『青い星 銀河の代表に 選ばれる』
至璃依生
『青い星 銀河の代表に 選ばれる』
ある日。マイナーなオカルト雑誌の記者である俺が、自分が担当する記事に、取材で撮影した「ある写真」を載せて、本誌に掲載した時のこと。驚くことに、その記事が「とある界隈」で、物凄くウケた。
原因となったその写真とは、俺が前に郊外の有名心霊スポットである廃墟の中で見つけた、なんらかの金属らしきもので鋳造された人形を写したものであった。廃墟の奥の方に転がっていたから、まさか触れてはいけない呪いの人形の類いか、と思って偶然撮影したものだ。これがまさかの自体となった。
なんと、それは「この宇宙の外の神様たち」のもとから、ずいぶんと昔に奪われてしまって、所在が全く分からなくなっていた所有物だったそうだ。とある界隈とは、その宇宙の外の神様たちのことである。神さえ見つけられなかったものを俺が見つけたとか、まさかの大スクープもの、そんな特ダネレベルな記事を作ってしまったとは夢にも思わず、俺は心底「
「おぉ、我が
雑誌が発売された数日後、俺は夢の中で、そんな神様からのお告げを聞いた。先ほどの事情を説明された後、「
そしてその翌日、まず有休を二日取り、一日目はもう一度廃墟へとあの人形を取りに行き、確保した。そして来たる二日目。俺の部屋に、天井から床に向けて光の柱がすぅっと現れ、そこから、男性のような声が聞こえ始めた。お告げを聞いてからちょうど今日が神様がやってくる日だったので、終日ずっと部屋の中で待ち構えていた俺はようやくと、ぱっと正座をして姿勢を整え、その光を迎え入れた。
「おぉ、この遙か遠き、青く小さな星に住むモノよ。お前が成し遂げた善行は、全生命が見習うべき優しさとして誇らしきものだ。よって、この青い星は、そのような素晴らしき心を持つモノが住む星として、この銀河の代表にふさわしいと誇示すべきものでもある。あぁ、心優しき小さきモノよ、有り難う、有り難う」
「いやいや、そんな大したことは……。今度は
「いや、構わない。我らが悪いのだ。何度でも礼を言おう、小さきモノよ。我らはずっと、これを探し求めていた。これで問題は解決した、我らはこの星から去ろう。邪魔をしたな、青い星のモノよ。近々、その行いに報いるお礼が、数多く来ることだろう。それは、とてつもなく素晴らしいものだ。受け取るがいい」
そして、神様の言うとおり、この星は「見習うべき優しさを持つ者たちが住むところ」などとして、どうにも銀河の代表となったそうだ。最初こそ実感は湧かなかったが、しかし神様が「その行いに報いるお礼が、数多く来る」と言っていたように、その「お礼」が、日に日に地球上に次々と現れた。それらはかなりの大規模なものだったので、どうにも本当に銀河の代表に選ばれたらしいのは、もう疑いようも無かった。そして、俺と神様が出会ってから約一ヶ月ほど経ったが、このお礼とやらは未だどんどんとやってきて、まったく止む気配など無いのであった。
それは時に、世界中の空に大きく響いた、まるで巨大な生物の断末魔のような、とてつもない音であった。
また時には、大海原から光の柱が何本も宇宙へと一瞬で立ち上り、その柱の中では白い板と黒い板のようなものが大量に高速で行き交った。それは何らかのデータを送受信しているかのように思えた。
またある時は、深海から浮かび上がってきたとされる、謎の赤黒い血管のようなものが表面に筋張ってるような、少しグロテスクな物質が次々と発見された。無機物なのは違いなく、噂では、この地球のエネルギー問題を瞬く間に解決できる新資源に成り得るかも、とのことだった。
またある時には、どこかの外国の開けた砂漠地帯に、謎の大きな巨塔が、何本もそそり立ってきたという。そんなものは地中にあるわけがなかったのに急に出てくるなどまさに神秘、神の御業だと、大騒ぎになっていた。
しかし、それらを見て、世界各国の人達は、不安を覚える方も居るという。それはたしかに。先ほどの四つの例を見ても、不気味といえば不気味な現象だ。
