第2話
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「二人です」
「空いてるお席にどうぞ~」
「どこにする?」
「どこでもいいっしょ」
俺達はそのままレジに近い席に座って、メニューを手に取り、広げる。
色彩豊かな料理たちの写真の中から俺は茶色一色のハンバーグを選んだ。
「決まった?」
「あぁ、うん」
シンヤがボタンを押し店員を呼ぶ。無機質なチャイム音が店内に響き渡った。
程なくして店員がやってきた。シンヤはカレー、俺はハンバーグを注文する。2人して真っ茶色である。
ドリンクバーでは無難に烏龍茶を選び俺達は席に戻った。ここでも茶色だ。
「急に誘ってごめんな。話したいことがあって」
シンヤは烏龍茶を一口飲んで話を始める。
「俺、バイトやめようかなって思ってるんだよね」
「んえ」
口に運んでいたコップが止まる。
意外だった。つい今日まで笑顔でバイトしていたシンヤがまさか…そんなことを口走るなんて。
「な…なんで?」
「いや~なんか…」
ごくり。
「飽きた…みたいな?ハハ…」
「はぁ…」
肩の力が抜ける。そんなことだろうとは思っていたがいざ面と向かって言われるとため息が出てしまう。
「まぁ、半分冗談。素直に言うと人間関係がな~。ちょいとな」
「なるほどね。言われてみれば俺としか話してないな」
「ちょ、おい」
シンヤは良く言えば元気というか…悪く言えば、チャラい。
好きなことに本気すぎて、度々人を困らせている。
「なに、じゃあ次どこでバイトすんの」
「静かなとこが良い…本屋とか…?」
「ん。すぐ辞める?」
「かな」
「わかった。俺も準備する」
「え」
「え。じゃないよ。ついて行くよ」
シンヤとバイトするのは楽しいから、もう離れようとも思わない。腐れ縁ってやつだ。
「それは予想外だったわ…」
「こっちはその反応が予想外だわ」
「こちらカレーとハンバーグになりまぁす鉄板お熱いのでご注意くださぁい」
「あ、ありがとうございます」
女性店員がテーブルにカレーとハンバーグを置く。
カレーは湯気を立たせ、ハンバーグは鉄板の上でジュウジュウと音を立てる。
なんとも食欲をそそる光景。あふれる涎をグッと飲み込んだ。
「とりあえず食べよう。いただきます」
「ん。いただきまぁす」
ナイフでハンバーグを4等分にした後、フォークを刺してグッと口に押し込む。
香ばしい香りが鼻を抜け、程よい酸味が舌を刺激する。文句無しにめちゃくちゃ美味い。ファミレスも侮れないな…
「普通に美味いな」
「いやそれな。びっくりしたわ」
「ハンバーグ一口いる?」
「んだそれ恋人かよ」
「…NOってこと?」
「――もらうわ」
「ふっ」
「鼻で笑うな鼻で!」
ぷんすか怒りながらシンヤは俺のハンバーグをスプーンで取ろうとした…が上手くいかず目の前で四苦八苦している。
「俺のフォーク使う?」
「いやだから恋人か」
吐き捨てながらスプーンをブスっとハンバーグに突き刺し口に運ぶ。なんともお行儀の悪い…
「横着すんな彼女できねぇぞ」
「死ね」
ハンバーグをほおばりながら俺に中指を立てるシンヤ。
こいつは友達はたくさんいるが彼女がいない。本人曰く『作ってないんだよ』とのことだが言い訳でしかないわけで。
なぜ彼女ができないかというと、距離の詰め方が極端に下手くそなのだ。ナンパみたいなノリで話しかけに行くもんだから、大抵キモがられて終わってしまう。
本屋に移動したところで結局同じことになるような気がするが、まぁ自分も今のバイトは微妙だなーと思っていたところだ。
「本屋ねぇ……たまに行って小説買ったりはするけど、あんま馴染みないな」
「わかるわ。てかお前がおすすめしてくる小説って絶対主人公が不幸になるんだよな…」
「なんとなく好みなんだよ」
人の不幸で作曲をすることは出来ないから、これは嘘では無い。マジのマジでただの好み。
ハンバーグを咀嚼する音を飛び越えて、四方八方から子供の声が聞こえてくる。いかにもファミレスって感じ。
たまにはこう言うにぎやかなところで羽を伸ばすのも悪くない。
気づけば鉄板の上からハンバーグは失くなり、黒光りする鉄板だけが目の前に残っていた。
シンヤも皿を空にして、口を拭っているところだ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした〜。割り勘な」
「はいはい」
俺はハンバーグ分の金額を、シンヤはカレーライス分の金額を払い、店を出る。
夜風が吹き抜け、身体をすぅっと冷ましていく。いつのまにか外は真っ暗だ。
「急に呼び出してすまんかった。んじゃ、バイトのことはまた連絡するね」
シンヤはそう言って俺に背を向けた。無駄にクールな去り際である。
「はーい。またねー」
俺が言うと、シンヤは右手を挙げヒラヒラと振った。
なんかキザなんだよなぁと思いながらも、俺も帰路に着いた。
哀の歌 ゆき @yukiyukiay
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