第二話 困惑


「な、何を馬鹿な事を言っているのだ。冗談は程々にしとけ」



「俺は大真面目だ。君の可愛さに一目惚れしてしまったんだ!!!」


「か、可愛いぃ!?」


 「はうぅ...」と魔王は赤面する。

 ・・・あれ、なんかこの魔王チョロそうだぞ。それだけの美貌を持ちながら恋愛経験ゼロなのだろうか。多分もう一押ししたらイケる。


 この世界の人々は勇者に対して「恋愛」とかそういう軟派な物には興味が無いと思っているのだが、全然そんな事はない。なんなら俺は勇者になるよりも結婚して幸せな家庭が築きたかった。

 

 すると、魔王は何事も無かったかの様に一つ咳払いをする。


「だが、所詮は魔王と人間。種族の違いというのがある。そこを弁えて発言をしたらどうなんだ」


「分かってる。だけど君に対する想いは本気なんだ」


 その瞬間、魔王の目が一瞬揺らぐ。

 よし、もう一押しだ。確実に気持ちが揺らいできてるぞ。それに、俺には最強の切り札がある。


「それに、本当は魔王になんてなりたく無かったんじゃないか?」


「な、何を言って・・・!?」


「じゃなきゃ、人間の言う事になんか動揺するはずが無いだろ。ここで動揺するって事は本当は恋愛だったり遊びをしてみたかったんじゃないのか?」


 ――ああそうだ、本当は分かっていたんだ。自分には魔王なんて向いていないと。差し詰め、家がそういう家系だったとかだろう。

 魔王が世襲制とかどうなんだ、と思うかもしれないがアルセーヌ王国の国王だって世襲制だ。だからあまり珍しい事ではない。


「・・・実は、俺だって勇者なんかやりたく無かったんだ。だけど、皆から持て囃されるとどうしても断れないタチっていうか......だから渋々引き受けてしまったみたいなものだ」


「・・・・・・」


「『勇者』っていう肩書きは凄く重い。勇者っていうだけで周りの人達から常日頃期待の声を浴びせられ、それに笑顔で応対しなければならない」


「・・・・・・」


「はっきり言って疲れたんだ。そのプレッシャーに。君だって同じなんじゃないか?」


 気付けば俺は魔王の近くにまで来ていた。無論、武器などは投げ捨てた。

 そして、跪いてスッと右手を差し出す。


「もう一度言う。好きだ、嫁になってくれ。そして二人で抜け出そう」


「・・・ふふふ、勇者が魔王に跪くって前代未聞の行動ね。でもいいわ。貴方の寿命が尽きるまで側に居てあげる。魔王やるより貴方の側に居た方が遥かに面白そうだわ」


 そう言い、手を握り返した。

 それに加えて、口調まで変わった。心を開いてくれたって事なんだろうか。


 よく見ると、彼女の目からは涙が溢れ出ていた。

・・・・・・なーんだ、合ってたんじゃないか。

 

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勇者である俺だが、魔王が可愛いので嫁にしてみた!! わけわかめ @wake_wakame

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