まずは頭の中に

第4話 AA08グリフォン

 全くもって不満であるが、決定に逆らうわけにもいかない。昨日はやかましく声をかけてくる同部屋の人間を無視する作業をしながら渋々早々に寝床へついた。


「よう、シュン。今日はどこから回るんだ?」


 その作業は今日も続いているが、今日は基地内研修日。

 基地内の構造を理解し、以後の訓練及び任務に素早く対応ができるようになるための一日。

 逆に言えば今日以降、基地内の構造はすべて理解しているとみなされるため迷子等での遅刻することは許されない。

 大変重要な日なのだ。少なくともこのようなやつに付き合ってる暇は……


「おい、シュン。いい加減その冷めた態度はやめてくれよ。俺達はここを出た後もエルロンを組む相棒なんだぜ?」


 ……おい、いまこいつはなんといった?


「何だその面食らった顔、まさか、一昨日配布されてた行動計画表に目を通してなかったのか?」


 即座にホビーを開き、入隊式前の行動計画表とやらを表示させる。

 そこにはたしかに、しかし章の末尾小さく記述してあった。


『なお、こうのとり船内で隣り合った席の人物が、貴官と今後バディとなり飛行編隊エルロンを組む人物である。機内での会合を機会に親睦を深めておくことを推奨する』


 ……何たる失態!私が、私がまさかグリフォンの仕様書に浮かれてこんな重要事項を見逃すなど、あってはならないインシデント。

 ソラでの戦いで、二機一組ツーマンセルは基本!

 つまり、今後私が快適にソラを舞うためにはこいつと、共に翼を広げなければならない。

 しかし、出会いは私の意図的な誘導によって最悪!

 全く持って何たる失態だ!

 関係修復に努めなければ。性急に、そして、2度のミスなく、だ。


「まさか、そんなわけないだろマルセイユ君。少し考え事をしていただけだ。ところで、マルセイユ君何処か先に回りたいところはあるか?君に合わせよう」

「手のひらくるっくるだな、おい……まあいいさ。俺のことはキースでいいぜ。とりあえず……格納庫、だろ?」


 ……なんだ。

 こいつ、わかってるじゃねえか。


「よし、いこう。私も、そう考えていたところだ」

 

 関係修復は、案外容易かもしれない。


 時折星空が覗く長大な通路を抜け、航空格納庫と書かれた電子案内板の方へ向かう。

 扉の中に入ると灰色の空間を四方八方から燦爛と照らす白い光たちが出迎えてきた。

 一歩踏み出せば無重力空間であるそこに、彼女たちは鎮座していた。

 

 まず、周囲の入り口から見れば壁となる部分に並んでいるのが、前世代機AA07『巨神ヘラクレス』。

 機体下部を包み込むような巨大な全翼形状にV字の垂直尾翼が立っている。

 車輪の間には武装格納庫ウェポンベイが配置されその積載量は地球で争っていた頃の戦術爆にも劣らない。

 当然、当時の技術力を結集させて作っているため推力重量比、旋回速度共に優秀だ。


 しかし、それらを超越し格納庫の底面に照らされ、輝いているのが彼女たちだ。

 

 Attack and Airfighter計画第08世代量産機。

 通称、『AA08』愛称は『狗鷲グリフォン

 

 中央部に細長い巨大なコックピットがあり、それが同時に胴体の役目も果たしていて、流れるように機体後方の機関部へ繋がっている。

 コックピット側面の開口部からはオイルが照りつき黒金に輝く口径30mmの銃身が伸びている。

 また、コックピットの流線から一体化しているように翼が伸び、少し収束したかと思えば、前進翼として美しい形を保っている。後ろからのぞけば、その翼は意外にも機関部まではつながっていない。

 機体後方に比較的突出した双発のジェットノズルは、当然のように推力変更ノズル。各所に配置されたRCS姿勢制御スラスターと共に創出される推力をもってすればこの機体を自在に操ることが出来るだろう。

 両翼端には大型のハードポイントが上下に設置されており、格納庫内に並んだ機体たちには箱状の多連装ミサイルポッドらしき武装が装備されている。

 そして、その翼の折り目部分。両翼に懸架されたそれ・・。コックピットの横まで伸びる巨砲、8.8cmアハト・アハト超電磁砲レールガン

 

 美しい……仕様書で概要は理解しているつもりだったが、彼女たちがこんなにも浪漫と可能性に溢れたものだったとは……

 

「シュン、俺ら、これで舞えるんだよな?」

「ああ、そうだな」

「最高のガールフレンドだな」

「……邪魔、するなよ?」

「シュンこそ、俺を自由に飛ばせてくれよな」

「なめるな金髪キース」


 マルセイユ、改めキースが私の視界の端でそれまで狗鷲に釘付けだった目を向けてくる。

 私も彼の方を向き直り、差し出してきた同胞の手に応える。

 

「よろしくな、シュン」

「こちらこそ、キース」

「はっ、ちゃんと人の名前呼べるじゃねえか」


 そう言ってキースは笑うと私に背を向け出口へ向かって歩き始めた。

 まだしばらく、彼女たちを眺めていると思っていた私はあわてて声をかける。


「おい、もういいのか?」

「あー?なにいってんだよ」


 まるで私が無粋であるような目を向け、キースは告げる。


「女へ会う前にせめて会話の仕方くらい学んでおくのが漢ってもんだろ。俺らはまだ、彼女の前に出るのにはふさわしくない。さっさと次の場所いくぞ」

「……たしかに、それもそうだな。いこう」

 

 流石、私の同胞だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月22日 00:11
2024年12月22日 12:11
2024年12月23日 00:11

対霧独立防衛空戦隊 ARMA  ~宇宙とかくソラの舞~ たこ爺 @takojii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画