第12話
無事パーティを組むことが出来た俺らは、ノエルの為の入門的クエストを達成すべく草原の奥地に向かっていた。
「わぁーっ、街の外ってこんな感じになってるんですねぇ…!」
「街から出るのは基本的に冒険者くらいだからな。商人や旅客が通る道以外はこんなもんさ。」
整備された道周りは結構綺麗にされているが、それ以外は自然豊かなフィールドっぽい感じになっている。
「小さな頃にお母さんと一緒に街に買い物に出かけて以来、森から出ることもなかったので…人工物ばかりだと思ってました。あっ、小鳥さん!」
「おいおい…相手がスライムとはいえ俺らはこれから戦闘にいくんだからな。気を引き締めろよ。」
遠足気分のノエルを叱咤しながら目的地に向かう。
まあ…確かにわからんでもない。
危害を加えてくる魔物や動物はこの辺にはそう出没するもんでもないし、出歩くこともなかった俺も少し自然を楽しんでしまうくらいに穏やかだ。天気もいいし。
「シノノメさんはすごいですね!地図片手に冒険者みたいです!」
「いや、冒険者でしょ」
あんな事があってモンロー共和国からは離れてしまったが、北エレクトの町にもちょくちょく足を運んでいたから地図さえあれば迷うことはない。
「この辺りだな。3体のスライムを討伐すれば達成だ。集中しろ。」
「…はいっ!」
フィールドが広いとはいえ、指定された区域に生息しているモンスターを見つけることは容易い。
…はずなのだが、スライムが見つからない。
探さなければいけないほど見当たらないことは珍しい。
「おかしいな…。スライム自身も臆病な性格だから動き回ることはないと思うんだがな。」
「他の方がやっつけちゃったとかですかね?」
そんなばかな…。
と思ったところでギルド協会でのことを思い出す。
あの女冒険者もスライム討伐の依頼だったな…。
依頼の討伐数は必ず守らなければいけないというルールはない。
クエストを受けていなくてもモンスターや魔物は自由に戦闘、討伐を行っていい。
捕獲に限り、ギルドを通さなければならないが。
そう考えると、あの女が多めに討伐してしまった可能性は捨てきれない。
「…。」
戦闘準備に入っていた俺とノエルは、獲物を下ろして緊張を解く。
「ターゲットが居ないんじゃ話にならないな。今回は諦めて帰るしかないか。」
「えぇー!そんな!じゃあ私のご飯代どうなっちゃうんですかぁー!」
ノエルがまたプンスコ怒り出す。
こいつはイレギュラーだ。
薬草でも摘みながら帰って、クエストがあればそいつを納品すればいいしダメなら買取に出して稼ぐことは出来る。
「まぁ、ノエルに戦闘の経験を積ませることが目的だったからな。銭が無いわけじゃない。今日はダメでもちゃんと飯は食わせてやるから安心しろ。」
「むー。それならいいですけど…!」
さて、薬草でも摘みながら帰路につくか。
そう思った時。
「ーーーーーーーーー」
耳を澄ますと微かになにか聞こえる。
周囲には何やらモンスターの気配もある。
「ノエル待て。何か気配がする。こっちだ。」
俺はノエルに静かにするように指示をしながら誘導する。
奥地とはいえ、ここに生息するのはスライム程度だ。
駆け出しの冒険者でも手こずることは無い。
疑問を感じながら気配のする方に歩んでいく。
「この先だ。」
草むらから様子を伺いながら顔を出す。
するとそこには例の女冒険者がいた。
だが、様子がおかしい。
「ああっ、くそ、もうだめだ…っ!!」
よく見るとスライムに纏わりつかれていた。
まじか。あいつシルバータグじゃなかったか?
ともかく、助けるのが先か。
バッ!!
俺は勢いよく飛び出し、獲物を片手に前に出る。
「大丈夫か!今助け……」
そこには、非常にけしからん光景が広がっていた。
「!!な、なんだお前は…あっ///そこは…イッ…」
女冒険者ははだけた防具の合間にスライムを忍ばせたままガクガクと震える。
「………。」
スライムを数えると8体ほどいた。
俺らの依頼が3体で、おそらくこの女の依頼は5体だろう。
一匹残らずオカズにしてんじゃん。
何してくれてんだこのビッチは。
「んしょ…っ!…シノノメさん、何があったん…」
少し遅れて草むらからノエルが顔を出す。
まあそうだろうね。
その反応しかできないよねこれは。
ノエルは固まったまま立ち尽くしていた。
「………。」
どう動いていいかわからず固まっていると、ノエルは俺の方を見たあと獲物の杖で思いっきり後頭部を殴りつけてきた。
不可抗力だろこんなもん。
そう思いながら俺は真顔で下半身にテントを作っていたのだった。
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