戦闘、そして家来。
一方その頃桃太郎は。
「ギャーッ!」
最期のレッドキャップの背中に刀を突き立てトドメを刺す。
「まぁまぁだったな」
レッドキャップの体から刀を引き抜く。
「さて、いつまで隠れてるんだ?姿を見せろよ」
刀に付いた汚れを、腕で挟み拭うと鞘に納める。
桃太郎はレッドキャップの近くに落ちていた斧を拾うと。
「だせぇことしてんじゃねぇーよ」
何の変哲もない地面へと、その斧を投げつける。
地面に突き刺さるその瞬間、地面から白手袋をはめた手が現れ、斧を受け止めた。
「危ないですねぇ。言葉遣いも荒いようですし。これだから人間は野蛮で嫌いなのですよ」
不気味な声音の何かが、浮かび上がり姿を現した。
その姿は、モノクルを掛けた執事だった。
「しかし、
その人物の首から上は、ネズミのような顔をしており、大きな口を歪めて不気味に笑っていた。
「なんだてめぇ。気持ちわりぃなぁ」
その様子を見ていた桃太郎は、表情を嫌悪に歪める。
「さぁ!この
どこか気取った仕草で、エザルデは右手を前に掲げ、左手は腰の後ろにそっと回す。
そして、その掲げた右手には、複数の黒い球体が出現すると、そのまま桃太郎へと飛んでいく。
「スゥー……フッ!」
桃太郎は、高速で飛翔する複数の黒球を一刀で切り裂き霧散させた。
パチパチパチ。
その様を見ていた、エザルデは拍手した。
「今ので終わってしまうようでは、拍子抜けでしたからね」
こちらを見下すエザルデに桃太郎は、さらに嫌悪感を強める。
「チッ。てめぇ嫌いだわ」
「その
「あっそ。とりあえず、その減らず口切り落としてやるよ」
再度、刀を納めた桃太郎は、腰を落とし一足飛びにエザルデの懐へと潜り込むと、その口に目掛け一閃した。
「おっと!危ないですねぇ」
エザルデは、 腰を仰け反らせ回避し、そのまま大きく後ろへ跳躍し距離を取る。
その際、長く伸びた髭がパラパラと舞い散った。
「ふむ。いい感じに整えて頂きありがとうございます。戦うより散髪などのお仕事の方がお似合いなのでは?」
右手で自身の口元を撫でながら、挑発するように笑う。
「だぁー!一々人様をおちょくらねぇーと戦えねぇーのか!?」
怒鳴りながら、地団駄を踏む桃太郎。
エザルデは、その様をほくそ笑む。
「これで終わってしまっては興覚めですからね。防いでくださいよ」
右手を掲げ開く。
すると、桃太郎の周囲360度を囲むようにして、夥しい数の黒い槍が出現した。
「あぁん?」
桃太郎は、自身を囲むようにして現れた槍を見上げた時、エザルデは開いていた手を閉じる。
ドドドド......。
それが合図だったかのように、黒い槍は一斉に降り注ぎ、桃太郎が居た場所は砂塵で覆われた。
少しの静寂が流れ。
「……ふむ。
エザルデは、顎に手を当てながらどうやって参加しようかと考えながら、影の中で沈んで行こうとした時。
「ここの連中は俺をホコリ塗れにすんのが好きなのかよ」
「ん?」
エザルデは、その言葉に沈むのやめ振り返ると拍手をした。
そこには、砂塵が徐々に晴れていく中、額を血で染めた桃太郎が立っていた。
「いいですねぇ!完璧に防げなかったのは減点ですが、まだまだ楽しめる事ですから目を瞑りましょう」
「何が減点だよ。ふざけやがって。……はぁ、綺麗に
桃太郎は、手に持った一振りと腰に差してあったもう一振りを外しその場に捨て、拳の調子を確かめる。
「俺には、やっぱこっちの方が性に合ってんだよなぁ!」
その言葉を切っ掛けに桃太郎は、倒れ伏しているトロールまで駆け寄ると、側に落ちていた鉄を固めただけのような棍棒を拾い上げ、そのままエザルデへと投げつけた。
「そんなもので
余裕を持って避けたエザルデだったが、棍棒の陰に隠れながら近づいた桃太郎が顔面を殴りつけた。
ドン!ガラガラ!
