第13話

知りたくもない世界を覗いてしまった俺たちは、

颯爽とその場を離れて帰路についていた。


「シノノメさんはさいてーですっ!見損なっちゃいましたっ!」


「いや、あれは仕方ないだろ。…ちょっと待てって」


大きなテントを張っていた俺に激怒したノエルはプンスコしながらズンズンと先に進んでいく。

生理現象なんだから仕方ないだろって…。

生きとし生けるもの、雄ならば自然の摂理だ。


「シノノメさんのえっち!私にあんな事した後にまた違う女性に手を出すなんて信じられません!」


「何もしてないだろ…!どっちも…!」


濡れ衣を着せられそうになりながらも、

ノエルの為に薬草を摘みながら後を追う。


変態冒険者のおかげで俺らは依頼が達成できずに食いっぱぐれちまったからな。

見かけによらず大食いの少女(60歳だけど)の為に少しでも銭を稼いどく必要がある。


「腰死ぬ…。あれ、ノエルどうした?」


さっきまで勇み足で我先にと進んでいたノエルが急に立ち止まる。


何やら両手を握りしめてぷるぷるしている。


「………さい。」


「え?」


「道が分からないので先に行ってくだひゃい! 」

怒りと恥ずかしさでぷるぷる震えていたらしい。

心配して損したわ。



俺はウサギ跳びの要領で薬草を摘みながら先を歩く。


「シノノメさん!その動き気持ち悪いのでやめてくださいっ!あとなんかムカつきますっ!」


「仕方ないだろ。お姫様が道案内をご所望なんだから。メシ代も必要だしな。…あらよっと。」


その後もご機嫌ナナメなノエルに罵倒されながらも薬草を摘みつつ街を目指す紳士な俺なのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



町まで戻ってきた俺たちは道具屋に寄って薬草を換金したあと腹ごしらえに酒場を訪れていた。


「んぐっ、んぐっ……ぷひゃあーっ!この一杯のために頑張ってるようなものですねっ!」


「今日は何もしてないだろ…。」


ギロリとノエルの鋭い眼光が俺を捉えるが、

俺は知らんぷりをしてジョッキを傾ける。


「…ふぅ。まあ今日のは仕方ないな。せっかく現地まで行って勿体ないが明日また出直そう。」


俺もずっとウサギ跳びで流石に腹減ったからな。

宿屋の夫婦には悪いけど、ここでガッツリ食べてから帰ることにする。


どうせノエルは宿屋の晩飯だけじゃ足りんだろうし。


「そういえば、ノエルは精霊の力を借りることが出来ると言っていたな。本当は戦闘の時に聞くつもりだったんだが、ダメになっちまったし。どんな魔法が使えるとか色々教えてくれないか?」


「わらひのひはらをおひえるほひがひはおへふれ」


ノエルはもきゅもきゅとハムスターのように頬を膨らませてステーキを頬張りながら何やら呪文を唱えている。


「それはどんな魔法なんだ?」


「…んぐ。もう!バカにしないでくださいっ!」


ひとしきり落ち着いてから、ノエルが口を開く。


「私が使えるのは魔法と言うよりは…んー…。精霊のエネルギーを拝借してそれらを具現化する力…といえば分かりやすいでしょうか」


「分かるような分からないような…。魔法とは違うのか?」


俺もステーキにナイフを入れながら疑問を口にする。


「魔法というのは、大気中に存在するエネルギーに自らの魔力を干渉させて素体を利用したり変化させたりしますよね?私の場合は精霊たちの力をそのままお借りするので…魔法とは全然違いますね…。」


…なるほど。

術者の強さではなく、媒体…力を借りる精霊そのものの強さが影響するってことか。


「ん?てことはMPとかは消費しないのか?」


「そうなりますね。」


おいおい、まじかよ。

媒体が必要だから好きなだけとはいかずとも、結構なぶっ壊れじゃねぇかよ。

60歳は伊達じゃなかったわ。


「…今、私のことバカにしましたよね。」

「え?…してないしてない。」


勘の鋭さは森の中での生活が育ててくれたのだろうか。

頭の中で官能的なことを考えたらすぐバレそうだ。

気を付けないとな…。


「そういえばシノノメさんはどの辺の出身なんですか?顔立ち的にはあまり見かけないですけど…。」


「……。」

そりゃそうだ。

バリバリのサムライの血を引いてんだもの。

こっちの世界で見かける顔じゃないよな。


仲良く身の上話する相手なんかいなかったから、言い訳なんかも考えてなかったわ。

転生したなんて言っても信じられねぇだろうしな…。


しばらくジョッキの水面に写る自分の顔を見つめる。


自分でも分からないが、こうやって自分の顔を見つめていると何故か今までの人生のことを思い出していた。

なんか…虚しいな。俺。


「俺は…」


口を開きながらノエルの方を見ると、驚いた表情でプルプル震えながら俺の後ろを指差している。


なんだ…?


「昼間は世話になったな!私の夫よ!」


「…。」


振り返ると、昼間の変態ビッチがそこに立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る