俺たちの未来
店内にはタバコを吸って厨房に立っている店主の俺一人だ。さっきの高校生カップルの食べっぷりは、見ていてとても気持ちのいいものだった。是非、俺が生きているうちにまた来店してほしい。後継者がいねぇが……俺は別に後悔はしてねぇ。夢だった中華料理屋を開業することができたのだから。
俺はタバコを吸いながら呟く。
「何かに
すると、扉が開いて常連客が来店してきた。
「いらっしゃい」
「いつ来てもここは
「赤字っちゃ赤字だけど、客が美味しく食べてくれるならそれでいいんだよ」
「ふ~ん。あッ、いつものやつで」
常連客は左目に黒い眼帯を付けており、頭には包帯を巻いている。
「さっき高校生のカップルが来てよぉ、気持ちいい食べっぷりだったんだよ」
「こんなところに来るなんて珍しいなぁ」
「後継者がいねぇから、俺が死んだらこの店は終わりだけど……別にそれでもよくなった」
常連客はテーブルに肘を付けながら、フッと笑う。
「おりゃぁ、あんたのおかげで色々と助けられた。3年前、俺が病院に入院してるとき、あんたの言葉を死んだ魚の目をしてるガキに言ってやったよ。何かに
「ふッ……。そうか」
常連客は頭を掻きながら笑みを浮かべる。
「めっちゃカッコつけて言ってやったけどなぁ!」
俺は中華鍋を振りながら、常連客に質問する。
「なぁ、そろそろ教えてくれねぇか。お前が関西人なのはなんとなく分かるが、いつどこでそんな怪我をしたんだ? お前は普段、何をしているんだ?」
「…………おりゃあ、裏の世界の人間だ」
俺は後ろを振り向いて、常連客のことを見つめる。
「…………はっ?」
常連客は構うことなく言葉を続ける。
「詳しいことは言えねぇが、この怪我は任務中にヘマをしちまってできちまった。おりゃあ一生、裏の世界で生きていくんだ。だからよぉ、おっさん……俺がこの店に来なくなったら死んだと思ってくれ」
「…………おう、分かった」
そのような会話をしてから1年後、黒い眼帯をした常連客は……二度と俺の前に姿を見せることはなかった。
☆★☆★
「いやぁ~、お腹がパンパンだ~」
「そうだね」
中華料理を食べ終えて、店を出た俺たちは駅に向かって歩いていた。
「こうやってありさちゃんと一緒に歩けるなんて……俺はまるで夢を見ているようだ」
「不知火くんはアイドルとしての私が好きだからね」
「えっ……? 別にそんなことないけど……」
「…………えっ?」
彼女にアイドルとしての君が好きだなんて言ったっけ? 俺の記憶が正しければ、そんなことは言っていないはず。それなら、彼女は勘違いをしているのか?
「俺は大好きだよ。ありさちゃんのことが……もちろん、鶴瀬有栖としての君のことも」
「えっ……そうなの?」
「うん、そうだけど……どうかした?」
彼女は頬を赤らめて、俺から視線を逸らす。
「つまり、それって――」
「ありさちゃん?」
彼女はブツブツと独り言を呟いている。
「おーい、ありさちゃん」
「ハッ……! な……何か用かな!? 不知火くん!」
「だ……大丈夫?」
「う……うん! だいじょうぶい!!」
彼女は顔を真っ赤にしている。季節は秋ということで、外は比較的涼しい。なんなら、今は夜だから昼間よりも気温が低くなって寒くなっている。彼女の服装を見る限り、別にそこまで厚着をしているようには見えないし……なら、どうして顔が赤いんだ?
「顔、赤いけど……熱があるの?」
「い……いやぁ! そんなことないよ! 平熱だから気にしないで!」
先ほどまでの彼女とは様子がだいぶ違うが……まあ、彼女本人が気にしないでと言うなら気にすることはないか。
俺たちは駅に着いて、別れの挨拶をする。
「それじゃあ、俺は3番線の電車だからここでお別れだね。今日もありさちゃんと一緒にいられて楽しかった。また明日、学校で会おうね」
「…………」
そう言うと、俺は彼女に背を向けてその場から去る――彼女が俺の腕を掴んで静止してきた。
「ありさちゃん?」
「実は私……その……私も不知火くんのことが好きですッ!」
そう言うと彼女は、唇を重ねてキスをしてきた。
そして――唇を離す。
「そ……それじゃあ、また明日!」
彼女は走って俺の前からいなくなってしまった。
俺は彼女にキスをされて頭が真っ白になってしまい……。
「えっ……。どういうこと……?」
自宅に帰ってから冷静になり、彼女がキスをしてきた理由が分かったが……彼女は俺のことが好きだということだろう。そして、俺も彼女のことが好き。
つまり――。
「両思いってことぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!?」
俺みたいな冴えない顔のモブと、アイドルとして活動をしている彼女が釣り合うはずがないと思っていたのに……この世界はおかしなことだらけだ。
「お兄、ご飯できたよ」
「とりあえず、拷問飯食べるか……」
俺と彼女の関係は一体どうなってしまうのだろうか。半分不安で、もう半分は楽しみだと思っている。
「急な展開だな……」
俺はそう呟くと、拷問飯を食べに階段を下りてリビングへと向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――
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以上、作者の髙橋リンからでしたッ!
冤罪をかけられた俺を助けてくれたのは、推しのアイドルでした 髙橋リン @rin0419
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