附:世界観・設定資料
◆世界観
20世紀初頭(本作では前作『降誕祭の使い人』と前々作『絆の記憶』の㆒年後にあたる1908年11月頃)の現実世界に限りなく似た、おもにヨーロッパ風の異世界が舞台の、ややスチームパンク的な「西洋近代風ファンタジー」。
現実と同程度の工業技術(蒸気機関、火薬銃砲、電灯など)と科学的知見は、主に西方など先進地域では大都市を中心として既に普及しているが、旧市街や村落部・ことに僻地では、中世~初期近世の面影を残す景観や習俗も依然として残っている。
魔法的異能の類いも、現実世界でエスパーや霊能者がままおり、先端科学も素人目には途方もなく驚異的な技術が現実化している程度には存在し、一般人にも魔法など超自然現象の存在性自体は広く認知されている。ただ、いわゆる「非文明的」要素が依然として残る地域に行けば行くほど異能の使い手はまだ珍しくないが、いわゆる「文明化」の進んでいる地域(特に都市部)ではかなり失伝し(単なる学問体系となり)つつあり、異能は珍しがられたり畏怖されたりしがちな傾向もある。
◇三大魔法体系
*ソーサラー(魔術師)
ソーサラーの用いる「古代語魔法」は、狭義の「魔術」(Wizardry)であり、「マナ」(霊素)と呼ばれる万有の霊的なエネルギー/エレメントを人為的に操作する技術。古代より研究され文献ベースで伝わる、ある種の自然哲学や超自然科学ともいえる理論的・体系的な「魔法学」がれっきとした学術分野として多くの国で公認されており、その研究に基づいて修学次第で理論と術式を習得すれば生来の異能がなくても用いることが可能。とはいえ、魔術の会得にはやはりある程度の才能と、難解な古代語文献を読破研究するという学業的努力が要求される。
「文明国」の大都市にも魔法学院が国家公認で建ち、基本的にはそこで修学して会得・向上する。その学生は皆が皆魔術を会得できるとは限らず、純学術的に魔法学を研究する「
宗教勢力との関係は特段悪くなく、聖職者や修道士を兼ねる者もいる。
*プリースト(神官/司祭)
司祭・修道士などの聖職者/聖務奉仕者のうち、神に選ばれし極一部の者のみが、神に祈りを献げてその力を顕現する「神聖魔法」の使い手となりうる。望んで修練して会得できるものではなく、異能の発現は神の召命としか云いようがない。
現実のカトリック教会・東方正教会に似た西方と東方それぞれの教会伝統がある(その他、東洋には仏教のような宗教などもある)が、完全なる一神教ではなく複数の神格あるいは天使等が信仰・崇敬され、それに応じて修道会派のように東西それぞれの教会組織に内部会派があり(※現実の東方教会には修道会派は存在しない)、会則(徳目的指向性・戒律など)の違いのほか、使用できる異能術式にも多少の差異がある。各々の尊格は人為を超越して霊的に実在すると信じられ(聖俗両面で存在性自体を疑う者は多くない)、物質世界に具体的影響を及ぼしうる存在であるため、尊格の名称・形象など外面的な宗教・教派の違いに関わらず世界共通の異能と類似した会則が存在する。
異能の有無を問わず聖職者は各地域の国家権力から半ば独立した強力な公的身分であり、冒険者に教会・教団公認の聖職者が一人でもいれば、探偵的な事件捜査や悪党捕縛などの際には国際警察組織のように社会的信頼性の高い権威を行使できる。但し、俗人で偶発的に啓示を受けた預言者・聖女など、公認の聖職位(
*シャーマン(精霊使い)
シャーマンの用いる「精霊魔法」は、遍在する森羅万象の精霊(火・水・風などの属性を司る目に見えない霊的存在)を使役して、その力によって異能を実現する術。
エルフ族には基本的に皆ある程度は生来備わっており、その種族出身(エルフ社会育ちのハーフエルフも含む)か、人間のシャーマンの子や孫であるといった、先天的素質と幼少期からの経験が会得には極めて重要である。血縁や幼少期の生育歴なくして会得するためには、隔世遺伝的な素質の片鱗と、熟練術者に付きっきりで師事し、森の奥などに籠もって長年の非言語的修行が不可欠。
現実世界の伝統的霊能者(文字通りのシャーマンなど)に最も近いだろう。一般的に「文明国」において、三大魔法職のうち社会的な優位性は最も低く、身分特権は別段ないうえ、時には畏怖を覚えた権力者や民衆による迫害さえ起こる場合がある。よって、表向きには親和性の高い薬草師や民間療法師として生計を立てる者も多い。
◇異種族
*エルフ、ハーフエルフ
エルフは、主に人里離れた森の奥に秘やかに住み、多くは耳が左右横向きに長いことが外見的特徴の類人妖精族。数百年もの長寿と不老が最大の特徴でもある。
背が高めの人間と同程度の長身と細身・色白美形を典型例とし、基本的に知性が高く生来の精霊魔法に長け、時に一見非力な体軀ながら弓の使い手などとして敏捷さと器用度を活かした物理スキルに長ける者もいる。ゆえに一部地域では、古の神々の末裔、あるいは神的存在そのものとして近隣の人間から崇敬されてもいる。
極めて人間と血統的に近しい種族であるため、禁忌とされる場合も多いが理論的には人間との交配が完全に可能であり、そうして生まれ人間とエルフの中間的特徴を持った者は「ハーフエルフ」と呼ばれる。個体差が著しいが、概して外見は人間とさして変わらず、異能有無はエルフ社会か人間社会かの生育歴によりけりだが、先天的に知能と第六感が優れがちで、その代償として些か華奢・非力かつ男性でも中性的風貌、また寿命120歳程度(但し多くの場合で老いはある)という長寿のぶん発育が若干遅めとなりがちなどといった傾向がある。
*ドワーフ、ホビット、その他異種族事情全般
学習次第で人間と完全に意思疎通と共同社会生活ができる類人妖精族として、エルフの他に、鉱山の洞窟などに住み鍛冶などを得意として、背丈は小柄ながら筋肉質な体型と野趣ある風貌の種族「ドワーフ」と、背も体型も小柄で俊敏を取り柄として、草原や山間部に隠れ里を築き気ままに暮らす種族「ホビット」などがいるが、本作ではメインキャラクターとして登場しないため軽く割愛させていただく。
この世界における異種族の人間社会から見た位置づけは、中南部アフリカ系・先住アメリカ大陸系・オセアニア系等の人種に対する往時の「文明国」の意識と近い。魔法などの異能の存在と同様に、存在は知れているものの「文明国」の都市部に行くほど奇異の目で見られがちで、地域によっては差別・迫害を受けたり、酷いと「狩猟」感覚で虐殺・拉致売買されることすら時にはある。よって、長い耳などの外見的特徴を隠し、普通の人間に擬態して過ごすことが無難である。また同様に、「非文明国」の度合いが増すほど、人間と平和裏に住み分けつつ共存している場合も多くなる。
◆詳細設定
◇地名とモデルの地
*ルーシ帝国(Русь, Rusʲ/Империя Руси)
西方帝国の北東・寒さ厳しい北の大地に広漠な領土を持つ、西方世界から見るといわば「東方帝国」ともいうべき大帝国。ルーシとは、ウクライナ・ロシア・ベラルーシ三ヵ国の根源となった東スラヴ民族の古称。ここでは、それらを包括統治したロシア帝国がモデルの地。西方諸国とは趣の異なる文化と独自の教会伝統を持つ、東方諸国の盟主的存在。近年、
*サハーティア自治国(Сахатия/Сахатская автономная страна)
多民族国家ルーシ帝国の中でも後発で領土宣言され、寒さと遠さゆえに開発もまともに進んでいないツンドラとタイガが広がる極北東寄り僻地の辺境オブ辺境。帝国の統治内で、先住民の族長たちと帝国政府より派遣された辺境総督の合議による自治政府が置かれている。史実のソビエト連邦ヤクート自治共和国(ヤクーティア)→現・ロシア連邦サハ共和国がモデル。
*
西方世界大陸部のほぼ中央、選帝侯国・大公国・大司教領から伯領・修道院領に至るまで大小数多の君主制「帝国領邦」と共和制「帝国自由都市」が、帝都ヴィエンナ(ウィーンがモデル)に君臨する
◇人物・事象等
*ヴォロディーミル・リュリコフ(Володимир Рюриков)
架空の人物。南ルーシ(ウクライナ)系貴族の公子であり、ルーシ帝国海軍所属の情報将校(海軍二等大尉)として、極東の辺境地帯や南ルーシ農村など主に帝国内の沿海周縁地域の先住民・大衆社会と地質を調査探検している。貴族で文筆家・慈善家でもある父と、地元コサック出身の母方双方の影響を受け、気品と剛胆さや庶民感覚を併せ持ち、海軍籍ながらコサック譲りの野営術・騎馬・射撃などにも長けた陸海マルチ(ゆえに、ほぼ陸上任務)。ルーシ語での愛称はヴォーリャ(Воля)。
実はロマノフ朝よりも古いルーシ王族・リューリク朝の末裔のひとつにあたるリヴォフ公爵家の分家筋であり、のちに革命後の混乱の中から紆余曲折を経て、高貴の血筋ながら大衆派・開明派・民族平等派の象徴的指導者として民衆および自由主義勢力(緑軍)に推戴され、「アムール・ルーシ大公国」の初代大公となる。
*ツングースカ大爆発
史実のシベリアでも、1908年6月30日(ユリウス暦6月17日)に突如起こった謎の大爆発事件。隕石の落下であるとか様々な説があるが、今なお以て完全解明されていない。史実で現地調査が行われたのは事件より10年以上経ってからだったが、今作のように情報将校がほぼ単身で軍の密命を受けて調査し、報告書も国家機密とされた、と考えるならあり得なくもない。
凍てつく大地の秘宝 鳥位名久礼 @triona
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