技だと思うけど。でも、彼にとっても凛くんはそんな発言をするとは思ってなかったのだろう。あのときの睨み合いを思い返せば、こうやって仲良くしている二人を嬉しく思う。
「......ま...あ...」
「.....空先....成長したね....っ...」
梨花ちゃんが凛くんの肩に手を置いた。彼をずっと見てきた彼女にとっても、嬉しいことなんだ。
その時、私の手元にあるスマホが振動した。画面を見ると母からだった。
〈咲笑、凛さんの病院教えてくれる?今から行こうと思ってるんだけど。一緒に行こうとしたら、咲笑もう家出ちゃってたじゃない?〉
私はすっかり母を凛くんに合わせるのを忘れていた。梨花ちゃんにも話をする、ということを念頭に置きすぎていた。
私は病院名を打ち、彼の病室の番号も伝えて、メッセージを閉じた。
「....凛くん、もうすぐここにお母さん来るんだけど、いいかな」
「え、あ、いいっすよ」
彼は少し緊張し始めたようだった。そりゃそうだ、彼女の母親に会うのだから。私も初めて彼のご両親に会ったとき、ものすごく緊張した。
「.....咲笑のお母さん来んの?.....めっちゃ緊張する...」
謎にまだ凛くんに抱きついている駿河が緊張し始めた。なんで。
「駿河よ、結婚の申し込みをするわけじゃないんだぞ。ましてや、さーちゃんの彼氏は空先だからね。なに緊張してんのよ」
彼女は再び椅子に座って、今さっき彼から離れたばかりの駿河に目線をやった。
「べ、別にそんなこと分かってるし!!でも緊張すんじゃん、好きな人のお母さんなんだから!」
「またあんたは堂々とそういうこと言う。素晴らしいよ。かっこいい」
「へへ、そーだろ」
この二人のテンポにはついて行けない。この駿河の私に対する気持ちは、もう慣れてしまった。私が慣れても、凛くんが慣れなきゃ意味ないけども。
「駿河、彼氏は俺っすよ」
その凛くんの静かな圧に、駿河は若干冷や汗をかいた。
「......うっす......」
「......でも」
少しの間を置き、彼は言葉を発した。その接続詞に、わたしたちは静かに耳を傾けた。
「......結婚か.......」
彼は静かに透き通る声で呟き、遠い目で私を見た。
その目は何を考えてる?いつもの彼からは読み取れない暗くて、でも澄み切っている瞳の色。
私は彼にその心情を聞く勇気はなくて、ただ目を逸らして現実から遠ざかることしかできなかった。結婚なんて、彼にとったら自分がいない未来を想像させられていることと同じだ。
でもその気まずさを壊すかのように、下を向いたまま駿河が口を開いた。
「結婚しようよ」
「........は?」
駿河以外の私たちが全員口を揃えた。誰に対してのプロポーズなのか。現在の駿河の好意を考えれば私に、ということになるけど。
「結婚しようよ。好きな人と永遠の愛を誓い合って、でもたまに喧嘩して、でもそれでも大好きで」
いきなりの駿河の真剣な眼差しに、私達は声も出なかった。
「空先がこの先いなくなるってことが俺たちにとってどんだけ悲しいことかなんて分かってるよ。咲笑なんて俺らよりももっとだ」
彼が私の方に視線を向けた。こんなに必死になった彼を私は見たことがない。
「でも、咲笑にとって空先は結婚したいくらい大切な大切な人なんだよ。それは、片思いされてたときから、空先も分かってんだろ?」
「...........そうっすね....」
「....空先なら、咲笑が結婚するの.........許す..」
駿河は声を小さくしながら、再び座った。
「.......ぷはっっ!!......ちょ、駿河!なんであんたがさーちゃんの親みたいになってんのよ、ははは」
梨花ちゃんが少しの沈黙を破って吹き出した。それにつられて私の頬も自然と緩む。
「は!?いや、別にそんなつもりねぇし!!でも、梨花もそう思うだろ!?」
「いや、それはさーちゃんの親が決めることだから!!」
「でも、でもさ!!!」
