第14話 騎士団生活・序章

「じゃあ、先生は僕が腹を切れと言われたら、

本当に切るんですか?」


「えぇ..。仰せのままに、、切りますとも..」


「ふーん..」


 やるわけないだろう。

お腹を切ったら食べた物が飛び出して死ぬ事くらい僕でも知ってる。


「では、介錯(切腹する人の首を切断する事。長く苦しむのを防ぐ)

をお願い致します..」


「..? 解釈? 僕が先生の何を解釈するの?」


「..。左様でございますか..。でしたら介錯無しで自害致します!!」


 フン!! と、その直後荒い息を吐き、臍(へそ)の下に

どこから取り出したのか? 小柄で鋭利な刃物を突き立てた先生が

刃を腹の中で掻き回すと、華奢(きゃしゃ)な上半身からは

ウインナーのような臓物が飛び出し、口からは血が漏れ出て倒れた。


「うわあああああああぁぁああ!!」


 その直後、僕は意識を失った。



「あああああ!!」


「..。人間、、うるさいぞ! 黙って起きろ!」


「..あれ? 先生、先生は??」


「九頭龍露の事なら安心しろ。お前は奴の術中にはまっただけだ」


「え..? 術中??」


「そうだ」


 僕は目を覚ました。布団の近くにある机の上で、

地図? のようなものに記号を付ける作業をしているベルガモットは、

気だるそうな顔でその作業を中断し、僕と向かい合う形を取った。


「竜族の、九頭龍露..。次期族長の筆頭候補であり、百枚カルタでは

無敗のクイーン故、少々傲慢な気質があるのに加え、最近は何に触発

された事やら、独自のフェミニズム論にどっぷり浸かっている」


「ふ、フェミニズム..? よ、よく分からないけど先生は??」


 見渡す感じ、室内に先生はいない。

それに気掛かりだったのは、糞尿まみれのはずの彼女の部屋が、

とても綺麗に整理整頓されていた事だった。


「だから、さっきも言ったであろう? お前も私も

あの女の術中にまんまとはまったのだ」


「....。ちょっと待って。言ってる事の意味がよく分からないんだけど」


「あぁ..。私も今し方ようやく現状の整理がついてきた所だ。

異常に綺麗なこの部屋然り、私の主人格が常時出ている事然りーー

お前も身に覚えがあるはずだ。何かおかしな事はなかったか?」


「そ、そうなんだよ! さっき僕はゼラニムと練習試合してたのに、

防護服の中から出てきた先生が、急に腹を切り出して..」


「..。違う。大事なのは恐らくそこじゃない。お前、ゼラニムとの

練習試合で、勝ったか? それとも、負けたか?」


「あ、えっと..。負けました..」


「そうか..。やはりな、それが能力の発動条件?

いや違うな、ゼラニムと戦う事になった時点でもう既にマーキングされていた」


 その後も、ベルガモットの独り言に耳を傾けていると、

一つだけ引っかかるフレーズがあった。


 八岐大蛇(やまたのおろち)と、彼女がその語を口ずさんだ時、

妙に納得げな顔を浮かべた彼女は手をポンと叩いて、再び僕と退治した。



「うん。仕組みは分かったよ」


「ちょっと待って..? どういう事?」


「それは今から説明する」


「..。分かった..」


 イマイチ理解出来ないまま、僕になされた彼女のその説明は、

やはり全てが信じ難く、耳を疑うものばかりだった。


「そんな..」


「分かったか? つまり、この世界を壊すためには、

ひとまず勝たねばならない。勝負形式は主人であるお前が好きに決めろ」


「....」


 僕に課せられた使命は、目の前に座るベルガモットに勝負を仕掛け

勝つ事であり、負けは許されないーー何故なら、、


「八百長でも差し支えない。

じゃんけんがお手頃だしそれで良いだろう。私はパーを出す、行くぞ..」


「はい。じゃあ僕はチョキを..」


 と言うと、彼女が高らかな声を出し手を後ろに大きく振りかぶった。


『最初はグー! じゃんけんぽん!!』


「..。私はパーを出したぞ。負けてしまったが、それで良いー」


 僕の出したチョキによって今、ベルガモットの負けが確定した。



「..。ふわああ..。なんか、長い夢を見ていたような..」


 ベルガモットと二人で、何か勝負事をしていたような変な夢を見た。

しかし、夢であるせいかその詳細までを思い出す事は出来なかった。


「ランス。起きたか」


 するとその時だった。団長が寝ていた僕の部屋の戸を開け、

少しばかり緊張感を腹の底に煮えたぎらせたような容貌で言うには、


 とにかく来てくれ。 と、その一言のみであり、


 僕は彼女に促された先にある

屯所内地下ーーゼラニムの居住空間に案内された。


「うわああああああああああああ!!」


 と、中から断末魔のような叫びが聞こえてくるまでは、

僕もただ純粋に遊びに行くような気分だったけれど....


「ガルバハム。血は足りているかい?」

「いいえ..。豚の血と本人の自然治癒力には限界があります。

やはり吸血鬼族としての本来の力を解放させるべきかと..」


 なんて、僕は完全に蚊帳の外ではあったが、

ゼラニムのいるらしき真っ暗闇な部屋の中で何か大変な事がーー


「え..?」


 吸血鬼族から、ゼラニムを連想するのに、そう時間は掛からなかった。


「団長!! ゼラニムに何かあって....」


 勢い良く部屋の中に入ると、床に湿り気を感じ靴裏を見ると、

そこには真っ赤な液体がべっとりと付着している。


「あ....」


 劣化した鉄のような、酷い悪臭がするーー


「ゼラニム..」


 そこには、口と腹から大量な血を流すゼラニムが、

手足を鉄の鎖で繋がれた状態で横たわっていた。



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変人ばかりの騎士団に所属する僕は、今日も団長の日課である素振り1万本に付き合わされる。 @kamokira

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