私は妹が憎い
七瀬りんね
第1話
私はメアリーが嫌いだ。私ができないことをやり遂げ、私の妹にも関わらず勉強やスポーツの才能が私より数千倍あるあの子を殺してやりたい、そう思うことが一度や二度ではない。
「離れて!」と言っても私の言葉が聞こえていないのか私の事を抱きしめたままで離れようとしない、その変な人間味のある温かさが気持ち悪い。そんな彼女が大嫌いだ。
失敗する度、いつも私を見下すような表情を浮かべる彼女を殺してしまいたい。そうやって何回も彼女の心臓にナイフを突き刺そうとしたのに、毎回毎回毎回予測されてるのか失敗ばかりする。
今だって。
「姉さま また失敗しちゃったね」
彼女は私に抱き着き、包丁を持ちながらそう言う。また殺せなかった、どうしてという考えが脳を渦巻く。彼女は包丁を床に放り投げ、両手を私の背中に回す。
気味の悪い、さっきまで殺そうとした相手にここまで密着するものだろうか?。
「まったく なんで実の妹を殺そうとするかな」
その声は少し苛立ちを含んでいているようだった。
「じゃっ 悪い子には制裁しないとね?」
顎に手を当て考えているような表情をしたかと思えば、彼女はそう言葉を発する。唇に手を当て「意味は分かるよね?」と言う。私でも分かる、これはキスしようという合図だ。
「キス しよっか」
予想的中、いや当たってほしくなかったけど。私から見ても彼女は魅力的だと思うけど、流石にキスは無理だ。私は彼女が大嫌いだし、彼女も私の事が嫌いだろう。だって好きか普通だったらこんなことしないだろうから。だからといってキスをしたい理由なんて分からない。
「何 嫌なの?」
「牢に入るか 私とキスするか選んで」
冷酷な声でそう淡々と告げられる。どっちも嫌という返答は残されていないのだろう、ならばキスを選ぶと彼女は考えているのだろう。余裕そうな表情で少し耳を赤くしているのが最たる証拠だ。だけどファーストキスなのに、どうして実の妹に上げないといけないのか。
「...私は」
あることを決めたかのように、私は口を開く。
彼女は勝ち誇ったかのような表情をしており、理想通りになると思っているのだろう。
「メアリーとキスするぐらいなら 死んだ方がマシ」
私はそう言い、彼女を乱暴に引きはがそうと体を動かすが、びくともしないし余裕そうな表情をしていた。その顔が嫌い、余裕という感じで私の事をどうせ見下している、大嫌い。
「まさか 姉さまが私に勝てると思ってるの?」
嫌味そうに彼女はそう言う。嘲笑のような笑みを浮かべたかと思えば、もう一度私に抱き着いてくる。まるで私をバカにしているようだ。イライラで頭に血が上ったのか、頬が熱い。
「うるさいわね...!!」
私がそう言うと、彼女は悪戯な笑みをしながら体をもっと密着させる。彼女は唇を耳に近づけ、腕を私の後ろに回しながら。
「姉さまは 私に勝てないの」
そう囁かれ、まるで背筋が凍るような感覚に襲われた。笑みを浮かべる彼女はどこか不気味だ。何か反論しようと思考を巡らせたが上手くいかない、だって勝てないのは事実だからという考えが私の中を支配する。劣等感ばかりが浮き出て、それはイライラへ変わっていく。彼女の事を殺したい、そうしたら私が評価されるのに。
「...私を 馬鹿にしないで」
弱弱しい声で私はそう言う。私の言葉を聞いた彼女はさらに強く抱きしめる。嫌い、大嫌い、その余裕をかましたような表情が大嫌い。
私が苛立っているのを分かっているかのように、彼女は笑みを深める。
「そんなわけ、私はただ姉さまを愛しているだけ」
私を包み込みような優しい声色でそういわれる。恐ろしい、怖いという感情ばかりが先行していく。
「大好き 愛してる」
純粋な声色で彼女は呟く。
「だから 私と一緒に溶けよう?」
その言葉が私に甘く響く。「待って!」という声を出そうとする隙もなく、彼女の顔が目の前まで近づいてくる。私は声がでなかった、見惚れていたというものまた事実かもしれないが、この気持ちの出処は憎悪に対してモノと信じたい。「目を瞑って」という彼女を聞き、目を閉じてしまう。目の前が暗闇に包まれていてもわかる、彼女の顔はすぐそこにある。
「姉さま」
「本当 大好き」
その声はどこか悲しげで、何かに対して嘆いているようだった。「どういうこと」と言う隙もなく、唇に何か柔らかいものが触れた。
音はなく、特に味もしない軽く優しいキスだった。よくキスはレモンの味というのを聞いたことがあるが、それを観測できないほどだった。
「どう?美味しかった?」
煽るようにそう聞かれる。嘲笑うような笑みを浮かべている彼女に対して苛立ちを覚える。
「信じられない どうしてそんなことできるの?」
唇を手で拭き取り、怒りっぽい声色で私は彼女に対しそう言う。
「それは私が姉さまのこと愛してるからだよ」
気味の悪い。
「私を追いつこうと頑張ってる姉さまも」
「私を殺そうとする姉さまも」
「姉として 私の事を考えてくれている姉さまも」
本気でそう思っているのだろう、目が本気だ。
だが怖い、頬は赤らめまるで恋する乙女のように私の事を見つめる彼女の事が、どこか恐ろしい。だって自分を殺そうとしている相手に、ましてや同性に恋をしているような表情をする彼女が怖い。でもそんなことも思惑の一つなのだろうと考えると、全部予想通りという感じを出す彼女が大嫌いだ。
出会ったときはもっと可愛らしかったのに、いつしか私を上回り見下すようになって、私に対しキスするなんて。ファーストキスだったのに。
「大大大大好き 私のモノだったらいいのに」
本気でそう言うメアリー。私はかける言葉が見つからなかった。彼女の表情は泣きそうで、唇を噛み締めていた。
いっつも余裕そうなのにたまにそんな悲しげな表情を浮かべる彼女も大嫌い。
彼女は認められているのに、なんで私は認められていないの?。不満ばかりが募る。
だけど、今回ばかりは彼女に寄り添おうと思った。
私は妹が憎い 七瀬りんね @darapuras
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