二人が再び言い合っている。またいつものテンポが帰ってきた。
私は凛くんに視線を向けた。彼はどんな表情をしているのか、考え込みすぎていないか気になった。
彼は彼女たちを見ながら、泣きそうな愛おしそうな顔をしていた。その顔が儚くて、美しくて、愛おしくて私はまた見惚れてしまった。そしたら気づいたら体が動いて、私は彼の横に立っていた。
「咲笑ちゃん?どうしたんすか?」
彼はゆっくりと私に顔を向け、下から私を見つめた。
駿河と梨花ちゃんはまだ言い合いをしていて、彼女たちは私のことが見えていないみたいだ。
私は両手を彼の頬に当て、少し引っ張った。
「凛くん、もっと笑っていいんだよ」
彼は驚いたような表情を見せながら少しだけ笑った。それに彼女たちも気づいて私達に視線を向けた。
「そうだ、もっと笑え!笑ったら幸せがやってくるんだぞ?笑う門には福来るってな」
駿河がはっきりとした声で、凛くんをしっかりと目で捉えた。
「これには私も同感。空先、もーっと笑いな。笑えなくても私達、特にさーちゃんが笑わせるから」
梨花ちゃんも駿河の言葉に頷きながらそう言った。その彼女の言葉に、凛くんは口を三日月型にして、優しく笑った。
その時、病室の扉が開いた。
「咲笑ー、ほんとに先行かないでよね..........って......あら、梨花ちゃん?!......と...」
お母さんが大きな袋を抱えて顔に少しの汗を流しながら病室に入ってきて、梨花ちゃんの隣にいる駿河に目を移した。
「おはようございます、はじめましてになるのかは分かんないんですけど、木下駿河です!」
駿河が椅子から勢いよく立ち上がって私のお母さんに勢いよく頭を下げた。
「あらぁ、駿河くん!!咲笑から話をちょくちょく聞くのよ〜。大きくなったわね〜」
「全然ですよ、お会いできて嬉しいです」
駿河はさっきの緊張した様子はなく、少年のような無邪気な笑顔になっていた。
母は駿河ににっこりと微笑み、梨花ちゃんに久しぶり、相変わらずかわいいわねと言うと、視線を凛くんに移した。
「...はじめまして。咲笑の母です。いつも咲笑がお世話になっています」
母は少し声のトーンを落として、でも空気は暗くならないように凛くんに挨拶した。
「はじめまして。咲笑さんとお付き合いさせていただいております、空先凛です。お会いできて本当に嬉しいです」
凛くんは、駿河とは逆でさっきよりも緊張した面持ちで母に挨拶した。
でもその後、母は病気のことに触れて良いのか分からず、おどおどしていた。それに凛くんが気づき、椅子に座るよう促してから、自分の病気について話始めた。梨花ちゃんも、私がざっと話した程度だったため、背筋を伸ばして聞き始めた。
「...咲笑さんから聞いていると思いますが、俺は氷体病という病気です」
「....うん」
「...この病気になる確率は、十%です。それに俺はかかってしまいました。原因は不明で、この病気は最終的に身体が、心臓が氷に覆われ、凍って死んでしまいます」
彼の淡々と話す口調に、母は戸惑いながらも彼から目を話さずに聞いている。
「...俺はもうじき必ず死にます。だから、咲笑さんに選択を迫りました。俺と別れるか、別れないか。......そしたら咲笑さんは、俺から離れないと、そばにいると言ってくれました。......それが俺が生きる勇気になっています。......本当にありがとうございます」
凛くんは私を一瞥してから、母に頭を下げた。その様子に、梨花ちゃんが暖かくほほえみ、右目から朝日に照らされた雫が溢れた。
「......凛さんは......咲笑で、いいんですか?......」
母が私の頭を撫でながら、彼に聞いた。付き合う相手が娘であっていいのかを聞いているというよりかは、最期を過ごす相手が娘で嬉しいのかを聞いているように聞こえた。
「...俺のわがままかもしれませんが...咲笑さんがいいんです」
