創作シミュレーション

雲隠凶之進

創作シミュレーション


 "大した接触でもないのに自ら倒れこんで大げさに痛がって相手のファウルに見せる行為を「シミュレーション」と言います。

(中略)

 シミュレーションは、フェアプレー精神に反する行為として、FIFA(国際サッカー連盟)や各国サッカー協会から厳しく非難されています。"


(引用:サッカーのシミュレーションとは? 競技規則に基づいたシミュレーションの定義と反則行為(サカイク)

URL:https://www.sakaiku.jp/column/knowledge/2024/016837.html)


 サッカーにおいて、相手がファールをしたかのように見せかける演技を「シミュレーション」といいます。いわゆる「痛いンゴ」ですね。

 なんでそんなことをするのか?といえば。当然メリットがあるからです。審判を上手く騙して相手にファールを取らせればフリーキックのチャンスを得られますし、イエローカード、もしくはレッドカードを出させて相手選手を退場させることもできます。


 一部の選手たちはそれを「勝つためなら審判や観客をも騙す賢いプレー」と捉えているようですが、当然故意に審判を騙してファールを得ようとするのは反則で、厳しく罰せられます。

 見ているサッカーファンも面白くはないですよね。選手の過剰な痛がり演技のせいでプレーは中断するし、何より自国の選手がそんなことばかりしていると


「うちの国はそんな反スポーツマンシップ行為に頼らないとマトモに戦えないのか」


 と情けなくなります。


 自分が推している選手が「痛いンゴ」していたらどうでしょう。

 怪我したのかな、大丈夫かなと心配になりますよね。でも本当はケロッとしていて、怪我なんてまったくしていない。

 ファンは華麗なドリブル、パス、そしてシュートで熱狂したいのに、延々と芝生に転がってアオアオ言っているだけの推しを見せられたら、百年の恋も冷めてしまうでしょう。



 なんでそんな話を?

 どうですか。最近、あなたの周りでそんなことを呟いている人、いませんか?

 例えばそう。


「創作はいつだって自由なんだ! 何を書いたっていいんだ!」


 とか


「埋もれてる小説にも名作はたくさんあるんだけどなァ~ッ!」


 とか


「マイナーだと注目されなくてつれーわ! かぁ~っ! 少数派は読んで貰えなくてつれぇよ!」


 とか。


 ごめん。ホントごめんなんだけど。



 なんで自分で自分を殴りながら、被害者ヅラしてるんだろう?



 って思っちゃうんですよね。私。




 「親ガチャ」なんて言葉が流行ったりしたじゃないですか。

 運が悪かったなー、金持ちはいいよなーくらいの感覚で使っているなら、まあ今までそういう概念が全く無かったわけじゃないし。昔からある羨望あるいは嫉妬の概念が言語化されただけなんですよ。


 でも最近、増えていませんか?

 自分が努力できないことを「親ガチャ」「環境ガチャ」とかいって、全てを放棄してる人。


 あれ、見てるだけで不快ですよね。

 確かに能力の遺伝は少なからずあるかもしれない。医者の子が医者になるなんてザラだし。親が金持ちだと、子供の可能性を広げるために、多大な資金を投入できるのは紛れもない事実。

 でも、そういう「ガチャ」的要素があることと、当人が頑張らないことには何の関係もない。


 世の中、上流の人以外価値がないなんてことはない。

 医者や弁護士にだけ人権が与えられて、その他は奴隷です、なんてことはない。現代社会はすべての人に人権とある程度の自由が与えられている。

 頑張れば超上級とはいかないまでも、まあ「それなりな幸せ」は掴める社会なのに。その「それなりな幸せ」では満足できず、自分は超上級じゃないと認めながら、超上級と同じ幸せを与えろ!不公平!と訴えている。



 創作界隈もそうだね。

 何を書くか、どう書くのかは自由。それなのに、実際にはみんな言っている。

 私の創作は不自由だ。誰彼に自由な創作を妨げられている。私は創作を妨げるものと断固として戦う――――


 キミはジャンヌ・ダルクにでもなったつもりか?

 何と戦ってるんだよ。敵はどこにいるんだ。その自貶弱者思考で聖女は無理でしょ。

 さらにね。こういう話をすると、読解力も思考力も第二宇宙速度で放り出した書籍化経験作家センセーがいうわけだ。


「お前は自由な創作を妨害するのか!」


 って。

 コメントありがとうございます。その貧弱な国語力でよく書籍化できましたね。ところで、書籍化作品の続きはどうされたので? 出版社とのコネがあるなら、新作は持ち込みとかにされないんですか?


 創作を妨害する公権力を失った今、表現の自由戦士が戦う相手は「自分を弱者と見なしてくれない人」なのか。

 情けない。過去のすべての自由戦士に謝罪行脚すべきレベルの情けなさ。



 話を戻すね。

 なんで親ガチャが~とか言ってる人が不快なのかっていったら、努力を放棄していること以上に「自分は弱者だから、救済があってしかるべき」っていう思想が透けて見えるからだよね。


 でも実際は弱者でもなんでもない。

 今の日本、普通に生きて普通に働いていれば、とりあえず明日の衣食住に困ることってあんまりないよね。何かしらで大成功するような大きな幸せはないけれど、決して不幸ではない。

 それを「俺が成功できないのは不幸なことだ、だから俺は幸せになるための施しを受ける権利がある」と宣う。自分が幸せになる努力をしないくせに、他人に俺を幸せにしろと訴えている。


 創作界隈でもね。「本当は自分の書きたいものを書きたいのに~トレンドに合わせなきゃいけない~つらい~」とか。誰がお前に命令してるんだよ。常人には見えない秘密結社か?

 私は私の好きを追求します!って。端からみたら「そッすか……」という話でしかない。なんか必死に逆境に抗うボキタンアピールしてるけど、それ、むしろネット小説界隈じゃ多数派だろ。

 みんな、お前の好きが伝わるように書けって言ってんだ。誰もお前の好きを否定してねぇよ。なんで自分で自分を殴ってるんだよお前。


 こういうの、サッカーのシミュレーション行為にも似ていませんか?

 実際にはそれほど大怪我でもないのに、まるで骨が折れたかのような痛がり様。それを是とする選手の間では「賢い」ように見えるけど、それを見ている観客はドン引き。

 応援の熱を自ら削いでしまう行為。



 次は何を言い出すんだろうか。

 親ガチャ民はベーシックインカムとか好きだよね。じゃあ創作界隈もそういうこと言い出すのかな。

 たとえば「このコミュニティに参加すれば、メンバー全員から読んでもらえて、評価やブクマのチャンスが増えます」とか……




 あ、それもうあったわ。

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