2. 北条奏
私の両親は、世界で活躍する有名な政治家だった。
その二人のたった一人の愛娘として生まれた私はとても愛され、優しい両親と恵まれた環境のお かげでまっすぐ優しい性格に育った。
というのが周りからの印象であり、実際は違った。
私が生まれた頃にはすでに有名で忙しかった両親は、幼い頃、すぐに私を連れて海外に移住した。
父親側の祖父母やその親戚も同じく政治家で、北条家は政治の家系として古くから有名な家だった。
私は表面上は優しく賢い性格に育ったが、その賢さは少し偏っていた。
厳しい大人達の世界に生まれ、物心ついた頃から政治という名の大人達の汚い戦いをたくさん見 て育ったため、私は自然と相手の様子を伺いながら話すようになり、自分の意見をまっすぐと言うことができなくなっていた。
そしてそれに追い打ちをかけるように、両親は私に完璧を求めた。
私は人一倍たくさんのことを幼い頃から経験し、賢くなった分、子供であれる時間があまりにも少なかった。
様々な有名な大人達に礼儀正しく挨拶をし、子供特有の無邪気さとかわいらしさで彼らをもてなす。
子供ながら、自分が大人の戦いに利用されているのはなんとなくわかっていた。
それでも両親やほかのたくさんの知り合いの政治家たちは私を愛し育ててくれたため、自分の意見 が言えなくとも彼らを悪く思うことはないと思っていた。
だが、そんな思いは小学校卒業とともにとっくに消え去った。
両親が海外に移住したあと、私は小学校を卒業するまで一緒に暮らしていたが、中学に上がる際、 経験のためと言われ、一人日本へ帰国することとなった。
私は両親と離れたくなかったが、その気持ちをはっきりと伝えることができずに終わってしまった。
これが、私が両親と会った最後の記憶。
一人日本に帰った私を迎えてくれたのは、母方の祖父母だった。
母のほうの祖父母はごく普通の一般人で、おじいちゃんも普通のサラリーマンだった。
父のほうの祖父母は移住したあとに挨拶をしに行ったことを覚えているが、母のほうと会うのは私がまだ日本に住んでいた頃、三歳の時以来だ。
そんなほとんど会ったことない同然の祖父母とともに、私は中学の頃から共に暮らしている。
国も育った環境も全く違ったため、最初は慣れるのに苦労したが、数か月もすればその暮らしは私にとって普通となっていた。
初めての日本の学校。初めての中学生。そして初めましての友達。
新しいことが多くて緊張したが、私は祖父母が手続してくれた近くの公立の中学校の入学が決まった。
その時に最初に仲良くなったのが、由梨花だ。
北条夫妻の娘が日本の公立の学校に通い始めたことはすぐに世間に知れ渡り、クラスのみんなも先生も知っていた。
「はじめまして!奏ちゃんって有名な政治家の子供なんでしょ?すごいね!」
たくさんの人がそんな風に私に声をかけてきた。
みんなとすぐに仲良くなれたのはうれしかったが、みんなが見ているのは私ではなく、北条家の娘という肩書と、私の顔であることはすぐに分かった。
それでも別に特別何か困ったことがあったわけではなかったので、私は気にせず笑顔を作り、毎日普通に生活し続けた。
そんな時に、事件が起きた。
中学に進んでようやく生活が落ち着いてきていた頃、私は初めて気づいてしまった。
自分のとある事実に。
嘘つきは泥棒の始まり @ocean_moon62
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