凛くんは澄み切った瞳で母を見つめた。私は彼の自信のある晴れ晴れとしたこの表情を初めて見た。
「.....でも、咲笑さんにとって、辛いことが多くなるかもしれません。精神的にしんどくなるときが必ずくると思います。..........俺は....咲笑さんの隣にいても...いいですか?」
彼がさっきよりは不安そうに、でも前を見る目で母をもう一度見た。
「......咲笑は...凛さんがいてくれることで...幸せだって思う瞬間が増えて...毎日が本当に楽しいと思うんです...。だから...咲笑の隣にいてください...」
母が涙を溜めた目で凛くんを見た。それを見て彼は少し微笑む。私もそれを見て微笑む。これが愛なんだと思った。お互いがお互いを思い合うことが。
「......っ......っ....感動....した...っ....」
突然駿河のすすり泣く声が聞こえた。
「あんた....なんで泣いてんのよ」
梨花ちゃんが駿河の顔を覗き込んだ。梨花ちゃんも若干泣いてたのに。
「恋っていいなって....思ってさ....っ....」
駿河の単純だけど深い発言に、私達は顔を見合わせて笑った。
「あらあら、ふふっ。駿河くんは相変わらず面白いわね」
母が駿河を見て懐かしそうに笑った。駿河は少し照れている。
「......じゃあ、私はお暇しようかな」
「え、もう行くんですか?」
母が椅子から立ち上がると、梨花ちゃんが声をかけた。
「ええ。この青春を大切にしなさい?」
母はそう言い残し、じゃあね、また来るわと言って、病室を後にした。
少しの間沈黙が流れた。多分みんなそれぞれが、さっき母が言った言葉を心に留めているんだ。
母が言った青春とは、こうやってたくさん友達でふざけ合って、泣いて、笑いあうことなのだろう。青春はいつか終わる。でも、私達の青春は他の人よりも早く終わる。それを母も理解しているからこその言葉だったのだろう。
「....じゃあみんな、トランプしようぜ!」
またも駿河が沈黙を破って、唐突な提案をし始めた。
「....え、駿河、部活は?」
梨花ちゃんが駿河の服装と、病室の時計を順番に見た。
「あー、この服さ、楽だから着てきただけー。部活は明後日からあるんだよなー謎に」
「ふーん、じゃ、いっか!トランプしよ!」
梨花ちゃんの言葉に私たちは賛成し、駿河が持ってきたトランプを卓上に並べた。
駿河が配り、各々が手持ちカードを整理すると、気合に満ちたゲームがスタートした。
「......じゃあ、これ!」
梨花ちゃんが駿河の札を抜いた。表情から察するにまだジョーカーは引いていない。まあ、そもそも私が持っているからあり得ないんだけどね。
「はい、さーちゃん。取ってみな」
梨花ちゃんがわざとらしく、扇状に揃えられた札の一枚を飛び抜かしていた。そんなことをしなくても私が持っているのに。
「じゃあ、これを取らせてもらいまーす」
私は梨花ちゃんの意図的な計らいに乗って、飛び抜けたカードを取った。ダイヤの五だった。
「はい、じゃあ凛くん取って〜」
私は普通に札を扇状に並べて凛くんの前に差し出した。こうやって普通にする方がバレにくいんだ。
「.....咲笑ちゃん。どれ取ってほしいっすか?」
「.....え、え?」
凛くんが私の目を見つめてきた。それに誘われてジョーカーの札に目をやってしまった。
「.....じゃあ.....凛くんから見て右から三番目」
私はジョーカーの場所であるところを言った。自分からジョーカーを取ってくれるなんてありがたい。
「......わかりました」
そう言うと、彼は私が言った場所ではなく、彼から見て一つ左を取った。
「.......え」
私が彼の行動にびっくりしていると、彼は取った札を見た。
「やっぱり、咲笑ちゃんは正直だからそうすると思ってました」
そう言って、駿河に自身の手持ち札を向けた。
やっぱりとか言っちゃって、凛くんは私がジョーカーを持っているのを見抜いてたってこと?
