エピローグ
エグチキダンジョンを踏破したことでエグチキダンジョンのオーナーからだと言われて僕が今回使ったVIPルームを俺が使える権利と3000億を貰った。
そのままロマンス本社に向かう。(途中報告でUSBを入手していることを伝えている)昨日メールでダンジョンを踏破したことを伝えている。アポは取っていないが大丈夫だ。僕の考えが正しいなら、彼女は僕に合わざるを得ないからだ。
「いらっしゃいませ。本日はどうされましたか?」
「今井社長に会いに来た。ダンジョンの件でと言えば通じる」
「少々お待ちください。・・・蓮田様でお間違いないですか?」
「はい。そうです」
「了解いたしました。社長室までご案内いたします」
受付けが1人の社員を呼ぶ。その社員は俺を社長室まで案内することを任されているようで、すんなりと通された。
社長室に入ると、中には今井社長がいた。
「虚言様、お久しぶりです。ダンジョン攻略、お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「報酬のお金は後日振り込みますのでご確認してください。では、本題に入りましょう。お渡しする魔導具なのですが」
「そっちが本題なら、アレの話はしませんよ」
「・・・なんのことでしょう」
どうせ報酬の話をしつつ、本題のUSBの話を雑談程度に終わらせて回収するつもりだったんだろう。この人はこういう絡め手が上手い人だ。
「まあ、僕の話を聞いてください。いまからするのはくだらない、ただの妄想話ですから」
「聞きましょう」
「では、始めさせていただきます。今井社長。アナタは今回機密情報の入ったアレをダンジョンごと消して欲しい。そう依頼しました」
「はい。半年以上も前のことになりますけどね」
「いまの僕が疑問に思うようになったことがあるんですよ。なんでUSBを持った社員がエグチキランドにいたことを知っているのか。それについてです」
今井社長はピクリと肩を震わせる。
「はじめは疑問に思わなかった。社員が機密情報を持ち出したことに気付いたから調査した。そしてそのことを突き止めた。と思いました」
「思ったもなにも、そのままでは?」
「早すぎるんですよ。僕に依頼するまでが」
これくらいの大企業だ。機密情報なんていくらでもある。それこそ1つや2つ漏れたところで致命的にならないほどには。なのにすぐに僕に依頼した。配信をしない僕に、だ。
「そもそも、スタートがおかしいんですよ。ダンジョンが生まれた半年前にすぐに依頼した。つまり、ダンジョンに巻き込まれたことを知っていないといけないんですよ」
「可能性として思っただけです。外れていたならどれだけ良かったか」
「違いますよ。この企業はとても大きい。プロジェクトがいくつか頓挫した程度ではビクともしないくらいに。そう、データを盗まれても気にしない程度には」
「・・・」
「なのに今回のことは気にした。捜索するくらいなら配信している探索者の方がやりやすい。なにせ、コメントという自分以外の目がある。それを駆使すれば探し物なんて見つけやすくなる。重要機密もUSBだ。中を見られない限り、配信に映った程度でバレるものでもない」
「知らなかったんですよ。書類だと思っていたので」
「ならなんで、僕の途中経過の際に『パソコンで見ましたか』なんて聞いたんですか?USBだと知っていないとそう返せないはずです」
僕は『重要機密を手に入れました。ダンジョン踏破は続けます』と報告した。USBを手に入れたなんてひとことも言っていない。
「それで疑問は確信に変わりました。アレの中身は重要機密ではある。だがそれは見られたら致命的になるもの。そうですね?」
「・・・なら、あの中身はなんだと思うのですか?」
本題か。まあ、もったいぶる必要もないな。
「半年前、あの遊園地では10周年記念のイベントが行われていました。当然、記者が大勢いたことでしょう」
「ですね。あの日のことはネットニュース以外にも雑誌などで取り入られましたから」
「そして、あの男性は借金に困っていた。遊園地内で闇金の取り立てと遭遇しました。諦めずに足取りを追っていたようです。
「そうなのですか?そうは見えませんでした。真面目な一社員でしたので」
白々しいな。
「中身は見てないし、おそらく消化されていた影響で端子が溶けているから見ることもできません。が、借金に困った人が記者が確実にいるその日に遊園地にいた。つまり、USBは他の企業ではなく記者に売ろうとしていた。ということです」
「なぜそうだと?」
「日本どころか世界中に事業展開している大企業が黒字になる企画。そんなものそこらの企業が買ったところで設備不足で実現できない。なら、中身は企業に渡すことを目的とするプロジェクトのデータではなく、記者に売ることを目的とするもの。つまり」
スキャンダル
