いつか見た夢

ラルト

もし、あそこで目が覚めなかったら…

 知っている場所のようで知らない場所、誰もいない廃墟を私は一人探検していた。


 廊下の脇、身近な部屋の扉を一つ、開ければ少し散らかった部屋の窓から光が差し込んでいる。外は快晴のようだ。


 等間隔で並ぶ部屋はいずれも同じような間取り、同じような内装で、廊下を進みながらそれら一部屋一部屋を覗いていくと、最初の部屋と同じようにかつてそこにいた誰かの私物だったであろう物が残されている部屋もあれば綺麗さっぱり何も残されていない部屋もある。


 廊下の奥、少し薄暗い突き当たりの右手側足元にある扉を開き下階へ続く梯子を降りながらふと疑問に思った、そしてそんな疑問を抱いた事にまた疑問を抱いた。やはり私はこの場所を知っている、あるいは来たことがあるのだろうか?


 梯子を降りた先は厨房だった。年季の入った無数の調理器具や食器からこの場所がかなり昔から利用されていたこと、そして家庭用のそれより遥かに大きい鉄鍋やこれまで見てきた部屋の数からしても多くの人に利用されてきたことが伺えた。同時に今はもうそれらは使われなくなって久しいこともより一層感じられた。


 厨房を出てふと左手側を見るとそこには一つの扉があった。他の部屋と違いネームプレートがかけられてある上廊下に対し今までとは配置の違う部屋に興味を引かれなんとなしにそのドアノブを引き開ける。部屋の中はカーテンが閉め切られて暗く、今まで見てきた部屋以上に生活感を感じる程物に溢れており、まるでつい最近まで誰かが住んでいたかのようだ……



 否、そこにはがいた、或いはそれはそこにのだ。



 私はその姿が私がこの部屋の扉を開けたことを認知した事を感じ急いで部屋の扉を閉めた!そしてドアノブを強く握りしめ抑えるのだが、ちょうど一秒経つか経たないかの後内側からガチャガチャガチャ!と音を立て強くドアノブを回しは激しく外に出ようとしていた。


 私は必死になってドアを抑え続けた。恐ろしかった。


いつまで抑えきれるだろうか?

ソレが諦めるまで私は耐えられるだろうか?ソレは諦めてくれるだろうか?


 その音も姿も持たない存在が放つ恐ろしい気配に加え先の見えない状況に恐怖しながらそれでもドアを抑え続け………



 気が付くと私は長年愛用している布団に包まれている状態にあり、ゆっくりとアイマスクを外して目を開ければそこにはつい最近引っ越して来たばかりの新居の天井が見えた。



 あの廃墟はいったい何だったのだろう……?



 もし……私の目が覚める前にアレに敗け扉が開いていたら…………?



 夢の中の私は………どうなっていたのだろう……?


 今まで見ていたのは夢だったこと、アレがドアを開ける前に目が覚めた事に私は安堵した。

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いつか見た夢 ラルト @laruto0503

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