第2話 運命の人‥‥‥?
『運命の人』は前回の作中のこちらに掲載されております。
https://kakuyomu.jp/works/16818093084038552052/episodes/16818093084438391406
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その後無事お風呂に入り、脱衣場でお母さんが居たから来ていた服を渡したら『くぅっさ』って言われてしまい、別枠で洗濯することになった。私は入念にシャワーを浴びて湯舟に浸かり、部屋に戻ってきたら阿須那が遊びに来ていて、私のベッドで自分のスマホを見ながらゴロゴロしていた。
――――多分さっきの話が聞きたいんだろうなあ。江崎君と帰ってきた経緯とか。
目当ては案の定だった。
今ふと思い出したぞ、私の進化を。
この時は既に、定は(じょう)と読めるようになっていた。
ついこないだまで私は漢字で書かれた『案の
――――ごめん、ただそれだけ。
私は勉強机兼万能机で髪をドライヤーで乾かしながら全部話した。
あの時の江崎君の写真、実は後で写メで送ってもらった。
「恥ずかしいよ」って言われて最初拒まれたけど、『私も変な意味じゃない(エロいことじゃない)恥ずかしい写真送るから』と言って交換条件で送ってもらったけど、私のは未だに送っていない。
たまに『セコイ~』『信用問題だ』と冗談を言ってくるけど、一応私も可能な範囲で送れる恥ずかしい写真を探している。
だけど色々考えると選抜が難しい。何よりドン引きが怖いし、インパクト薄も『はあ?これの何が?』って言われてもつまらない。
だから未だに送れていない。送る送る詐欺をしている。ちなみにこの時に阿須那から送る写真の候補を選抜されたが即効で却下した。何故なら引かれるから。
『ねえ、阿須那、これちょっと見てよ』
私は自分のスマホを阿須那に見せる。
例のその写真だ。
『なあに?‥‥ふわっ、可愛い男の子‥‥誰これ?』
『さあ、誰でしょう』
『‥‥‥江崎さんの弟?』
『はあー!ニアピン賞』
『え?まさかこれ‥‥江崎さん??』
『そう、中学校の時の江崎君はこんなんだったらしいよ」
『へーっ!雰囲気が‥‥あ、でもちょっとはあるかも』
『輪郭のシャープさとかは健在よね』
『吹き出物がね‥‥』
『赤く腫れあがっちゃってるもんね。ちょっと縮小してみて』
『‥‥ああ!背も低い!』
『せやろ、高校入ってから三年間で身長が三十センチ近く伸びたらしいんよね」』
『えー羨ましい‥‥十センチ分けて欲しい』
そう言えば阿須那は身長は最初から最後まで低いままだったから、そんなぐんぐんと伸びた経験がない。
『坊主頭も可愛いなあ‥‥‥て、あれ?』
何かに気が付いた。
――――さすが阿須那。私なんかよりずっと早くに気が付いたようだ。
『ちょっと待って待って‥‥‥ええ?』
再び写真をアップにして、正面から見たり横から見たりしている。
横にして何の意味があるのだろうか?動揺した阿須那の行動に吹き出しかけた。
『え?江崎さんてまさか‥‥あの時の?』
『私も似ていると思ったんだけど、何分にも昔の記憶でしょ?それにもっと分かりやすい髪型だったら良いんだけど、坊主じゃあ顔似てくるかなーって』
『モヒカンとか?』
『それは分かりやすすぎて怖いよ‥‥しかもモヒカンにしている小学校低学年て』
しかし一歩間違えたら、江崎君の組んでいたバンドでなら、有り得たかもしれない。
『え?お姉ちゃんちゃんと訊いて確かめた?』
『確かめてない』
『なんで確かめないのよ?』
『だって、違っていたら変なプレッシャーじゃない?』
『そうかなあ、だって組紐で背の低い坊主頭の男の子でしょ。結構絞れていると思うけどなあ』
『絞れているようで絞れていないでしょう。よくあるって‥‥‥』
『うーん‥‥‥‥』
阿須那も考えている。
私の訊けない理由は江崎君にプレッシャーを与えるからなんかではない。何もプレッシャーなんてない。本当の理由は私自身の心だ。
今でも本当にヤバイ。フッと行ってしまいそうになる。けど自分の置かれた状況を考えるとそんな時じゃないし、全然釣り合っていない。何分にも汚れだから。
シャワーを浴びてお風呂につかっても、皮膚の上に付いた汚れは落ちても、心についた汚れは落ちない。
落ちていたとしてもまだ付いているんじゃないかと思い込んで強く出れない。
それが心の汚れ。
遠い昔の話だとしても、これ以上江崎君が『運命の人』のような存在だったとしたら、その部分がどんどん膨張して私の頭の中で膨らんでずっとずっと考えてしまう。
でも素直に行けない。そうなると板挟みで辛い。想像しただけでそれこそ精神的に不安定になる。
簿記の試験が今年中に二つもあるのに、そんな不安定な気持ちになりたくない。数字を扱うのだから気分や情熱よりどれだけ冷静に計算と集計ができるか、だから。曖昧な、もやっとしたことばかりに少ない脳みその面積を取られたくない。
その時、阿須那が凄く悪い笑顔になった。
――――は!マズイ!