だが俺は知っている。まずこれらは全て神様の意思。人間にはどうしても、その意図や内情なんて読めるわけがない。でもこれらの現象は、何らかの意味があるからこそ発生しているのだ。というか、そもそも心配など最初っから要らないのだ。あの神様は、お礼が、感謝が送られると言ったのだから。分かるよ、これらは不気味で、分からないことだらけかもしれない。でもどうか安心してほしい。これらは、神様からの、助けてくれた恩返しのプレゼントだ。そこだけは、絶対に間違いないのだから。
「おかげで、俺は編集長」
今では俺は、念願の編集長になっていた。神様がくれたお礼の中に、どうにも俺個人に向けられたものがあったので、それなら俺はと、このお礼を選択した。
使い切れないほどの富を得ることもできたそうだが、それだったら、そんな身の丈以上の幸せは、世界中に分配したほうがいいだろうよ。宝の持ち腐れという言葉があるように。だから俺は、個人に向けられたお礼も、必要最低限だけ貰って、あとは世界に渡して欲しいと願った。そしてそれは受理されて、今日もまた世界のどこかで、不可思議な超常現象を引き起こしている。
今日も世界は賑やかだ。まだ、お礼というものは終わりそうにない。
でも、これからこの世界は、どんどん幸せになる。神様のお礼によって。
だったら、こんな騒がしい毎日は、ハッピーなお祭り騒ぎだと考えれば、多少うるさくても楽しめてしまう。
大丈夫、心配ない。
ほらなに、今度は空から、巨人の天使みたいなもんが降りてきたって?
そりゃもうラッキーじゃん。幸運、幸福に置いては最大限のシンボルだろ。
あぁ、本当。
なんて、これからの日々は、幸せな毎日で――――――――――、
以下、神々達のその後の会話を、現代語訳として記す。
「いやぁ、笑いました。大ウケです、面白いですね。この銀河の星々の中で、どこが一番運が悪い星なのかって、やっぱ遊びでやっても、あの地球が一番でしたね」
「銀河の知的生命体が存在する星々全域に、あの人形を配置したが……。やはり、その中でも地球、また人間というモノは粗悪品なのかもしれん。一応「触れてはいけない呪いの人形の類いなのでは」とは直感でも気づけたようだが、あの男はそれ以上の忌避感を感じなかった。今回、呪いの担当は君だったか?」
「えぇそうです。私としては、あの人形に触れたら惑星レベルで災いが起こるほどの呪いを、わりと強めに込めたんですけどね。ですので、他の星では現在、知能を働かせるなり、無意識の本能で警戒するなどし、誰も触っていません。むしろそういったネガティブな力が強すぎて、その星の法則に影響を及ぼし、空間が歪む、座標がズレるなどして、物理的にも誰にも知覚すらされていない所もあるようです。地球もそのうちの一つでした」
「なに、それほどの状態や環境でありながら、あの男は見つけてしまったのか。なんと運が無い。あの男、よほど哀れなモノと見える。そんなものをまさかの最速で発見し、その上色んな意味で接触できてしまうとは。……あの男を誕生させたのは、宇宙的に間違いだったか」
「それ言ったらあんまりですよ」
「人形には自然消滅するようには仕向けたか?」
「はい、滞りなく。時刻が来たら自動消滅し、その後の星の運営にも影響はありません。この度、人形の影響を受けるのは、見つけて触ってしまったあの星のみです。――――あぁ、今、全て滅びましたね」
「うむ、そうだな。まぁ、あんな辺境の星なぞ要らん。消えても銀河全体に問題はない」
「えぇ、その通りです」
「――――どこよりも一番運が無い星、地球。お前の間の悪さはとことんだった。まさに、この銀河の中では「代表」としてふさわしい。……あー、次にお前をもう一度創るときが来たのなら……、そうさな、どこもかしこも改善の余地がありすぎるな。うん、創造するのが面倒くさいの一言につきる」
「それはもう仰る通りかと。それならば提言させていただきます。……次の宇宙誕生の際には、もう二度と創らなくても良いのでは、あの地球という星は?」
了
『青い星 銀河の代表に 選ばれる』 至璃依生 @red_red_77
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