エピローグ
ヴィティ様失踪より3年。
俺(エスペン・マケア)は、失踪したヴィティ様の代理として、アレキサンドライト王国カース領の運営業務に追われていた。
***
ヴィティ様失踪については、王国北海域の防衛に支障をきたす恐れがあることから公表されず。『ヴィティ様は、休暇中』と答えるよう、王国の宰相スチュワート様より仰せつかった。
3年前に行われた王国側の調査によると、(以下、スチュワート様の説明)
「誘拐や拉致などの事件性はなく。移動用
俺も、信じている。
ヴィティ様は、必ず
*** ***
そして、3年。
あっという間だった。
さすがに、3年も『ヴィティ様は、休暇中』で通すのは厳しいと、本気で考え始めた頃だった。
【ノール帝国の皇帝アレクサンドル・ノールが、病により失脚。ノール帝国内では、政権の争奪による内戦が勃発】との報告が城に届いた。
これにより、アレキサンドライト王国・北海域のノール帝国軍の脅威が解消された。
それに伴い、同盟国の親善大使としてアレキサンドライト王国に滞在していたゲオルグ殿下は、来週、母国ジェダイドへ一時帰国する予定だ。―――
***
「ヴィティ様は、記憶を取り戻されたのではないのでしょうか?」(ゲオルグ)
カース城の執務室の窓辺で、ゲオルグ殿下が陰のある表情でつぶやいた。
―――俺も、同じ事を幾度も考えた。
ヴィティ様は、最恐最悪の魔女。
以前のヴィティ様に戻られたのなら……。
まず、真っ先にメルヴィル様夫妻を見つけ出し、手にかけるだろう。
それから、魔力が湧き出る聖地アクアラグーンを占拠し、王国全土で殺戮の限りを尽くす。王国側に協力した俺たちもどうなるか……。
だが、いまだにそうなっていないということは、ヴィティ様はまだ、『あのヴィティ様』の可能性が高い。
だとしたら……。
ヴィティ様は、いったい、今、どこで、何してんだ。
考えると、不安が募った。―――
「そーかもしれないですね(棒読み)」
不安を振りはらうように、ぶっきらぼうに答えた俺は、デスクに積み重なった書類の山を、おもむろに見上げた。
いや、待てよ。
「あいつまさか、とんずらしたんじゃ……」
ゲオルグ殿下もハッとし、その書類の山を見つめフッと吹き出した。
「そう考えますと、辻褄が合いますね……クスクスッ」
「うわ。そういや、書類片付けながら『天使界のロドスや、妖精族の聖地サンマリノに行ってみたい!』とか、『聖地巡礼!』とか、ぼやいてた。もしかして、今頃……」
コンコン……
ガチャ
「ゲオルグ殿下、馬車の準備が……って、楽しそうに何を話されて?」
白い礼服姿のコンラードが額に大粒の汗を滲ませ、俺たちに尋ねた。
「ヴィティ様の事ですよ、もしかして、この仕事に嫌気がさして、逃げたんじゃないかって話になって。今、王国内でヴィティ様が行きそうな場所をピックアップしてたんだ」
「それで、ロドスやサンマリノに行きたいと、仰っていたのを思い出しましてね」
「おお、そういうことか!……俺が聞いたのは、キャージュ城とその庭園。噴水が素晴しいとかなんとか」
「キャージュ。王国の南西の城か……」
「申し訳ない、コンラード。私は、少し王国を周遊してから国へ戻りたいと思うが……これから手配できるか?」
「かしこまりました。ロドスにサンマリノ、キャージュですね」
「あと、念のためアクアラグーンにも。妖精王の王子のレグルス様なら、もしかして、ヴィティ様の居場所をご存じかもしれませんので」
「では、すぐに手配します! じゃあ、エスペン。旅費関連の請求書はここへ回すから、立て替えておいてくれ」
「え!? ちょっ、仕事増やすなよ!」
「ヴィティ様を連れ戻すまでの辛抱です。頼みましたよ。エスペン領主代理」
「え~っ!?」
―――ヴィティ様失踪より3年。
ようやく、本格的な捜索が開始された。
*** SIDE ???・『幻の森』 ***
鬱蒼とした神秘の森に、愉し気な子どもたちの声が響く。
「ウィル、ルー、フィオ。 父さんとオスカー兄さんが、シカをしとめたって」(レイ)
「まじで!?」(ウィリアム)
「やったー にく!」(ルーシー)
「にくーーー!!!」(フィオナ(ヴィティ))
駆けていく子どもたちを追うように、木々の合間から半透明の大きな人影がスッと現れた。
『ハッハッハッハ、面白いことになっておるのう。どれどれ……』
その半透明の影は、虹色の粒子へと姿を変え、風に乗って子どもたちを追いかける。
ヒューーーーーーーー
「風が出てきたな」(レイ)
「きもちいー」(ルーシー)
「あのかぜ なんか きらきらしてる」(ウィリアム)
「しょれより おにく!」(フィオナ(ヴィティ))
「きらきら……ん!?」(レイ)
レイは、警戒し周囲を見渡した。
「どしたの?」(フィオナ)
「いま変な気配がして……」(レイ)
ヒューーーーー
その風は、木々を揺らし、黄色い花の雨を降らせた。
「わあ!」(ルーシー)
「きんいろの あめ!」(フィオナ)
「うまそーーーう!」(ウィリアム)
『ハッハッハッ……』
レイが、瞬時に視線をこちらへ向け、弓を構えた。
「レイにい どうしたの?」(ルーシー)
「いま、男の笑い声が、聞こえたような……」(レイ)
―――勘の良さは、テオドールにそっくりだな。こわいこわい。
気付かれる前に、退散するか――――
ヒューーーーーーーーーー
ひとしきり子どもたちの頬を優しく撫でた風は、枝葉を揺らし花を降らせ、どこまでも澄んだ空へ消えていった。
*** *** ***
数年後。
氷の魔女ヴィティは、ジェダイド帝国の大使・ゲオルグ殿下の号令のもと編成された捜索隊によって、『幻の森』付近で救助(?)される。
無事、カース城へ戻ったヴィティ様の物語は―――――
―――――たぶん、まだまだ続く。
『クスッ……』
私は、まだ『夢の中』にいる。
*** END ***
皆様のあたたかな評価&♡応援ありがとうございました!!!
目覚めたらラスボス魔女になっておりました。 R… @fensalir8
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