充実した青春を謳歌していたところなんですが!?

瑞夏十鈴(どーなっつ)

第1話 怖すぎる告白


 そこは屋上で、僕は誰とも知らない誰かに呼び出されていた。


「あ、あ、その——」


 知らない女の子が緊張した面持ちで自信なさげに、僕に話しかけている——

 誰しもがそう思うだろう。

 しかし現実というものは奇なり。


 そうではなかったのだ。

 

 腕を組み、僕の目を捕食者のような目で睨みつけ、今にも殺されそうな——そんな感覚である。


 正直、ビビっている。非常に怖いです、はい。


「つ、付き合ってあげるから。感謝して」


「は?え、それってどういう——」


 脈絡もない言葉に度肝を抜かれていないといえば嘘になる。

 そりゃあ抜かれるさ。だって意味が分からないし。というか知らない人だし、怖いし。


「じゃあ、明日からカップルってことで。そーいうことだから!」


 次の瞬間、彼女はこの場から姿を消した。

 もちろん屋上の扉は豪快に閉める。

 その余韻だけが辺りに残り、また沈黙が顔を出した。


「そーいうことってどういうことだよ——」


 あまりにも強引だ。

 強引すぎて流石にあれが本当の告白だとは思えない。

 おそらくは何かの罰ゲームかそんなところだと思う。いや!切実にそう思いたい!


 いや、というか——


「僕、彼女いるし——」


 これで本当だったら普通に二股じゃないか。

 そんなことあってはならない。


 何事もなく青春を謳歌していた僕いきなり大ピンチだろ。


「とりあえずあの子に話を聞きに行かなきゃな」


 言うと、僕は急いであの女の子の後を追ったが、とうとう見つけられなかった。

 そうこうしている中でメッセージを伝える通知音が僕の右ポケットから響く。

 それは交際している彼女の比奈からだった。


『一樹くんどこいる?用事は終わったかな?』


 僕は即座にアプリを開き肯定の意を返信した。

 それから10分ほどが経った頃、彼女と合流し帰路に着く。


「いやー!今日も疲れたね!」


「うんまあ。そーだなあ疲れたな」


 中身の無い会話から学校生活の雑談、それからどんどんと話が移り変わっていく。いつものように。

 結局比奈の家に着くまで話題が途切れることはなかった。


「じゃあ、またね!一樹くん!」


 幸せそうな笑顔で手を振る比奈。

 僕もそれに合わせて手を振り返すと、更に嬉しそうな顔になって比奈は手の勢いをブンブンと強めた。


 僕はある程度のところで手を止め踵を返し、ゆっくりと帰路に着いた。


「はあ」


 なぜだかとても大きいため息が自然と吐かれた。

 今思うとそれはこれからの苦労を予感したような——前借りのため息だったのかもしれない。


 ★


 次の日、学校の校門で話しかけられた。

 僕に罰ゲームの告白(たぶん、おそらく、きっと)をしてきたあの少女に。


「あんた、おはよう」


「あ、お前!昨日僕に告白してき——」


 そこまで言ったところで言葉が詰まった。

 いいや、言葉を封じられた。


 だって次の瞬間にはこの女子は僕の胸ぐらを掴んできていたのだから——いや怖いよ。


「お前じゃない——私には長原彼方っていう名前があるんだけど」

 

「あ、ああ。ご、ごめんなさい」


 僕は平謝り。まるで命乞いをするかのように謝り尽くした。

 だって僕は非捕食者だ。それくらいしかできることはないのだ。


 すると彼女は掴んでいた胸ぐらを吐き捨てるように離してくれた。


 一つ文句を言わせてもらうと、彼女改め長原彼方も僕のこと『あんた』って言ってるからそこはおあいこなんじゃないかなあ——


 と、その時ギロリと睨まれた気がするので、やっぱり嘘です。


「な、長原さんに聞きたいことがあるんですけど」


 僕は意を決して言葉を紡ぐ。


「何?あと彼方でいいよ」


「いや、その——昨日僕と屋上であったじゃないですか?その時の話なんですけど」


「は、はあ!?そ、その話を蒸し返す気?ふざけんな!」


 気付けば長原の顔が茹蛸みたいに赤くなっていた。

 え?もしかしてこれ地雷踏んだ?


 や、やばあ。


「あ、あんた次その話を蒸し返したら、ただじゃおかないからね」


 気付けばまた先程と同じ体勢、つまり僕は胸ぐらを掴まれていた。


「は、はい」


 何かよく分からないがこの話はしてはいけないらしい。

 

 じゃあもう、ストレートに聞くしかない。


「あの、じゃあ一つ聞きたいんすけど——どうして僕に——」


 告白したんですか?


 その一言を言い終わる前に、新たな来客が来た。

 それは最悪の来客だった——


「い、一樹くん!?大丈夫?」


 僕の彼女の比奈だった——

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充実した青春を謳歌していたところなんですが!? 瑞夏十鈴(どーなっつ) @omusubioishi0807

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