ウンシュルディケ・アーシェ 罪なき方舟
宙灯花
第一章 しのびよる [1]2020年1月 襲撃 1―1―1 刈り取る
夜空に満ちた星々が、黒い山脈を見下ろしている。
その
ナビシートに座る
去年の夏、
「
運転席から鋭く声がかかった。
やがてトラックは舗装されていない道に乗り入れた。荒れた大きな
左に山肌が迫り、右は底知れぬ崖だ。連続する急カーブのせいで先が見通せない。少しでも操作を誤れば、取り返しのつかないことになるだろう。たとえ白昼でも、のんきなドライブというわけにはいかない状況だ。だが、
しばらく進んだところで左に大きく曲がった。唐突に右側に視界が開けた。崖の上だ。下界の街明かりが遠く
道の左側、切り立った斜面の手前に平地が広がっている。奥の方に、ぽつん、と
助手席のドアが音もなく開いた。
一切の装飾を排した無骨な編み上げブーツで大地に降り立つ。膝上丈のハーフコートスタイルの戦闘服は、月明かりの
立て気味の襟の上でうつむき加減に門を見つめる
輝かしい未来、か。
表札を
建物の入り口は重厚な金属の扉によって守られていた。施設の役割から考えると不似合いだ。襲撃を警戒してのことだろう。
扉の数カ所に粘土のようなものが押しつけられた。C―4爆薬だ。すかさず全員が左右に散って地に伏せる。夜空に爆発音が遠く響いて山々に木霊した。扉は噛み合わせ部分のロック機構を破壊されて歪んでいるが、それ自体が持つ質量が相変らず進路を塞いでいる。
センサータイプのフットライトが反応する間も与えずに
ガラス張りの部屋が通路の右側にいくつか並んでいる。ドアはない。部屋にはそれぞれ六台のベッドが、あまり間隔を空けずに置かれていた。間を仕切っているのは薄いカーテン一枚のみだ。お世辞にも快適に眠れる環境だとは言い難い。大きなスペースを用意できるだけの経済的余裕がないのだろうか。
通路の先は広場になっていた。リクリエーションのために用意された空間だ。壁際に押しやられた旧式の大型テレビが、窓から入る月明かりを受けて合板製のフロアタイルに薄く影を落としている。だが、果たして有効に活用される機会はあるのだろうか。
「
「了解」
「なにやってるの! あなたたち」
突然、女の大きな声が館内の空気を震わせた。同時に、照明が一斉に点灯した。
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ウンシュルディケ・アーシェ 罪なき方舟 宙灯花 @okitouka
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