第3話
「俺も別れたくない。ずっと一緒にいたい」
「……」
「だから…一緒に住もう」
別れよう、と言われると思っていた私は彼の言葉を理解するのに時間がかかっている。
「…え…?」
涙と鼻水でグシャグシャの顔も気にせず彼を見つめる。
「え、だから…一緒に暮らしませんか?」
「……」
「今日で…2年だし」
彼は少し困ったような照れたような表情を見せた。
「……私の事嫌いになったんじゃないの?私の事…好きなの?」
「…好きだよ。ちゃんと好き。すごい好き。わかりづらいかもしれないけど」
と言ってクールで無口な彼の目はしっかりと私を見つめる。
「別れようって言われると思ってた…」
今度は嬉しくて止まらない涙。
「…俺も。なんか最近元気ないからもうダメかと思ってた」
彼も不安だったんだ。
私たちはお互いを信じる事をいつの間にか諦めてしまっていた。
彼の気持ちがわかった途端、頭も心もスッキリしてジワジワと体温が上がっていく。
「…元気なくなったの誰のせいなんだろ?」
「…わかんない。それより顔、すごい事になってる」
彼は私の涙を拭うとチュと短いキスをして誤魔化すとギューと抱きしめてくれた。
彼はクールで無口だ。
何を考えてるかわからない時もあるけど、彼はいつも何か考えている。そして言葉に出さずに行動する。
「ごめん」
「なにが?」
「顔すごい事になってるとか言って」
「ふふ。メイク落ちて汚いよね」
「嫌いじゃないよ、その顔も」
見つめ合って抱き合って久しぶりの長いキス。
甘い言葉をくれる彼ではないけれど、今日の彼のキスはとっても甘い。
テーブルに置かれた彼のスマホのディスプレイには、不動産サイトの新婚さん向け新築マンションのページが表示されていた。
――2ヶ月後。
『さっきはごめん』
何度も聞いたこのセリフ。
『忙しくて電話出られなかった』
でも今は大丈夫。
「今日何時くらいになりそ?」
『わかんない』
2人で決めたこの部屋に
「今日ハンバーグだよ」
『…なるべく早く帰ります』
毎日彼が帰ってきてくれるから。
「がんばって」
「うん、ありがとう。…あ、あとさ、」
「ん?なに?」
「……………大好きだよ。帰る時連絡する。じゃ」
クールで無口な彼だけど、私の作るハンバーグが大好きで突然大好きって言ってくれる彼が、私は大好き。
別れの予感 まりも @maho-marimo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます