わたしのために、雨は降らない。

神武れの

雨滴が濡らすのは、地面か頬か。

 私は、あの人のことが好きだ。


 そして、あの子もあの人のことが好きだった。


 だから私は、あの子があの人と同じクラスになって、私があの人と違うクラスになった時、悲しくて胸が痛んだ。


 けれど、そんな時にふと窓の外に目をやると、空模様は私の心と裏腹に、清々しく晴れ渡っていた。


 あの人が生徒会会長に立候補すると聞いて、私とあの子は副会長に立候補した。


 そして、あの子が生徒会役員に選ばれず、私が生徒会役員に選ばれた時、嬉しくて胸が弾んだ。


 けれど、ふと窓の外に目をやると、空模様はまるであの子の心を映すように

どんよりと暗かった。


 そうして、あの人と一緒に生徒会活動をしていく中で……ついに気持ちが抑えきれなくなった。


「……ごめん。俺には好きな人がいるんだ」


 返事は、たった二言だった。


「……そう、ですか」


 その答えは、告白する前から薄々分かっていた。


 それでも、胸を貫くような痛みは悶えるほどに辛かった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 どれほど時間が経っただろうか。帰路につこうと、とぼとぼと校門へ足を運ぶと、あの子とあの人が手を繋いで一緒に帰ろうとしているところが見えた。


 二人とも、この上なく幸せそうに笑みを浮かべている。


 そして空は、まるで二人を祝福するかのように晴れ渡っていた。


「あぁ、そっか」


 ……思えば、いつもそうだった。


 私が悲しい時には、そしてあの子が喜んでいる時には、


 私が嬉しい時には、そしてあの子が悲しんでいる時には、


 空模様は、あの子の心を映して、私の心は映さない。


 そこで、ようやく気付かされた。突き付けられた。


 私は、主人公であるあの子を引き立てるためだけの……ただの、端役に過ぎないんだということを。


 雫が、頬を伝った。


 しかし、雨が打ちつけて涙を洗い去ることはない。


 涙を乾かすように……最初から無かったことにするように、雲一つない空には、

夕日が照っているだけだった。


 ──脇役わたしのために、雨は降らない。

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