最高のひととき
「ん? どうかした?」
「いや……」
俺は頬を赤らめながら、彼女のことを見つめる。彼女が衣装を着てライブをしているときも、俺と一緒にいるときも……彼女はやっぱり笑顔が一番似合う! 笑顔でいるときの彼女は、とっても輝いていて……とーっても美しくて可愛い! これだ……俺が見たかった彼女は。
俺は口角を上げ、フッと笑って口を開く。
「笑顔がちょー似合うよ、ありさちゃん」
そう言うと、彼女は頬を赤らめて視線を逸らす。
「あ……ありがとう」
小さな声でそう言うと、彼女は手に持っていた箸で味噌ラーメンを食べる。
俺はそんな彼女を見て、安心するのだった。
「あっ、餃子も食べて」
そう言って俺は、焼かれた餃子が並んでいる皿を彼女に渡す。
天津飯は別に不味くなかったけど……彼女が食べている味噌ラーメンは美味しいのだろうか?
疑問に思った俺は、彼女に質問する。
「その味噌ラーメン、口に合う?」
すると、彼女は首を縦に振った。
「うん、とても美味しいよ」
「それなら良かった」
彼女は餃子をタレに付けて、半分食べる。俺はそんな彼女の食べ方を見て内心思う。なんてセクシーなんだッ!! と。16歳という年齢のはずなのに、ものすごく大人っぽく見える。食べ方もきれいだし、艶のある銀髪が彼女をより一層大人っぽく……輝かせている。オーラがある人間とは、このような人のことを言うのか……。
「どう? 美味しい?」
彼女は咀嚼して飲み込むと……頬を赤らめて頬を触りながら口を開く。
「美味しぃ~!」
「そっか。このお店に来て正解だったね」
「うん!」
俺も餃子を箸で取り、タレをつけて口に運ぶ。
「んッ!?」
俺は衝撃的な美味しさに目を大きくしてしまった。餃子の皮の表面はパリパリで、表面以外はものすごーくモチモチしている。餃子の中に入っているタネは、豚ひき肉にキャベツ……それからニラやニンニクなどが入っており、ニンニクとニラの風味がガツンと香る。家で作る手作り餃子や、冷凍食品の餃子とは桁違いだ。本格的すぎて、この餃子を食べてしまったからには……手作り餃子や冷凍食品の餃子を食べても美味しいと感じなくなるだろう。
「こんなにも美味しいもの食べれて、私……今とっても幸せ!」
「俺もだよ……」
美味しいものを食べれてというのもあるけど……俺が今、一番幸せだと感じるのは……ありさちゃんとこうして一緒に食事をしていることだ。彼女の笑顔を見れて、彼女と一緒に居る……ちょー幸せというしかないだろう! これ以上の幸せ、これから俺は感じることができるのだろうか? もし感じることがあるとすれば、それは……彼女と一生居れることだ。つまり、結婚ということになるな。
俺は天津飯をレンゲで掬って口に運ぶ。
結婚……ねぇ……。彼女と結婚できる確率を例えるなら、宝くじで一等が当選して10億円貰えるくらいの確立だな。何パーセントかって言われても分からないけど……ちょー低い確率ってことは言える。それくらい俺と彼女が結婚するのは難しいと思ってる。現に、彼女は俺のことを好きなはずがないし……。だって顔がイケメンでもなければ、運動神経や学力が高いわけでもない。全て、中ちゅう……もしくは、中ちゅうより下げだ。そんな奴のことを好きになるわけ――。
「不知火くん、餃子……美味しすぎて全部食べちゃった」
「えッ……」
「つい、美味しくて……」
俺はしばらく彼女のことを見つめると……笑い出した。
「プッ、アハハハハ……!」
「不知火くん?」
「いやぁ~、本当に良かった! ここに来て……。餃子、追加で頼む?」
「いいの?」
俺は笑みを浮かべながら、口を開く。
「もちろん!」
彼女は嬉しそうな表情をする。
俺は厨房に立っている店主に声をかける。
「餃子を追加で一枚お願いします」
「はいよ」
彼女はニコニコしながら味噌ラーメンを食べている。俺はそんな彼女を見て、幸せと嬉しさが同時に込み上げてくる。最高のひとときだ……。俺はそう思いながら、天津飯を食べ進める。
しばらくして、追加で注文した餃子が運ばれてきた。
「全部食べていいよ、ありさちゃん」
「えッ……いいの?」
「むしろ、全部食べてほしいかな」
「では、お言葉に甘えて……」
そう言うと彼女は幸せそうな表情で、餃子をパクパクと食べる。そんな彼女を見ながら、俺は小さな声で呟く。
「それでこそ君だよ……ありさちゃん」
食事を終えて、俺たちは席から立ち上がった。
「とっても美味しかった~」
「店主、お支払い――」
厨房に立っている店主は、タバコを吸いながら口を開く。
「あんたらが食ってる姿を見て、おりゃあ気持ちいい気持ちになった。この店をやめなくてよかった……中華料理屋を開業してよかったなぁ~てな。後継者はいねぇけど……んなことどうでもよくなった!」
「店主……」
店主はタバコを吸いながら、微笑んで言葉を続ける。
「だから、お代はいらねぇ。おりゃあ、あんたらのこと応援してるぜ。幸せになれよ!」
「店主……。ごちそうさまでしたッ!」
「ごちそうさまでした!」
俺たちは店主に頭を下げると――店を後にしたのだった。
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