第13話 買い物の裏側

お買い物中のイルミネル視点です

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赤いドレスを着たミスティカ嬢はとても美しかった。

一瞬言葉を発するのを忘れてしまうくらいに。

本当ならアルノールの瞳の赤ではなく私の瞳の緑を纏ってほしい気持ちがあった。

だから刺繍は金ではなく銀を選んだ。


この国では公式な場ではパートナーの色を身につけるのがルールとなっている。

髪や瞳の色、それから印章の色。

印章の色は魔力の色によって決まるが、パっと見てわかるものではないので、髪や瞳を纏うことが多い。


次のドレスは紫だ。

アルノールでも私の色でもないので、装飾品で色を身につけることになる。

そのため試着を待つ間、宝石商と打ち合わせると言って盗聴防止の魔導具を起動させる。


「若様。あの、本当にアレキサンドライトでよろしいのですか?」


アレキサンドライトは光によって色を変える不思議な宝石だ。

魔導具のオレンジの光の下では赤に輝くが、陽の光の下では緑になる。

夜会では魔導具のランプをこれでもかと灯らせるので、赤い宝石として認識されるはずだ。


ちょっと見ただけでは赤いドレスに赤い石はどう見ても赤い瞳のアルノールの婚約者に見えるだろう。

黄色い宝石やゴールドの装飾品で髪の色も身に着ければ完璧だ。


たが同時にドレスにも刺繍とはいえ銀を纏い、緑にも見える宝石をつけていれば、アルノールの偽りの婚約者と言われても仕方がない。

それでもミスティカ嬢に私の色を纏って欲しかった。


「このことは口外ご法度だ。察していると思うが、私はミスティカ嬢を弟に譲るつもりはない。

頼んでいたものはできているか?」


「そちらもあのお嬢様に贈られるのですね。こちらがご依頼のお品でございます。」


頼んでいたものは私の求婚用のエメラルドの首飾りとイヤリングだ。

短い納期だったが、見事な出来に仕上がっている。

今はミスティカ嬢に贈ることはできないが、いずれ必ず彼女に贈るのだ。

あまり時間をかけるつもりはない。

そのための準備はしてきたつもりだ。


この宝石商との繋がりは長い。

デザインは伝統的だが、質の良い宝石と確かな技術を持っているため、代々スペルキャス公爵家と取引してきた。

アルノールや母は古臭い、地味だと言って別の店を利用しているため、秘密が漏れる可能性は限りなく低いだろう。


アレキサンドライトと求婚用の宝飾品は私個人に、それ以外は公爵家に請求書をと伝えたところで、ミスティカ嬢の次のドレスの試着が終わったらしい。


ミスティカ嬢に求婚できるようになったら、もっとたくさんのドレスを試着してもらおう。

彼女は可愛いのだと自覚してもらわなくてはならないのだから。





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