無魔力の白刃戦委託簿

墨鎖 白

委託・其の零~無魔戦士、旅立ちか?

「おい、お前ら!誰かあのガキを捕まえられる奴はいないのか?捕まえたら店で一杯奢ってやる!」




後ろから聞こえてくるのは怒声混じりの荒々しい叫び声。顔を真っ赤にしたおじさんが、時折悪態をつきながら走ってくる。




そうだ、その追われている「ガキ」っていうのは、この俺のことだ。俺の魅力に惹きつけられたのか、もしくは俺をスカウトしたくて――




「何がスカウトだよ!お前、宿代何日も滞納してるだろうが!」




思考を中断するように、怒りの罵声が続いてくる。




ああ、なるほど。取り立てか。それなら俺も加速しないとな。




「すみません、店主!急用があって!次来たときに必ず払います!」




そう言い残して、俺はさらに足を速めた。背後からの咆哮を気にもせず、振り返らずに走り去る。




「おい!――レオン!」




俺の名前はレオン、レオン・ルーン。さっきあんな怒鳴っていた髭面のおじさんは、辺境の酒場の店主、コートさんだ。帝都に来てから最初に出会った人で、数日前まで彼の店で世話になってた。




「ふう~帝都の人たちは、本当に情熱的だなぁ。」




二つの街角を曲がり、完全に追っ手を撒いたことを確認した俺は、小さな路地で汗を拭きながら自嘲気味に呟いた。




コートさんには申し訳ないけど仕方ない。家からここ帝都まで、旅費を使い果たしちゃったからさ。




セレアル大陸。魔物に占領されている「焦土」を除けば、この大陸は六つのエリアに分かれている。


西の【沃土連邦】にはドワーフたちが住み、北東と正南の【天叢の森】と【アルフヘイム】にはエルフ族が暮らす。そして、人類が支配する【ピノフ連邦】、【アーク公国】、そしてこの帝都。表面上はどの種族も争っていないように見えるが、水面下では何かと波乱が絶えない。




それにしても、アーク公国の通行料は異常な高さだ……。ま、コートさんをあまり待たせるわけにもいかない。




「だって俺、レオン・ルーンは、百年、いや千年に一度、いや万年に一度の魔法の天才になる男だからな!」




俺は高らかに叫び、笑いながら路地から飛び出した。




「ママ、あの人、変なおじさんだよ~」




「はい、かわいい子。あの人を見ないで行きましょうね。」




子どもを連れた母親が、俺の横を避けるように通り過ぎていく。




……やべぇ、穴があったら入りたい。




しばしの沈黙の中、俺は呆然として立ち尽くしていたが、やがて我に返り、本来の目的地「帝都魔法教会」へと歩を進めた。さっき言った「急用」ってのはこのことだ。




俺たち人類は十八歳になると、必ず「魔力適応性」の検査を受ける。この検査は、いわば魔法使いになるための資質を測るものだ。




魔力適応性が高い者ほど、空気中の魔力をより多く操れる。そして、この魔法使いが主流となっている時代では、この検査が未来の進路を決定づけるようなものだ。だからこそ強制ではないにもかかわらず、暗黙のルールとして定着している。




そして、今日が俺の十八歳の誕生日だ。俺は空気中の魔力を感じるだけじゃなく、視認することさえできるんだぞ!しかも、俺たちルーン家……ルーン……家?いや、家の話は置いとこう。とにかく、俺が成り上がるのは運命ってもんさ。他に道なんてないからな……。




そんなことを頭の中でグルグル考えていると、いつの間にか、目の前に巨大な、クリーム色のレンガで造られた荘厳な建物が現れていた――




帝都魔法教会だ。




「す、すげぇ!でかい!」




俺は驚嘆しながら、重厚なガラス扉を押し開けた。




扉はギィギィと軋む音を立てた。




……そういや、さっきの子ども、俺のこと「おじさん」って呼んでたよな。




でも今は、そんなことに悩んでる場合じゃない!




俺は自信のある声でこう言った――


「こ、こんにちは!魔力適応性検査に来ました!レオン、レオン・ルーンです!」

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