殴られた衝撃で壁まで吹っ飛び崩す。
「おいおい。これぐらいも避けられねぇーのかよ。だっせぇ!」
ここぞとばかりに桃太郎は煽り返す。
「き、貴様!貴様!貴様ァ!ゴミ虫風情が!この
瓦礫の中から、出てきたエザルデは目を血走らせ、口からは涎をまき散らしながら怒り狂っていた。
「ハッ!どこが高貴な顔だよ!ブサイク過ぎてわからねぇなぁ?」
その言葉に、毛をより一層逆立てる。
「ただ殺すだけでは物足りない!爪を剥ぎ、全身の皮を剥ぎ、生きたまま内臓を引きずり出してやるっ!」
全身から目に見えるほどの黒い魔力を迸らせる。
その魔力は次第に、エザルデの足元で無数の黒いネズミを形成し、桃太郎へ襲い掛かった。
「ネズミ野郎がネズミを使って戦うとか、まんま過ぎて笑えるな!」
次々と襲い来るネズミを拳1つで霧散させていく。
「――ッ!ゴミ虫がっ!」
エザルデの攻撃はさらに苛烈になっていく。
足元から襲い来る黒ネズミ、追尾する黒球、黒槍が桃太郎を囲むように現れ襲う。
桃太郎は、それらを回避し、拳で霧散させ、たまに掠りながらもエザルデに近寄り攻撃を加えていく。
「ハハハッ!いいじゃねぇか!楽しくなって来たぜ!」
桃太郎は
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
広間の各所では、ゴブリンやゴブリンの上位種等との乱闘が繰り広げられていた。
アリシア達が、強欲の悪魔アヴォリオスと会敵した時、玉座の後ろにはゴブリンキングとその配下達が控えていた。
「俺様が、お前たち人間の策に乗ってやったんだよ!こことは別の場所で頑張って囮になってる奴が居たみてぇだが、無駄だったなぁ!?」
玉座にふんぞり返るアヴォリオスは、その顔を邪悪に歪ませ笑う。
「ライト!アリシアちゃん!隙を見て撤退しましょう!そのためにはまず……」
エルザの表情には焦燥が浮かんでいた。
「姉さん。それは無理だ」
エルザの言葉を遮るライト。
「あいつの後ろ見てごらんよ。簡単に逃がしてくれるような数じゃない」
「じゃ、じゃあ!どうするの!?このままじゃ私達!」
「わかってる!今考えているんだ!少し静かにしてくれ!」
その様子を、楽しそうに見ていたアヴォリオスが声を上げて笑う。
「かっかっか!仲間内でケンカするなんて、そこの女いいねぇ!その感情の発露!まさに人間らしい!いいじゃねぇか!俺のコレクションに加えたいぜ」
「アヴォリオス様」
玉座の後ろに控えていた一番体格の大きいゴブリンが名前を呼ぶ。
「あぁ?」
アヴォリオスのその声には苛立ちが含まれていた。
「配下がもう我慢できそうもねぇです」
その言葉に、アヴォリオスは表情を歪める。
「チッ!これだからゴブリンって嫌いなんだよ。俺の力を与えたからお前はキングになれたって事忘れてねぇーよなぁ?……はぁ、あそこに居る3人だけは殺すな。俺のもんだ。いいな?」
アヴォリオスは、エリザ、ライト、アリシア達は殺すなとゴブリンキングへ指示を出す。
「わかった。……お前ら!宴の時間だ!あそこの3匹以外は好きにしていいぞっ!」
「「「ウオォォォォ!」」」
ゴブリンキングは、振り返り配下へ言う。
その、言葉を聞いたゴブリン達は歓喜の雄叫びを上げると、我先にとアリシア達とその騎士達へ襲い掛かった。
それをアヴォリオスは、冷徹に見下しながらぼやく。
「あとでこいつ等は処分だな」
それから、どれほどの時間が経ったのか、閉ざされた空間に閉じ込められた者にはわからない。
しかし、1つだけわかるなら、集中力が途切れた者から、次々と倒れていくのだった。
そんな戦場の一角に、アリシアは居た。
ドレスを血と埃で汚しながらも、傷ついた騎士達を治療していた。
「ハァハァ」
額から流れる汗を拭いもせずに、無我夢中だった。
その時だった。
「お前を捕えれば、次のキングは俺だぁ!」
乱戦の中、騎士たちの視線を掻い潜り、一匹のホブゴブリンの魔の手がアリシアへ伸びる。
「フッ!」
「グギャッ!」
身に着けた鎧を真っ赤に染めたカリンが、魔の手からアリシアを救った。
「アリシア様!ご無事ですか!」
「え、えぇ!ありがとう!」
「申し訳ございません!こんな深くまで侵入を許してしまうとは!」
「仕方ないわ。こんな状況だし」
アリシアは、治療を終えると周囲を見渡す。
「このままじゃ状況が悪くなる一方ね」
複数のゴブリンに対して1人で戦う騎士。
次から次へと運び込まれる傷ついた騎士。
追いつかない治療。
「それで、エリザ姉様やライト兄様、ルドルフの状況は!?」
「エリザ様、ライト様はご自身の部隊を指揮されております。ルドルフ団長はアリシア様の部隊の指揮をされております!」
「みんな出来ることをやっているのね。……私も出来ることをやり続けないとっ!」
次の騎士の治療へ向かうため立ち上がろうとするが。
「ッ!アリシア様!」
ふらついた所をカリンに支えられる。
「もう魔力がないではないですか!」
「私だけ休んでいるわけにはいかないのよっ!」
カリンの肩に手を置き、その身から離れようとするが。
ドサッ!
