委託・其の一~無魔戦士、天才じゃない?
「ど、どうも!適性検査を受けに来たラオン――ラオン・ルンです!」
扉を押し開け、まっすぐ教会の中へ進んでいく。
高い天井、細長い通路、片側に並ぶステンドグラスには何やら人物が描かれているようだが……私には分からない。
「あそこの方、こちらに並んでくださいね。」
金髪でスラッとした女性が私に声をかけた。
「はい!」
元気よく返事をして列の最後尾に並ぶ。
前方から検査結果や議論の声がかすかに聞こえてくる。
『雷属性の特殊な要素が出たようだ。』
『そうみたいだけど、少し問題があるらしい?』
「俺の適性は何だろうな。せめて何か特別な才能があるはずだ。」
そんな話を耳にして期待が膨らみ、独り言を呟く。
普通の一般人であれば五行――金・木・水・火・土のいずれかの適性があるものだ。
複数の適性を持つか、または五行以外の特殊な要素を持つ場合は、潜んでいる魔法大学や人手不足のハンター団に即座に引き抜かれる。
「やっぱり魔法大学のほうがいいよな。でも学費が……『あの子』みたいに支援を受けられるわけじゃないし……」
「ラオン・ルン~」
威厳のある声が壇上から聞こえてきた。
どうやら帝都魔法大学の非常勤教授で、手伝いに呼ばれたらしい。お疲れさまだな~
「俺です!」
不安な気持ちを抱えながら壇上へと足を進める。
「目だ。俺の目を見ろ。」
「は、はい!」
ち、近い......こんなに近いなんて、もしかして俺が天才だと見抜かれたんだろうか……。
『!』
瞬間的に体が空っぽにされたような感覚を味わい、自分が誰でここで何をしているのかを忘れてしまった。私はその場に崩れ落ちる。
「魔力抽出テストで反応が出るのは当然だ。魔力が足りなければ体力を抽出することになるからな。だが、お前みたいにここまで大きな反応を示すのは初めてだ。」
簡単に言えば期待するなってことだよな……あり得ない!何かしらの資質はあるはずだ……ないわけが……。
「お前、ルン家の人間か?」
くそ、考えを遮るだけでなく、面倒な質問までしてくるのか。
「ルン家とは関係ありません。」
私の返事を聞いた教授は、どうやら安心したようだ。
「『あの』家と同じ名字だなんて。まあ……よし!」
「ラオン・ルン!」
「魔力適性!」
「金!」
「F!」
「木!」
「F!」
「水!」
「F!」
「火!」
「F!」
「土!」
「F!」
「特殊要素!」
「適性なし!」
教授の高らかな声が会場全体をざわつかせた。
「何がおかしいんだ。たかが魔法の資質がまったくない人間一人だろ……?」
待てよ、魔法の資質がない……俺が?!
「嘘だろ?赤ん坊ですら、多少の傾向を示すものだぞ。」
『そ、そんなはずは……。』
「まあ、この子は気の毒だな。」
『や、やめろって。』
「それで試験に来るなんて、大胆なやつだな。」
『こんなはずはない……』
「坊や!俺の食堂で皿洗いの仕事でもどうだ?」
『ちょ、ちょっとその言い方はひどすぎだろ!』
震える足でこの喧騒から逃げ出し、外へ出た。
夕焼けに染まる帝都の紋章入りガラス扉が、来たときよりもずっと重く見える。
「ママ!朝の変なおじさんだ!」
「いけませんよ、ベイビー。見ちゃだめ。」
やめてくれ......もう勘弁してくれ。それと、俺はお兄さんだぞ……。
「だめだ、ラオン。ここで諦めるなんて許されない。」
自分の頬を叩いて自分に言い聞かせる。
近くに戦士学院があるかもしれないな?
戦士――数百年前に活躍していた冒険者の職業だ。だが、近距離攻撃しかできない効率の悪さなどから、徐々に魔法使いや新興職業に取って代わられた。
現在の戦士学院は、体を鍛える目的で入る者ばかりで、冒険者になるために入る人はほとんどいない。
「そこに賭けるしかないのか……。」
『バン!』戦士学院の扉が閉ざされた。
「何だよ!無能者は受け入れないだと?戦士になるのにも魔法の基礎が必要?ふざけるな、ただのジムみたいな場所なんて俺から願い下げだ!ぷっ!」
「おい、確かお前は……ルン坊やだったか?それと、俺の足に吐いたぞ。」
顔を上げると、目の前に背の高い人影があった。
「スラッとした体型、きれいな金髪……さっきの受付のお姉さんだ!本当にすみません!」
まさか笑いに来たんじゃないだろうな……。
「あら、口がうまいわね。お姉さんのことを覚えていてくれて嬉しいわ。でも、自己紹介がまだだったわね。私の名前はサーシ、冒険者ギルドの受付係よ。今日は休みだったのに、急に手伝いを頼まれて疲れたわ~。」
このお姉さん、ずいぶんフレンドリーだな。やっぱり無能者にされても隠せない光が俺にはあるのか!
「それは大変ですね。それで、サーシさんがここにいるのはどうしてですか?」
「ああ、少し先に私の勤める支部があるのよ。ルン坊やも苦労してるわね。とりあえずギルドに寄ってみない?元気を出して。もしかしたら新しい時代を切り開く存在になるかもしれないわよ!」
「分かりました。ありがとうございます。考えてみます。」
「OK~お姉さん、待ってるわね。」
サーシがにっこり笑いながら、優雅に歩いて去っていった。はあ……でも、とりあえず行くしかないか。
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無魔力の白刃戦委託簿 墨鎖 白 @sumisakushiro
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