第3話 洗礼の儀
「新兵、入場!」
先動員の号令とともに空気の抜ける音が耳を抜け、エアロックが開く。
巨大な扉が視界から消え、視界がひらける。
地球を模した青い星を覆うように描かれた黄金色の羽。
我々、ARMAの記章だ。
そしてその下、記章が見守るように白銀のプレートが正面の壁一面に広がっている。上から中段までなにか刻んであるようだが、ここからは見えない。
さらに正面、一段高い位置に、プレートを背景にして白を基調とした軍礼服を纏いマントを羽織った巨人が、我々を待ち構えていた。
階級章が示す位は、上級大将。
少なくとも天上人に間違いない。
「総員、傾注!」
号令の下、一斉に上官へ顔を向ける。
「新たに門を叩いた同胞諸君!私は、エーリヒ・フォン・ルーデル上級大将である。対霧防衛空戦隊の戦隊長を務めている」
……一言で言うならごつい。いや、正確に言うなら圧がすごい。
その場にいる全員のみが引き締まる。
心拍が狂いそうなほど体の中心まで訴えてくる漢の声だ。喉の奥に太鼓でも仕込んでいるのではないかと疑いたくなる。
戦隊長というなにふさわしい。閣下と呼ばれているならそれがしっくり来るほどだ。
立っているだけなのに威圧感で膝を曲げてしまいそうになる。
左目に深い傷跡があり前線を引いているのはわかる。慣習的に空軍に所属する元パイロットなんだろうが、人間とは思えないほど高い背、筋骨隆々な体……大剣でも振り回していたほうがしっくり来そうだ。
なんて、剣幕……
「まずは、士官学校卒業おめでとう。その腕に巻いたホビーの中にその証があることだろう。それは、確かな努力の成果である。存分に喜んでくれ……しかし!今の貴様らをARMA入隊させることは、断じてできない!貴様らが今まで飛んできたのは、地球大気圏内や地球衛星軌道上。しかしここ、ARMAの任地は、
そう言って、戦隊長殿が指したのは記章の下に飾ってあった白銀のプレート。
「ここに刻まれているのは、この
……なにをいってる。戦死者として刻まれるつもりなんて毛頭ない。最後まで、生き残ってやる。
皆が思っているだろう。誰も、口には出せないが。
「ARMAとは『Anti and Rabel to Mist Air wing』の略称。即ち!貴様らは地球連邦がアステロイドに定めた絶対防衛ラインにて、
言われるまでもない、この防空戦隊の一員として
「なにがあろうともアステロイドから先、一歩たりとも霧共を通すわけには行かん!つまり、このアステロイドをただ飛べるだけでは事足りない。同胞たるには縦横無尽に゙星の間を舞い、敵を翻弄できなくてはならないだろう。よって、貴様らにはここで一ヶ月の間さらなる習熟訓練に励んでもらう」
ほう?
つまり、合法的に安全圏で飛行できる?一ヶ月も?
ふっ……勝ったな。
「貴様らが一月後、頼れる同胞となっていることを願っている……以上だ」
戦隊長はマントを翻し、壇上から威風堂々去っていった。
その姿に思わず最後まで釘付けになっていたのは私だけではあるまい。
「これにて、入校式を修了する。今後の行動はホビー内に配信された所定の行動をとってくれ。諸君、練兵学校へようこそ……解散!」
元先動員の号令のもと、お偉方がたくさんすし詰めにされている訳でもない歓待式はおわった。一人だけいたお偉いさんがその役を全て果たしていた気がしないでもないが。
即座に確認した行動予定の中には荷物を隣りにある会議室で受け取ったあと、荷物を部屋に置いたら、残りは飯を食うも風呂に入るも自由とのことだった。
ちなみに部屋は二人部屋らしい。
できれば一人のほうが良かったんだが……まあ、使い勝手のいい優秀な同僚が横につくと思えばわるくないか。
他の同期たちはまだ雑談に興じてるみたいだが、さっさと荷物を取りに行こう。大事なものも多い。
綺羅びやかなホールを左に抜け長く続く、打って変わって簡素な灰色の通路の左側1番手前。
会議室、と書かれたホログラムが映し出されている。
ホビーに配信されていた基地内マップによればあのホールから右が来客や基地内家族の区域、左が基地及び隊員用区域らしい。経費削減はいいのだが、あまりに簡素だと士気に影響しそうだとは思わなくもない。
自動ドアが開く道を進み、部屋へと入る。
中にはズラッとスーツケースが整列させられていた。
逸し乱れぬその姿、実に機械的だ。
自分のものである紺色のそれを探し、1つ、隙間を作る。
どうやら私がこの列を初めて乱した者らしい。なんかちょっともったいないな。
……ん?いや、そうでもないみたいだな。私より早い隊員がいるとは、是非ともそう言うやつが同室だといいんだが。
まあいい、さっさと次にいこう。
えーっと、私の部屋は……この先か、居住ブロックの最奥。1112号室。
まーた長ったらしい廊下を歩かなきゃならない。
1000番台と1100番台はここか。
分岐した廊下、その先に続いているのも同じ廊下だが、かなり進んだ先にいくつかだけ、開いたままにしてある部屋が幾つか見える。
どうやらそれが我々新米達に用意された住処らしい。
他の扉はとじ切られており、開くそぶりはない。中に気配もない。それならまあ、勤務中という所だろう。
1100番から扉が開いていて、新兵を待ち構えている。
しかし、扉の開いている手前の部屋に人影はない。
どうやら先ほどの先客は同じ部屋らしい。
優秀そうな人材が横にいるということか。これはうれしい誤算だな。
そう試行しつつ、扉の中へ入ろうとしたその時。
「おー!シュン、遅かったな」
待ち構えていたのは金髪小僧、もといマルセイユ少尉。
訂正しよう……部屋は一人のほうが良かった。
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