君の心を読みたい

樋口啓田

第1話 少女の心が読めない

 心を読む。それは、できそうでできない特殊な力。この話は、相手の心を読むことができる少年八代真と、唯一心が読まれない少女簪栞のドキドキの物語。

 

 4月9日。それは僕が通う私立狭霧ヶ丘高等学校の入学式だ。狭霧ヶ丘高等学校は地域ではそれなりに名の通った学校である。学校に行くために歩いていると、

「よっ!」

そう言って肩を叩いてきたのは、僕の中学からの友人、山田哲平。通称「てっちゃん」だ。

「おはよー。」

眠い目をこすりながら僕は言った。

「いつも眠そうだな真。」

「そういうお前は元気そうだな。」

さりげない会話をしながら僕たちは学校へ向かう。教室を確認するとてっちゃんと一緒だった。

「今年もよろしくな。」

「あぁ、こちらこそ。」

2人で教室に入ると、ほとんどのクラスメイトがいた。僕は全体を見渡しながら、みんなの心を読んだ。左隅にいる女子たちは、

(わー!左のかっこいいー。)

(隣の人冴えなさそー。)

と心の声が聞こえてくる。(冴えなくてすみませんね!)と思いながらも反対側にいる男子たちを見てみると、

(誰だあいつ?)

(身長たけー。)

と心の中で思っていた。

(なんで僕の反応は毎回微妙でてっちゃんが好印象なんだ?)

と思いつつも自分の席に向かう。隣の人はまだきていなかった。荷物を置いててっちゃんと軽く雑談していると教室に女の先生が入ってきた。

「朝のホームルームをやるぞー。」

僕もみんなも席に着いた。でも、僕の隣の席だけ誰も座らなかった。

「まずは入学おめでとう。担任の橘香織だ。呼び方は好きにしてくれ。」

クールそうな先生だなと思った。

(ちょっと心を覗いてみようかな。)そう思って、覗いてみると、

(みんな若いし豊作だわー!。今年こそはクリスマスを1人で過ごさないようにしなくちゃ!。さて、どの子から唾を付けとこ...)

僕は覗くのをやめた。今日初対面なのに先生は僕の中で危険人物となった。みんなの自己紹介が始まっていき、僕の右隣の人まで来た。だけど本人はまだきておらず、先生もどうしたものかと困っていた。その時、教室のドアがガラガラと開き、1人の少女がやってきた。

「すみません。遅れました。」

彼女はそう言って自分の席についた。先生が

「お前の自己紹介の番だぞ。」

というと少女は慌てて立ち上がり自己紹介を始めた。

「簪栞です。趣味は絵を描いたり、ドラマを観たりすることです!」

自己紹介を終えた彼女は座り、隣の僕に向かって言った。

「よろしくね!」

(可愛い...)

そう思った。周りの人を見てみるとみんな

(可愛いな!)

(お人形さんみたい!)

と思っている人が多かった。興味が湧いてきて僕は彼女の心を読んでみようと思った。

(あれ?なにも出てこない。どういうことだ?)

僕は驚いた。何度も心を読もうと試したのだが、全く読めなかったのだ。

(こんな人は初めてだ!)

僕は動揺した。僕が生まれてきて心を読めないことなんてなかったからだ。今まではいろいろな人の心を読んできて、無難な人生を送ってきた。だけど、心を読めない人とのやりとりなんてしたことがなかった。僕はとりあえず

「よろしく」

とだけ返した。

僕はどうなってしまうのだろうかという不安が残ったまま入学式の1日が終わった。

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君の心を読みたい 樋口啓田 @kvenomu

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