『ダアーッ!』
『キャーッ!何で分かったん??』
私はベッドの上の阿須那に覆いかぶさるように乗っかった。私の身体の中で丸く包まって私のスマホを取られまいと守るが力比べとなるとそうはいかない。背後から羽交い絞めにする。
『分かるわ!何年姉妹やってる思ってんのん??』
『ああ‥‥うう‥‥あー!持って行かれたーお姉ちゃんのケチ!』
『当たり前じゃい。人のスマホ使って江崎君にメッセージ送ろうとすな!』
パワーの差は瞬殺で私の勝ち。大人と幼児みたいなものである。何とか私のスマホを奪われまいとしたが、力技で取り返した。ぶーたれる阿須那。
――――本当に全く、油断も隙もない。危うく勝手に成りすましてメッセージアプリで何かを送られかけたわ。
ということは阿須那はまだ江崎君のアドレスを知らない。交換しようと思えば花見の帰りに車内でできたかもしれないが、江崎君はそんなことをする人じゃない。
やっぱりそうなんだね。信じて良い人というのはとことん安心させてくれる‥‥
『お姉ちゃん、さっきメッセージアプリの中に<私も変な意味じゃない恥ずかしい写真送るから>ってあったけど、これ送ったら?私写メ撮ってあげるし』
――――へ?
阿須那を見たら私への第二弾の攻撃が既に始まっていた。
それは私が折を見て捨てようとベッドの下に小箱に入れて隠していた黒歴史時代のチェキで撮ってもらった写真。
それは今の私にとって見たくもない最悪な写真。
吉川と付き合っていてまだ間もない時にパーティーで撮った私の写真は、髪の毛金髪でこの上なく化粧が濃くて、それで複数枚あるそのどれもがヒョウ柄の下着が見えている。
そんな中でも私が顔の片側を顰めて、舌を出してメロイックサインをしている私。
――――こんなのがいいと思っていたんだな、この時代は。
『阿須那ー!何で知ってるねーん!犯してやる~!』
半分冗談の半分本気で再度阿須那の身体に飛び掛かり、押し倒しあちこちくすぐる。
『ヒャ―やめてやめてやめて!!くすぐったいよーアハハハ!!』
『これか~これか~これがええのんかあ~??』
過去にセックスをしたときに誰かに言われた言葉を思い出して阿須那をひたすらくすぐる。
――――誰と誰が言ったかすら覚えていない。やっぱり私は汚れ‥‥
ふと暗い影が私を覆うが、そんなことは微塵も感じさせずに逃げようとする阿須那を抑えつけてくすぐった。
――――南川君て‥‥結局どうなったんだろう‥‥
『ギャハハハハハーッ!止めてーッ!くすぐ‥‥くすぐったすぎる~~!!』
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南川君はこちらに出てきます。残酷描写、暴力描写がありますので、ご注意お願いいたします。
https://kakuyomu.jp/works/16818093083999233254/episodes/16818093084006050622
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