第14話

「な…夫…?!」


「落ち着けノエル。俺もよくわからん。」


こんな展開誰が予想できただろうか。

昼間の変態が俺の後ろで腰に手を当て、元気よく夫婦宣言である。


「そうだ。私のあんなあられのない姿を見ておいて、責任を取らないなど言わせないぞ!」


…。

完全に詐欺のアレじゃん。


「俺が見たんじゃなくて、あんたが見せたんだろ。それに、アレをみて責任が発生するならこっちのノエルはどうなるんだ。」


「なっ…!まさかお前、複数人でのプレイが趣味なのか…?!ま、まあどうしてもと言うなら考えなくもないが…」


「…ちがうからな。」



…完全にお花畑のやつが来たな。

俺に対処できるのかこれ。


「し、シノノメさんにそのようなお相手がいたのは知りませんでした…そうでしたか…お似合いだと思いますっ」


「だから落ち着けって。」


ノエルは動揺を隠そうとジョッキを口に迎えるが、

手が震えすぎて顔に飲み物がバシャバシャとかかり大変なことになっていた。


うーん、これは面倒なことになったな。

まずは探りを入れてからどうするか考えよう。



「とりあえず落ち着いて話をしないか。あんたの名前はなんていうんだ?」


「私はアリシアだ!1人で冒険者をやっている。今はゴールドクラスを目指してる最中だ。」



ゴールドクラスになろうものが、あんな事やってんじゃないよ。

まぁ俺としては眼福よりの眼福だったからして文句は無いしもっとやれって感じではあるが。

…それに、シルバータグなのはちゃんと実力あっての事だろう。

もし味方にできるなら頼もしいではある。



「そうか…。アリシアはパーティは組まないのか?一人だと色々効率悪いだろう。」


今どき実力ある冒険者がソロプレイは珍しいからな。

サポートならある程度魔力さえあれば誰でも出来るが、前線で戦力になれる者はそういない。



「1人の方が効率いいし、色々と捗るからな!だから私は1人でヤるんだ。」


…。

だめだ、こいつが言うと全部そういう意味にしか聞こえない。

俺だけかと思ったが、ノエルもしかめっ面をしてるし明らかにおかしい。

これ以上は意味なさそうだ。


…ひとまず、引き離すか。


「よし、お会計だ。ノエル行くぞ。明日もあるから今日は早めに休もう。」


俺はノエルを引き連れ店を出る。

そしてアリシアに尾行されないように人混みを使って遠回りをしながら宿に戻ることにした。


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カランコロン。


「主人、遅くなってすまない。今戻った。」


「おぉ、何かあったんじゃないかって妻と一緒に心配してたところだったよ!」


おやっさんは夜の食事を終えた宿泊者たちのテーブルを片しながら声を返してきた。


…なんかいいな、こういうの。

帰ってきたって感じがして安心するわ。


「今日は色々あってな。あ、食事は…」

ノエルに視線を投げると、まだ食い足りないとばかりに頷き返す。


「少し遅れて申し訳ないが頂こう」


店主は気さくに「少しかけて待っててくれ」とカウンターの奥に消えていった。

ノエルと共に席に着く。


「ふぅ…今日は散々だったな。」


「シノノメさんはまだ鼻の下伸びてます。」


ノエルは絵に描いたようなジト目で俺を見つめてきた。

嘘つくんじゃねえ!


