第13話 悔い、改め
団長に失態を犯す場面を目撃され、即クビにされると思った
先生であったが、どうやら土下座して泣きながら謝罪したらしい。
「許して貰えなければ、裸になって、逆立ちで暮らすそうだ」
そんな見え透いた嘘をつくなんて、先生は懲りないなと
思ったけど、そこまで切羽詰まってる彼女が少し気の毒になった。
「..。僕もこの目で見るまでは信じてなかったけど、
裸で逆立ちになるという彼女の発言に虚偽は無かった」
そう話すのは副団長だ。
「なんで分かるんですか?」
「あはは..。言うのが遅れてしまったけど、僕の神託は
相手が本当に思っている事を見抜く事が出来るからね」
「え??」
「安心して。不必要に覗いたりはしないよ、それに、
君の心はさっき言った通り、純粋で、とても澄んでいて綺麗だった」
「おだてないでください」
「はは..。申し訳ないね」
副団長のガルバハムが微笑んだところで、団長が尋ねてきた。
「というわけだ。九頭龍露の今後は君が好きに決めて良い。
嫌だったらまた新しい教師を派遣してあげるから」
「そう、、ですか..」
しかし、いきなり決めろだなんて言われても、
どうすれば良いかなんて皆目見当が付かず頭を捻った時だった。
「ふざけんな!!」
と、大声で食堂の壁を蹴る男の声がした。
「ぶ、部長!!」
「ふざけやがってあの女が..。どいつもこいつも、、
こんな2chもAVもねークソみたいな田舎に転生させられた俺に
舐めた口ききやがって!! ツイフ○ミの癖に生意気な顔しやがってよ!
叩き殺してやる!! 馬鹿野郎!! ぶっ殺してやっかんなー」
「相変わらず荒れてんな..。まぁ、無理もないか..」
壁一枚隔ても、彼がモノに当たる事で生じる振動が伝わってきた。
「竜族の九頭龍露、頭悪くないか?? 頭悪い!!」
「....。ありがとう、ランス君。後は私達がなんとかしておくから..」
「はい、、すみません..」
悶々とした気持ちを胸に抱きつつ外に出ると、そこにはゼラニムがいた。
防護服のせいで彼女の表情までは分からないがーー
「大丈夫? お皿割れて足とか怪我してない?」
「はい..。大丈夫です」
「なら良かった..。でも、、」
「わかってます。先生の今後をどうするかは、僕が決める事になりました」
「ならさっさとクビにしちゃいなよ」
「うん..。確かにそうしようかなって最初は思ったんだけど..」
「変な間ね。迷ってるの? もしかして」
「分からない..。けど、クビにしなくても良いんじゃないかって..」
「ふーん..? ならま、好きにしたら?」
♢
午後からの剣術練習の相手は昨日と同様、ゼラニムだった。
「さて! じゃあ今日も昨日と同じ10本勝負ね!」
「はい..」
「ふふ..。また負かしてあげるから覚悟しなさいよ」
「.....」
彼女と戦う以前の団長とした練習試合の動きを僕は思い出していた。
芝生を疾走するだけでなく、壁を足場に、空中で剣を交えた動き。
あの、跳躍の高さといい、、美しい団長の所作の虜になっていた僕はこの時、
眼前にて剣を振るうゼラニムの大雑把な動きなどもう眼中になかった。
バシー
と、鈍い音がした。僕ではなく、ゼラニムの胴体が打たれた音だった。
「いった..」
「やった! 一本先取した!」
「ぐ、、調子乗らないでよね。私まだ本気出してないんだから!」
「僕もまだ出してませんよ!」
事実、ゼラニムはまだ全力の半分の力も出していなかった。
その後は数多くの技を繰り出す彼女に押されながらも受け流しー
現在、両者の取った回数は僕が9本、ゼラニムが8本で、
なんとかここまで優勢を維持し続けた甲斐あって、ゼラニムは
防護服越しにも焦りの色が伺えた。
「どうですか? 10歳の子供に負ける気分は?」
「うっさいわね! あんた昨日と動き全然違うじゃん!
それで調子狂っていつもの力がなかなか出せないのよ!!」
「本当ですか? じゃあ本気でかかって来てください」
「....」
まぁ、そうなるだろうとは思っていた。
仮にも僕が動きをまねてるのは最強騎士である団長だし、
いかにゼラニムが優秀であろうとそこには雲泥の差がーー
バシーー
という思考に耽り、僕は勝つ前から勝ちを確信していた。
まだ勝ってもいないのに、窮鼠猫を噛むという言葉の通りだ。
「最後まで油断しない事」
「あ..」
「昨日と比べ、やはり神託の特性故か動きは格段に良くなっていた。
けど、あんたはそれに胡座をかき、私との実力差を図り損ねた」
「じゃあ、やっぱ本気じゃなかったんですか..?」
「ごめんね。
嘘つくつもりはなかった。けど、今のを教訓にして欲しかったの」
「はぁ..?」
「本当よ。魔族は狡猾だもの。それで最後の最後に油断して
返り討ちにあい殺された仲間を私はもう何人も見てきたーー
だから嘘ついてでも教えたかった、ランス君には死んで欲しくないから」
何も言えなくなってしまった代わりに、僕はゼラニムと握手した。
「??」
「僕の村での風習です。剣術において大事なのは礼に始まり、礼に終わる。
また負けたのは悔しいけど、、対戦ありがとうございました..」
悔しくて涙が溢れそうになったけど堪えた。今日ダメでも、
いつか勝ってやると思いながらーー
「えぇこちらこそ。こんな分厚い服越しで申し訳ないけど..」
「はい!!」
「ところで、ランス君..。こんな時に言うのもアレなんだけど..」
「あ、はい?」
「え..」
目の前のゼラニムが唐突に防護服を脱ぎ出したかと思えば、
中から覗いたその顔は、僕が知る人物ではあれどーー
「女性の手を触った。性的搾取よ」
ゼラニムではない。その人は、、
「..。なんてね、、ごめんなさい!! この通りです!!
お気に召さなければ腹でもなんでも切ってみせます!!」
プライドも自尊心もかなぐり捨てた、
僕の元家庭教師、九頭龍露であった。
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