第29話 ボックスランド







 モエモエが叩いた壁の所は、部屋の明かりのスイッチがあった箇所だ。

 結局そのスイッチの、二重押しが床扉の開閉だったようだ。


 地下へと続く階段を降りると、金属の扉がある。

 その扉の開閉キーこそが、カニ男の持っていたカードキーだった。


 そしてリュウがカードキーを通し、扉を開けようと試みる。

 だがここで再び問題が発生した。


「なあ、ハコ社長、暗証番号が必要みたいだぜ。番号分かるのか?」


 リュウがそんな事を言ってきた。

 扉にはパネルが光っていて、そこに番号を打つキーが表示されている。


 そんな番号、俺が知ってる訳ない。だからといってカニ男からはもう聞けないしな。 


 そんな時は俺の出番だ。


「ちょっと、どいてくれるか」


 そこで俺はドビラの前に立ち、魔法詠唱を始めた。

 アンロック魔法だ。

 

 スズとリュウが「出たな、お得意の魔法」とか言ってくる。

 この時点で他の社員も、俺の能力のことは知っている。

 隠すことはない。


 そして魔法発動。


 パネル付近が一瞬だけ光輝く。


「良し、開けてみろ」


 俺がそう言うと、リュウが扉を開けようと力を込める。


ーーが、扉は一向に開く気配さえ無い。


 リュウがりきみながらボヤく。


「ハコ社長、全然開いてねえぞっ」


「どうやら魔法対策もしてある様だな。これは困ったな」


 そこへスズが前に出て来て言った。


「これって、パネルの汚れている所を押せば良いんじゃないっすかね」


 見ればパネルの数字部分が、縦に一列指跡で汚れていた。


「さ、さすがスズだな。よ、良し、押してみるか……」


 カードキーを通した後、暗証番号に挑戦してみる。

 まずは縦一列の、指跡の付いた番号を押してみる。


 見事に扉は開いた……


 何故か恥ずかしい。

 古典的な暗証の見破り方であった。


 扉が開くと自然に電気が付いた。

 中はかなり狭い部屋、というか倉庫。

 五メートル四方程の倉庫だった。


 バクレンとリュウが飛び上がって喜ぶ。

 「酒だ酒だ」と二人してうるさいのだが、俺もほほが緩みっぱなしだ。

 

 棚を確認するとカニ男が言った様に、カップ麺とヤキトリ缶に缶ビールが結構な量が保管されていた。

 それ以外にワインが数種類あった。

 ワインは金になる。

 金持ち連中が高値で買ってくれるからだ。

 残念ながら大分飲まれてしまったらしいが、まだケース単位で残っている。

 これは良い掘り出し物だ。

 それにカップ麺も人気商品で、市場に出れば比較的高値で取引される。

 そして変わり種としてカロリーメイドという栄養スナックがあった。

 まあ、これはそこそこの値段にしかならんがね。

 しかしこれらを全てさばき切れば、大儲け出来るだろうな。


 俺が品定めをしていると、気になる音が耳に入る。

 「プシュッ」という音だ。


 嫌な予感がして振り返る。


「かんぱ〜い」

「カンパイッ」


「かんぱ〜い、じゃねえだろ、こら!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 バクレンと赤毛の女だ。


 するとバクレン。


「はぁ、何を怒ってんだ?」


「俺の許可無くして勝手に商品に手を出すな!」


「う〜む、そうか。ボスの許可は必要だったな。すまん」


 そして赤毛の女。


「あ〜、私も悪かったよ。んで、この開けちまった缶ビールはどうするのさ」


 捨てろとは言えないしな。

 そうなったら飲むしかないだろ。


 だがな、こいつらだけって訳にはいかないよな。

 当然ここにいる全員だ。


「くそ、仕方無い。飲みたい奴がいれば、一本飲め。ただし、飲む奴は帰ってから飲む分は無しだからな」


 モエギ団の連中は扱い辛いな。


 こうして俺達はスカル団の隠し倉庫の中身を、手に入れる事が出来たのだった。


 


 □  □  □




「おい、こら、舐めてんじゃねえぞっ。少なくてもな、その倍じゃねえと卸さねえぞ」


 そう凄みを利かせるのは、ヤンキーモードのモエモエだ。

 相変わらず声は幼い。


 買取屋でカロリーメイドの売り込み中なのだが、最近このヤンキーモードの変わり身が激しい。

 まあ、今のところは良い方向に傾いてて良いのだが。


「わ、分かったよ。姉ちゃんには負けたよ……」


 予想以上の買い取り値段だった。


 それからワインにカップ麺にと、モエモエのおかげで高く売ることが出来た。

 ただし缶ビールとヤキトリ缶だけは、売らずに保管してある。

 もちろん自分達用にだ。それを売らなくても、ワインが圧倒的稼ぎを叩き出してくれたからな。


 それから一ヶ月程が経った。


 武装バスの修理や整備は滞りなく終了し、三台の武装バスはハコザキバス会社として営業を行っていた。

 カニ男の倉庫の品を売った金と、スカル団の使っていたトレーラーを金に変え、バスの修理や運営資金にしたのだ。


 二台のバスは路線バスとして街を繋ぐ定期便として走り、残りの一台はと言うと、観光バス的な営業を行っていた。

 観光と言ってもこの世界、やれることと言えば魔物狩りだ。

 狩場に行って銃で魔物を撃つだけのツアーだ。

 その帰りには道の駅“カレン”へと立ち寄り、名物となっているカレン婆さん……じゃなくてカレン嬢のカレンライスを食べると言うもの。

 カレン嬢からは客の紹介料として、売上の何パーセントかをもらう。


 実はこの観光バスが、金持ち相手に大当たりした。

 バスガイド役をモエモエにしたのも正解だったと思う。

 ガイドをしている時は可愛い女の子なのだが、一旦魔物狩りとなると豹変ひょうへんしてヤンキーなモエモエになり、警棒と盾を持って突撃する姿が金持ち客に大ウケした。


 そして狩りが終われば再びバスで移動。

 バスの中には“カレーライス”の広告を掲示。

 そしてちょうど腹が減ったタイミングで、道の駅“カレン”へと到着する。

 そこでカレン嬢の店へと連れて行く。

 

 そこで食った、カレンの店の“カレンライス”がマズいと感じる訳が無い。


 道の駅“カレン”、ハコバス共に大盛況となった。




 ★  ★  ★


 


 その後、ハコザキバス会社は順調に売上を上げていき、武装バスの数は三倍にも増え、三年後にはさらに台数は倍増し、この地一帯でハコザキバス会社を知らない者はいなくなる。

 

 そしてビックランドは再び街として機能するようになった。

 


 さらに十年後には、この街の名が「ボックスランド」と名を変えるのだが、そのことはまだ誰も知るよしもない。



 もちろんボックスとは“ハコ”バスの箱からとったものである。






 


 ーー完ーー




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荒廃した地を武装バスが行く 犬尾剣聖 @duck0403

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