「これくらいの大企業の社長だ。脱税なんかはする必要がない。していたとしても政府ともズブズブだろうからもみ消せる。それに、あなたは必要以上に嘘を付かないそんなタイプの人間だ。なら、アナタの話を事実だとする。ただし、反対にね。つまり」
「ええ、その通りです。産業スパイをした企業は私。彼はその情報を記者に売ろうとしていました」
「・・・あっさり認めるんですね」
今井社長はニコリと微笑むと言葉を続ける。
「はい。だって、虚言様は世間からの信頼がないじゃないですか?そんな人がなにを言ったところで僻み、中傷、イキリ、そんな感じで終わる。そう思いませんか?」
「まあ、そうですね。政府関係とは仲がいいけど、民衆とは仲が悪いですから」
記者とかテレビ関係者とも仲がいいけどね。僕を取りあげて貶すだけでお金になるんだから。
「それと、あのダンジョンは自然発生したものでもない。あまりにも場所が限定的で広がらなすぎる。そうですね」
「我が社には『ダンジョン練習セット』というものがあります。擬似的なダンジョンを決めた座標に作り出し、その中にホログラムのモンスターを生成してダンジョン攻略をシミュレートするというものです」
「・・・なんの話ですか?報酬の話はしてませんよ」
「この商品ですが、実はしてはいけないことがあるんです。例えば『本物のモンスターを入れてしまうとダンジョン化する』というものです。あ、テイムされているモンスターは除きます。首輪や紋章で判別するようにしています。まあ、禁止事項にも書いていないことですけど」
「・・・まさか」
「苦労しました。テイム用のモンスターの卵を競り落とすのは。ですが、それだけで証拠を、裏切り者を簡単に消すことができました。巻き込まれた方々は災難でしたが」
狂ってるな。
「それで、僕に依頼をしたと」
「その通りです。まさか半年も無視されるとは思っていませんでした。ですが、配信を確実にしない探索者が虚言様だけでしたので、しかたなく」
「封鎖させた。ということか」
「おや、そこまでバレていましたか」
お気持ちという名の報酬を貰うときにオーナーと電話で話した時に聞いたことだ。
不必要に人が集まるといっても一部の区画だけ、活性化の恐れがあるから探索者が入るのは推奨しないのかと。すると外部から圧力があったと言われた。あの規模のテーマパークに圧力を掛けられる圧力があり、掛かる必要があるのは彼女しかいない。というほぼ言いがかりの推理だ。なのに彼女はあっさりと認めた。
「・・・まあ、正直気になっただけです。あなたが言うように僕には世間からの信用がない。だから誰にも言わないし言っても無駄だ。だから大人しく報酬を貰って帰りますよ」
「はい。そう言ってくださると思いました。では、USBを」
「はい」
USBを渡す。偽物にすり替えて、なんてことはなく本物をだ。どうせこれには証拠になる力はない。いや、もうない。
「では、カタログの方は後日お送りいたします。欲しい魔導具がありましたらメールでお伝えください」
「わかりました。・・・ああ、そうだ。最後にひとつだけ」
「はい」
「なんで殺したんですか?」
「はじめに言ったはずですよ?」
彼女は純粋無垢な目をしながら口を開く。
「無料で行われる信頼関係なんて信用できません。友達は自分の生活を豊かにするために、結婚はコミュニティを作るために、会社はビジネスのために作るものです。それでも裏切る者はいます。現に、共同開発を持ちかけ、その企業のノウハウを盗ませる私のような経営パートナーがいます。そして」
口止め料を貰っておきながら裏切った裏切り者がいた。
「ただ、それだけのことです」
「そうですか。もうしないでくださいね?」
「・・・はい」
「では、またどこかで」
「はい。そのときはまた」
そうして僕は家に帰宅する。
僕は正義を掲げる主人公なんてタイプじゃない。そんなものは最近有名になっているあの少年がしてくれるさ。
正直なところ、彼女が人を殺そうが、そして、殺されようが僕は知ったことではない。
きっと彼女は知っている。自分がまともに死ねるはずがないと。だからまともに生きることをやめた。
僕に世間からの信頼はないが、それでも記者に知らせれば面白がって調べるかもしれない。その結果、会社のイメージが落ちるかもしれない。そして、そうなってもしかたがないとどこかで思っている。そんな気がする。
僕もそうだ。世間から認められずに貶され、蔑まれる。
だから嘘をつかないことを辞めた。僕は自分で自分が話していることが嘘なのか本当なのか自覚できていない。
この思考だって嘘なのかもしれない。
嘘だと思っていることが本当のことなのかもしれない。
僕は人間だ。だから平気で嘘をつく。
僕は人間ではない。だから人間として振る舞うために嘘をつく。
僕は僕だ。だから、僕は僕であり続けるために嘘をつき続ける。
それが、僕が僕である唯一の証明なのだから。
風当たりの強い探索者は引退したい 遊佐 浮幽 @Zb567
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