第26話:ニュウナイス基地攻略戦(5)

 ガルーダ隊のオーグリ。

 彼の駆るガルダ・ストライクは、ワイヤーに繋がれたビームブレードによって両断され、そして爆散した。


 それを見ていた隊長――ミレイ・バッドールは戦友の死を見て叫んだ。


『オーグリ!! 死んじまったのかい!?』


『だから油断するなと言ったのだ!』


 そう言った彼女達は空を見上げた。

 

 そこにはワイヤーを巻いたビームブレードを掴む、レインの駆るイーグル・ストラトスEが翼を広げていた。


 まるで見下されている様な立ち位置もそうだが、仲間を殺されたことでミレイの怒りは限界を超えた。


『上等じゃないか!! レイン・アライト本人なのかは関係ない! アンタはアタシが撃つよ! スカイラスの女傑の名は伊達じゃないんだよ!!』


『俺達はダルトン要塞を生き残ったエースだ! 甘く見るなよ!』


 10年前の一大戦場――ダルトン要塞戦。


 そこで彼女達は30機の敵を撃墜したことで、エース認定され『スカイラスの女傑』・『ガルーダ隊』と呼ばれていた。


 そしてそれは、レインからすれば嘗ての死地を共に生き残った仲間である証拠でもあった。


「ダルトン要塞……それを生き残ったスカイラスのエース。ならば元は友軍か……聞かせろ! 女傑! 何故、また戦争を始めた! ダルトン要塞を生き残ったならば分かるだろ!!」


 どれだけ悲惨だったか、人もASもゴミの様に消えて行った激戦。


 それを知っているならば、こんな戦争を始めようと思わないだろうとレインは悲しみと共に叫んだ。


 そして、その声を聞いたミレイはハッとなり気付いた。


『その声……それにダルトン要塞を知っている。――やっぱり、アンタはレイン・アライト本人かい!』


『まさか……生きていたとは……!』


 二人の驚く声がレインにも聞こえた。


 そしてレインが頷きながら、言葉を続けた。 


「死を偽って、今まで平和の中で生きてきた……もう、あんな戦争ごめんだからだ」


『成程ね……アンタの気持ちも分かるよ。実際、その想いは間違いじゃない。この戦争は私念によって起こされた様なものだからね……』


「なら……なんでクレセント連合に参加してまで戦いを――」


『偽りを許せないからだよ!!』


 レインの言葉に対し、ミレイは悲鳴の様な叫びで返した。


『アンタだった分かってる筈だ! 三大国家の上の馬鹿共が引き起こして、そして勝手に終わらせた馬鹿みたいな戦争を! そして、そいつらが作ったのは都合の良いだけの偽りの平和だってことに!!』


「……分かってるさ。忘れる訳がない!」


 才能があった。偶然でもあった。

 だがそれでも14歳の少年にASを預け、人殺しをさせた上層部をレインは嫌っていた。


 腐っているとすら思っている。

 しかし、それでも戦争が再び起こるよりマシだと自身に言い聞かせていた。


 だがそれはミレイには読まれていた。


『分かっているさ……アンタは優しいんだ。実際、アタシ等はダルトン要塞でアンタに助けられている』


『今でも覚えていますよ……あの爆炎の中を飛ぶ、渡り鳥のマークを』


 彼女達は覚えていた。

 自身を助けた蒼い渡り鳥のことを。


 それもあって彼女達は怒っていた。

 

 死んだ嘗ての英雄――恩人を再び担ぎ出した連邦に。


 戦争も知らないだろう馬の骨を使い、レイン・アライトを騙る偽物が。


 しかし、レインが本人だと分かったことで、ミレイ達もなんとも言えない想いとなっていた。


「やはり友軍……いや、戦友だったのか」


 レインはそれ以上、言葉が出なくなった。


 嘗て、共に戦い助け合った同士。


 それを今では撃たねばならない現実に。


「なら教えてくれ……何故、俺達は戦うんだ!」


『言ったろ……偽りの平和だからさ。アタシ等だけじゃない。寝返ったエース達は皆そうさ!――その平和でどれだけが救われたんだい!!』


 レインの叫びに、ミレイはそれ以上の叫びで答えた。


『死んでいった者達の家族! 属国とされ、悲惨な目にあった国の人々! 殺すしか出来なくなったエース達! 未だに苦しんでいる連中は大勢いるんだよ!――なのに、始めた連中は今でも酒や金や女に溺れている。そんなことが許されるのかい!!』


『だからヘブンクラウド基地に、そんな連中が集まる観艦式を狙ったのだ……ごみを始末するために!』


 彼等の叫びの様な言葉を聞いて、レインは腑に落ちた気がした。


 観艦式がトリガーとなった理由。

 

 三大国家の腐敗した政府高官、軍上層部をまとめて始末する為だったのだと。


 そして同時にレインの心に、彼女達の言葉は突き刺さった。

 嫌と言う程に。


――分かるさ。分かっていたさ。でも、それでも……!


 レインの操縦レバーを握る手が強くなっていく。


「それでも……それでも! 起こっていい戦争なんて、あってはならないんだ!!」


『その通りだよ……けどね、アタシ等も、もう止められないよ!』


『エース同士がぶつかる……戦う理由に、これ以上の意味はいらないだろ!!』


 その言葉が戦闘再開の合図となった。


 ミレイ達も戦友を撃たれている。

 止める理由はなかった。嘗ての恩人でも。


 彼が本心から戦争を嫌い、あくまでも腐った連中を守っている訳じゃないことも。


 だが止まることはない。

 もう互いは敵同士――しかもエースだ。


 敵のエース同士が空で会えばどうなるか、それは答えは一つしかない。


『生き残るはどちらかだよ!! レイン・アライト!!』


「……あぁ。あぁ! 分かってるさ、嫌なほどに!――行くぞ、ガルーダ隊!!」


 再び、両者は空でぶつかった。

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蒼天のイーグル 四季山 紅葉 @zero4649

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