「まったく…明日こそは依頼を達成しよう。正直言うと戦闘は得意じゃないんだ。だから俺も感覚を掴みたいしな。」


最低限のスキルは習得しているが戦闘はほとんど経験がない。

ノエルを助けるときも、ギルティラックがなければどうなっていたことか。


「でもシノノメさんは私を助けてくれた時、珍しいスキルをお使いになってましたよね?マリオネットなんてそう使える人いませんよ?」


そうか。

このステータスウィンドウは他人には見えないしそもそも俺だけが使えるのか…ちょっとだけ優越感ってやつを感じる。


「俺はマリオネットは使えないんだ。特殊なスキルを持っててな…。」


ノエルなら信用できるし話しておいて損はないか。

俺はどういうスキルなのかを説明した。


「…。なんとも奇抜なスキルですね。運で未来を切り開くなんて聞いたこと無いです。」


「まぁな。俺もなるべくコイツは使いたくない。だから戦闘力をあげたいんだ。それに…」


記憶を失うって感覚はすごく辛いことだと思う。

普通に考えて。

死ぬのも嫌だけど、忘れてることすら気付かないで生きていくのは想像しただけでもごめんだ。

なんだかんだノエルのことは嫌いじゃない。


…コイツの存在も忘れてしまうのは嫌だしな。


「どうかしましたか?」


「ん?いや、なんでもないさ。」


魔王討伐するなんて実感わかないけど、こうやって冒険者してるのもなかなか悪くないかもな。


そんな事を考えていると店主が料理を運んできてくれた。


「少し冷めちまったから温め直したよ!」


「助かる。本当にありがとう。」


今日はシチューがメイン料理らしく、厚切りのベーコンも添えられている。

具材がゴロゴロ入ってて、ルゥも濃厚で意外と食べ応えがありそうだ。


ノエルも目を輝かせている。

ヨダレを拭けヨダレを。


「店主は料理上手だな。食事処でも始めてみたらどうだ?」


「実は昔ギルドに雇われて併設されたこじんまりとした飯処やってたんだよ。だけど今はみんなが元気に帰ってきてくれるのを待ちながら気楽に料理してる方が楽しくてな。」


なるほど。

できるならこんな歳の取り方したいわ。

性格イケメンってこういうことか。


「俺たちもしばらくは世話になる。これからもよろしく頼むよ」


素直に仲良くしたい気持ちでそう伝えると、店主はニカッと笑って戻っていこうとした…が途中で動きが止まる。

なんだ?

俺も釣られて窓のほうに目をやると不審者が窓に張り付いてこちらを見ていた。


「あれは…お連れさんかい?」


「いや…まあ…そんなところかな…」


俺は不安そうにしている店主に大丈夫だと促して外に出る。


暖かくしてある中に比べると外はだいぶ肌寒く感じた。

少し身震いしながら例の不審者に近づくとやはり、例の不審者であった。


「おい…関係ないやつまで怖がらせるんじゃないよ。アリシア。」


「なっ!怖がらせるなんて失敬な!自分の夫を見つめて何が悪い!」


完全に不審者だったんだが。

やばいやつに目をつけられたもんだ。


「まぁいい…もう夜も遅いだろ。早く帰って寝ろ。ちゃんとねぐらはあるのか?」


「私は外でも構わないぞ、夜の営みはどこでも受けて立つ!」


ちげぇよ!

なんでもかんでもそっちにもっていくんじゃないよこの変態。


「違う。ここじゃ周りに迷惑かかるんだ。店主も怯えてたからな…他に寝床の予定がないならせめて泊まっていけ。」


「わかった!」


アリシアはゴソゴソと懐から財布代わりの小袋を取り出し、おつかいに来た子供のように慣れない手つきで中をのぞきだす。


中身を手のひらに出して、10秒くらい見つめたあとに俺を見てきた。

手のひらに目をやると120pくらいしかなかった。

どうなってんのよ最近のシルバー剣士は。


「…」


「…」



お互いに見つめ合う。



「…。俺が出すから。寒くなるしとにかく今日はここに泊まれ。」


安い部屋でも一泊1200pはかかる。

ここは俺が出す他無いだろう。


たとえ変態剣士だとしても、こんな寒い中知らんぷりして自分だけぬくぬくすることは気が引ける。


「い、いいのか?!ありがとう、恩に着る!」


代金は私の体でなんとか言ってたが無視して店に戻る。

慌ててアリシアも後を追ってきて席に着くが、ノエルがそれを許さない。


「あ、あなた!何をしに来たんですか!渡しませんよこのご飯は私のですから!」


こっちもかい。

なに、こっちの世界はみんなどこかのネジ飛んでる感じなの?

そうじゃないでしょ感がえぐいって。


とりあえず俺は店主に事情を話し、アリシアの分の料金を支払った。

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元ギャンブラーの俺が異世界転生して、なんだかんだ魔王討伐を目指すおはなし。 £AlCarD£ @alcard_t

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