嘘つきは泥棒の始まり

@ocean_moon62

1. 高校生活

「行ってきます」

ドアを開けて、ニコッと微笑みながら声をかける。

「「行ってらっしゃい」」

祖父母が笑顔で見送ってくれた。

きっとこれが、世間でいう理想の生活。

それでも私には、それが良いとは思えない。


入学式からひと段落ついて、あと二か月弱で夏休みに入るという頃。

だんだんと季節は夏に代わっていき、そろそろ夏服にしようかな、なんて考える人も少なくないだろう。

そんな中、私はいつも通り自分の通う高校に向かい、昇降口の目の前の下駄箱で靴を変える。

「おはようございます」

私はさっき祖父母にしたのと同じ笑顔で、近くにいたクラスメイトに挨拶をする。

そうすればその子も、祖父母も、みんなが喜んで返事を返してくれることを知っているから。

通りすがった生徒や先生たちにさっきの子と同じように挨拶をしながら廊下を歩き、扉の前で止まる。

扉に手をかけ、一度深呼吸をする。

私は笑顔で扉を開け、みんなに挨拶をした。

「おはようございます」

クラスメイト達は私を見るなり笑顔になり、返事を返す。


私が席に着くと一人のクラスメイトがこちらに寄ってきて、話始める。

「おはよー。今日も奏(かなで)はかわいいねー!」

私の親友、音之瀬(おとのせ)由梨花(ゆりか)だ。

「ありがとう♪でも由梨花のほうがかわいいよ?」

「えー!そうかな?ありがとー!」

由梨花は両頬のえくぼをへこませながら、ニコッとかわいい笑顔を奏に向けた。

(いいな、あのきれいで純粋な笑顔)

自分で言うのもなんだが、私は多分、顔が整っているほうだと思う。

私が少し微笑むだけでみんなは天使の微笑みだといい、喜ぶ。

でも、それはただの偽りの仮面。

私の笑顔の下は真っ黒で、由梨花のようにきれいではない。

だから由梨花のことが少し、いや、とても羨ましかった。

(三年前までは、私もああだったのかな)

そんなことを考えていると、チャイムが鳴る。

「それじゃ奏、またあとでねー!」

由梨花は楽しそうにルンルンと自分の席に戻っていった。


午前中の授業が終わり、お昼の時間。

いつものように彼らが来る。

「あの、奏さん!今日こそお昼一緒にどうですか?」

「あっずりぃぞ山田!奏さん!そいつじゃなくて、俺と一緒に食べましょう!」

最近毎日私をお昼に誘いに来るこの二人。

隣のクラスの男子だ。

きっとこのクラスの誰かから私の噂を聞いたのだろう。

私が苦笑いをして困っていると、由梨花が来た。

「ちょっとそこ二人!また来たの!?奏が困ってるじゃん!この子は私と一緒に食べるので無理でー す。」

由梨花に続き、私が断る。

「ごめんなさい二人とも。私、由梨花と二人で食べるって約束しているの。」

そういうと二人は渋々うなずいて、自分たちの教室に戻っていった。

「ありがとう、由梨花。」

「もう、奏のほう見たらまた来てたからびっくりしたよ! 奏は優しいからあんな風に何度も来るんだよー。ああいうの、ちゃんとしっかり断っとかないとまた来るよ?」

由梨花は心配そうな顔をしながらそう言った。

「そうね、次来たときはもう少ししっかりお断りするわ。」

「うんうん! 奏はただでさえあの世界的に有名で人気だった政治家、北条(ほうじょう)夫妻の一人娘 なのに、その上美人で天才で優しい性格してるからすごいモテちゃうんだもん!」

「ふふっ、ありがとう。気を付けるわ。」

私達はそんな会話をしながら、自分たちのお弁当を食べた。

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