「空先、俺はお前には、負けないぞ」
「.........はい」
凛くんの手持ち札を駿河が真剣に見つめている。大丈夫だ、駿河。そんなに怖がる必要はない。
「......よし、これだーーー!」
駿河は右端を取った。
「よし、やっぱり俺の勘は正しかった。俺あと四枚」
駿河は同じ数字のカードがあったらしい。とは言っても、駿河はもともと持ち札が少なかった。
「よし、梨花、取るがいい。それによって俺の札が三枚に」
「じゃあこれとるね」
駿河の言葉を最後まで聞かず、さっと梨花ちゃんは札を取った。
「おい!最後まで聞けよ!」
「はい、じゃあさーちゃん取って〜」
「.......さあ......取ってください......」
梨花ちゃんと駿河が先にあがり、私対凛くんのタイマンになった。
私は二枚、凛くんは一枚。そして、私がジョーカーを持っている。
「はい」
なんと凛くんはジョーカーを取った。
「お、お、お、おおおおおお!!!!」
駿河が私たちを交互に見つめてはしゃいでいる。
でもはしゃいでる場合じゃない。だって次、また私がジョーカーを引くかもしれないのだ。
「.......じゃあこれ」
私が引いたのは、まさかのジョーカーだった。何回私のところにくるんだ。
「わああああああああ!!!!!」
今度は梨花ちゃんと駿河が同時に叫んだ。
すると、凛くんがまた私の目を見つめてきた。この目に弱いんだよなあ。
「.....咲笑ちゃん。どっちを取ってほしいっすか?」
また同じ質問だった。これはもう心理戦だ。さっきと同じ様にするか、それとも嘘をつくか。
でもさっき彼は、やっぱり咲笑ちゃんは素直だと言った。ということは私がさっきと同じことをすると思っているのだ。同じ手には引っかからないぞ。
「....じゃあ、凛くんから見て......左」
私はジョーカーじゃない方を示唆した。さあ、凛くんは引っかかるのか。
「じゃ、取りますね」
そう言うと、凛くんはジョーカーじゃない方を取った。
「えええええええ!!!」
私の手元に残ったジョーカーを見つめて叫んだ。なんで引っかからなかったんだろう。
「咲笑の負けだー!」
駿河が私に拍手した。普通凛くんにするでしょ。
すると凛くんがジョーカーを見つめている私に声をかけた。
「さっきも言ったじゃないっすか。素直だ、って」
「だからさっきとは違う手法にしたのにー」
「俺が引っかからなかったから、今度は引っかかるようにするんだろうなって思ってました。素直だから」
凛くんは意地悪に少し笑った。
「やっぱ空先頭いいねー」
梨花ちゃんが腕を組んで、凛くんを見た。ババ抜きにも、頭の良さが関係するのか。
「じゃ、咲笑罰ゲームなー」
「え!?罰ゲームあるの?!」
駿河の言葉に私は立ち上がった。
「おう!言ってなかったっけ」
「言ってない言ってない!」
「まあ、いいじゃん。やろやろー。駿河が変なの提案してきたらぶん殴るから」
梨花ちゃんが何かと守ってくれそうなので、承諾することにした。それに梨花ちゃんでも無理っぽいときは、凛くんがいるから大丈夫だ。
「じゃ、今回の罰ゲームは...........」
駿河の言葉に私達みんなが注目する。虫を触るとかだったら絶対断る。モノマネをするってきても同様。マシなのにしてくれ、駿河。
「......空先の好きなとこを一つ言う!」
「..................え?」
私たちは声を揃えて目が点になった。
「.......それ、駿河が罰ゲーム受けてるみたいじゃん。....いいの?」
梨花ちゃんが駿河の目を不安そうに見た。普通に考えて、好きな人が好きな人の好きなことを言うのは、精神的にきついはずだ。それを梨花ちゃんも懸念したのだろう。
「いーよ別にー。だって二人は付き合ってんだからさー」
駿河は少し口を膨らませてそう答えた。駿河なりに考えた決断だったのだろう。
「.....そっか。.......じゃあ、さーちゃん、どーぞ!」
「え、ええ........ええ」
いきなりそう言われても、心の準備ができていないのに。
ちらりと凛くんの方を見てみた。私の方をじっと見つめていた。そんなに見つめられてたら答えづらいじゃんか。
「緊張するよね......!」
梨花ちゃんが私を心配そうに見つめる。凛くんだけじゃなくて、ほか二人にも見られていると、さらに緊張する。
でも私が負けたんだからこの罰は受けないといけない。
「......凛くんの好きなところは...........すぐ顔が赤くなるとこ......!」
私は凛くんの方を向いて少し大きめに言った。
しばらく沈黙が流れた。なんか変なこと言ったってしまったんじゃないかと、不安が頭によぎる。
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