3.

 金色のラインの入った黒いジャージに身を包み、前髪はオールバックにしている怜。5年前に比べて背も伸びていたし大人びてもいたけれど、そのふてぶてしい態度と表情は5年前からちっとも変わっていなかった。


 一方で彼は、じっと凜音のことを見ている。足元に視線を落として、そっからすーっとその視線を上へと上げていき、そして再び彼の視線が顔に戻ってきたところで目が合った。


「……。」

「何?」

「…いや?」

「いや?ってことはないでしょ。5年ぶりなんだしなんかないの?」

「はぁ?なんかってなんだよ。」

「例えば……ほら、いい女になったね〜とか。」

「はっ、んだそれ。冗談きつい。」

「んはははひっど。」



 さして傷ついた様子もなくケラケラと笑う凜音。彼女は笑いながら彼に背を向けて、戸を開けっ放しにしていた自分の家の玄関に戻っていった。靴を雑に脱ぎながら、ぎしぎしと音を立てて入ってすぐ左の部屋に入る。


 怜はというと、ふてぶてしいその顔のまま凜音の後ろをついて行った。もちろん靴を脱いで、遠慮することなく家に上がり込む。



 入ってすぐ左のその部屋には、テレビや机、タンスなんかが置かれている。もちろん畳部屋だ。


「わ、待って、ミラクル少女まりりんだ、うわぁなっつかし。」


 持ってきた荷物を机の上に適当に置き、凜音は興奮した様子で本棚に駆け寄る。小説やら教科書やらが収納されている中で、一際存在感を放っているピンク色の背表紙の漫画を手に取った。



「中学ん時、佳代ちゃんと貸し借りしてたなぁ。わ〜、後で読も。」



 ペラペラとページをめくる凜音。怜は部屋の入口のところで柱によっかかり、そんな彼女の様子を眺めている。



「……お前、村長んとこ行くよな?」

「うん。勿論。」


 漫画を見ながら、彼女は答える。


「なら、さっさと行くぞ。」

「行くって、怜も一緒に行ってくれるの?」

「あぁ、仕事だからな。」


 怜の言葉に、凛音がばっと振り替える。じっと自分を見る凛音の黒い瞳。レイはその瞳を黙って見つめ返す。


「怜…役員なの?」

「わかりやすく意外って顔してんじゃねぇよ。」

「いや、そりゃ意外でしょ。え、怜そう言うの嫌いだと思ってた。」

「いいだろうが別に。俺だって大人になったんだよ。お前が、いない間に。」


 そっか……と相変わらず意外そうに言葉を漏らす凛音。怜は柱から体を離し、彼女へと近づく。


 そして、ぴんっと彼女のおでこにデコピンをかました。


「いった。」

「ほら、行くぞ。」


 凛音の手を引く怜。片方でおでこを抑えつつ、凛音は手を引かれて歩いていく。


 ぎしぎしと鳴る廊下を進んで、2人ともやんややんやと言いあいながら靴を履いた。外に出れば、ジジジとセミの鳴く声が聞こえてくる。じりじりと照り付けてくる太陽の日差しに照らされながら、怜はミュールサンダルを履く凛音を待つ。



_村、出るって、聞いたけど。



 5年前。


 5年前のあの日も、今のように、靴を履く彼女のことを待っていた。



_うん。出るよ。






「怜。」



 はっと我に返った。凛音の顔が、目前にある。




「行こ。」


「…おー。」



 炎天下の中。2人は、並んで歩く。


 こうして並んで歩くのは、5年ぶりだ。

 こうして歩くのは、5年ぶりだ。






 凛音、そして怜。





 ___互いが5年ぶりに再開して、1日目の話である。


 


 



 



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凛音の帰郷 くらいや @crier-9

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