「ハァハァ……」
もう歩くことも困難な程、疲労していた。
「アリシア様!もうこれ以上は無理です」
膝をつくアリシアにカリンは寄り添う。
「アリシア!大丈夫?」
「……子犬ちゃん?」
戦闘が始まる直前に危ないからと、物陰に隠されていた家来の3匹がアリシアの側まで来ていた。
「ごめんね?子犬ちゃん達だけでも、桃太郎の元まで帰そうと思っていたのだけれど、難しそうだわ」
アリシアの顔は、悲痛な表情になっていた。
「僕たちも力になるよ!」
この状況に似合わないくらい明るい声の子犬。
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいわ。でも、危ないからこの戦いが終わるまで隠れていて頂戴。全てが終われば逃げられる時があるはずよ」
力ない笑顔を3匹に向ける。
「チッチッチ!嬢ちゃん!俺たちが何かを忘れてないか?」
「そうですよ!アリシアさん!」
指を左右に振りながらカッコつける子ザルに翼を広げる子キジ。
「え?何か?フェローの子どもでしょ?」
アリシアのその言葉に子ザルは肩を落とすが、すぐに気を取り直すと拳を握り締める。
「違うよっ!俺たちは桃太郎の家来だってことだ!」
「アリシア!桃太郎から預かったモノあるよね!」
「……預かったモノ?この食べ物の事?」
アリシアは、懐から巾着を取り出した。
「そうです!それです!」
「お腹が空いたって事?……ふふふ。こんな状況なのに貴方達を見ていると、なんだか気が紛れるわね」
クスクスと静かに笑うアリシア。
「はい。どうぞ」
巾着からきびだんごを取り出す。
「これが最後かもしれないのよね。短い出会いだったけど、楽しかったわ。最後に桃太郎にも会いたかったわね」
3匹にあげながら、アリシアの目からは涙が零れた。
「な~に泣いてんだよ!嬢ちゃん!」
「そうだよ!アリシア!」
「きっと私たちの力が役に立ちますよ!」
3匹はそれぞれ、アリシアの手からきびだんごを貰うと、食べた。
変化はすぐに訪れた。
きびだんごを食べた3匹の体は優しい光に包まれ見えなくなった。
「え、え、何が起きたの!?」
目の前で起きた現象にアリシアは、戸惑う。
「アリシア様!何を与えたのですか!?」
それを側で見ていた、カリンがアリシアへ問いかけるも。
「桃太郎から預かったこれよ!」
手に持った巾着を掲げて見せる。
「それって魔道具ですよね?ルドルフ団長からそう聞いてますよ!」
「これを食べた事によって起きたって事?」
「それ以外、考えられませんよ」
二人は目の前で、今も光っている3つの球体を見つめる。
「私も食べたのだけど、光るのかしら」
ポロっとアリシアは呟く。
「え!?アリシア様食べたんですか!?」
その言葉にカリンは驚愕した表情でアリシアを見る。
「知らなかったのよ!それに普通に美味しかったし」
「なんでそんな分からないモノ食べたんですか!吐き出してください!」
「もう無理よ!とっくに消化されて私の栄養になっているわ!」
二人が、そうやって状況に似合わず騒いでいると、光が徐々に消えて行った。
「「ッ!?」」
二人は、光が消えたことによって現れた存在に言葉を無くした。
そこに現れたのは。
白くモコモコした体毛に覆われた小さかった子犬が、鋭い目つきの大きな赤黒い毛皮の狼へと姿を変えていた。
「アリシア!どうどう!?」
そして、子ザルは茶色かった体毛が黒毛へと変わり、まるでアサシンのような姿格好をしていた。
「どうよ!この俺の姿は!」
最後の子キジは、翼に炎を纏った美しい鳥に変貌していた。
「ハァ......。美しい」
その姿を見たカリンが信じられないという感じに目を見開いた。
「ヘルハウンドに
突然現れた魔物にカリンはアリシアを守る様に前に立つ。
「……子犬ちゃんに子ザルちゃん、そして、子キジちゃんなの?」
カリンの肩越しからアリシアは3匹へ問いかける。
「うん!そうだよ!アリシア!驚いた?」
「嬢ちゃん。俺たちが護るって言ったろ?」
「ここからは私達も協力しますよ!」
そう言うと、ヘルハウンドになった子犬と
「「?」」
アリシア達が不思議そうに見つめる中、優雅にアリシア達の足元を通り過ぎると、負傷兵で溢れ返った一角の中央で、その美しい炎を纏った翼を天高く掲げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読んでくださりありがとうございます。
楽しかった!
続きが気になる!
頑張って!
という方は、評価、フォローしていただけますと活力になります!
よろしくお願いいたします!
桃太郎、異世界に召喚される。 code0628 @Yamada123
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。桃太郎、異世界に召喚される。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます