[5]
色々と
ここ第一高校にも、クラブ活動はある。
正規の部活動として学校に認められる
ただ、魔法と密接な関わりを持つ、魔法科高校ならではのクラブ活動も多い。
メジャーな魔法競技では、第一から第九まである国立魔法大学の付属高校の間で
有力な新入部員の
かくして、この時期、各クラブの新入部員獲得合戦は、
「……という訳で、この時期は各部間のトラブルが多発するんだよ」
場所は生徒会室。
「
これは、摩利の
ちなみに達也の隣には、当然のように深雪が
なお、摩利も昨日と同じく自作弁当。
「この期間は各部が
密かに出回っている入試成績リストの上位者や、競技実績のある新入生は各部で取り合いになる。
無論、表向きはルールがあるし、
「CADの
CADが無くても、
この疑問に対する摩利の答えは、達也を
「新入生向けのデモンストレーション用に許可が出るんだよ。一応
その
そりゃあ、無法地帯にもなるだろう、と達也は反射的に思った。
回答は、達也が質問する前に、
「学校側としても、九校戦の成績を上げてもらいたいから。新入生の入部率を高める
課外活動の強制は生徒の人権を無視するものとして、何十年も前に所管省庁が禁止通達を出している。部活動の為にスカウトされた生徒も
「そういう事情でね、風紀委員会は
いや、欠員の
そう言いながらチラッと
「良い人が見つかってよかったわね、摩利」
笑顔でさらりと流して、
最後の一口を
一口、
「各部のターゲットは成績
これは暗に、二科生を二科生が
「そんなことは気にするな。
すっぱりと
こうも真正面から切り捨てられると、さすがに告げるべき二の句は無かった。
「……ハァ、分かりました。放課後は
「授業が終わり次第、本部に来てくれ」
「
彼の
「会長……わたしたちも取り締まりに加わるのですか?」
深雪の言う「わたしたち」とは、生徒会役員のこと。表面的な人当たりの良さとは裏腹に、対人関係には少し気難しいところのある妹がこの生徒会には早くも
「
「分かりました」
深雪は
好戦的な性格ではないはずだが、実力的には問題ない。
新たに組み込んだ
そんな、本人に聞かれたら「違います!」と
「
暗に、あずさでは
先と同じく「暗に」ではあったが、相手が違う
「外見で不安になるのは分かるなぁ。でもね、達也くん、人は見かけによらないのよ」
「それは分かりますが……」
達也はむしろ、あずさの気弱な性格を問題視したのである。
達也が言おうとして口を
「ちょっと、いや、かなりかな?
気の弱いところが玉に
摩利も似た様な苦笑いを浮かべていた。
「そうだな。
大勢が
現代魔法は技術であり、多くの魔法が定式化され共有されている。もちろん、非公開の術式も存在するが、大多数の魔法が公開されデータベースに登録されている。それらの魔法は通常その系統と効果で
「
しかし、公開されている魔法の中に『梓弓』という名前は、
「……君はもしかして、全ての魔法の固有名称を
彼の質問に答えはなく、代わりに
「……達也くん、実は衛星回線か何かで、巨大データベースとリンクしてるんじゃない?」
上級生の反応に、深雪は
超能力研究を
〔加速・加重〕
〔移動・
〔収束・発散〕
〔吸収・放出〕
以上、四系統八種類である。
無論、分類には必ず例外があって、現代魔法学においても四系統八種に分類できない魔法が認められている。
四系統魔法に属さない魔法は、大きく分けて三つのカテゴリーに分類されている。
一つは
一つは、事象に
そして残るもう一つが、物質的な事象ではなく精神的な現象を操作する魔法で、これを
「達也くんお察しのとおり、あーちゃんの『梓弓』は情動干渉系の系統外魔法よ。
一定のエリア内にいる人間をある種のトランス状態に
一通り
「梓弓は意識を
だが、個人ではなくエリアに対して働きかける魔法なので、精神干渉系の魔法には
「……それは第一級制限が課せられる魔法なのでは……?」
系統外魔法はその
説明された限りでも、この魔法は使いようによっては
この魔法の存在を知れば、これを利用しようとする独裁政治家、テロリスト、カルト指導者は後を絶たないだろう。
達也がそう
「あーちゃんが独裁者の片棒を担ぐとこなんて、想像できる?」
「無理矢理協力させられる、というケースもあり得ますが」
「それこそ無理無理。
あの子は
そんな罪悪感で
魔法が心理状態に左右されるのは
それほど善良な性質なら、集団洗脳という重大犯罪に関わり合うと意識しただけで魔法が使えなくなるかもしれない。
もっとも、
しかし、もっと原則的な問題がある。
「ですが、精神干渉系の魔法に対する法令上の制限は、
それを
「……えっと、大丈夫よ、深雪さん。学校外では使わせないから」
苦し紛れの答えは、
「
研究機関における使用制限
「なるほど」
「そのような手段があるのですね」
「ええ、そうなのよ……」
摩利のフォローに、
◇ ◇ ◇
午後の授業が終わり、気が進まないながらも風紀委員会本部へ向かおうとした
「エリカ……
「珍しいかな? 自分で思うに、あんまり、待ち合わせとかして動くタイプじゃないんだけどね」
言われてみれば、思い当たる節もある、と達也は思った。
「そんなことより達也くん、クラブはどうするの?
「レオも、もう決めていると言ってたな」
「
「まあ……確かに似合ってるな」
「うちの山岳部は登山よりサバイバルの方に力を入れてるんだって。もう何て言うか、はまりすぎ」
ブツクサ悪態をついているエリカは、
「達也くん、クラブ決めてないんだったらさ、一緒に回らない?」
本人に言えばむきになって否定されるだろうが、断ってしまうには少し、
「実は、
あちこちブラブラするのは結果的に同じなんだろうけど、見回りで
「うーん……ま、いっか。じゃあ、教室の前で待ち合わせね」
エリカは
ただ、その笑みが、自らの演技を裏切っていた。
◇ ◇ ◇
「
それが再会の第一声だった。
「いや、それはいくらなんでも
「なにぃ!」
言葉だけでなく、今にも
「やかましいぞ、新入り」
「この集まりは風紀委員会の業務会議だ。ならばこの場に風紀委員以外の者はいないのが道理。
その程度のことは
「申し訳ありません!」
かわいそうに、森崎の顔は
摩利に連行されかけたのは、まだ
「まあいい、座れ」
血の気を失い立ち尽くす一年生を前に対して、摩利は気まずい表情で着席を命じた。
昨日来の言動と
森崎が
「全員
その後、二人の三年生が次々に入ってきて、室内の人数が九人になったところで、摩利が立ち上がった。
「そのままで聞いてくれ。
今年もまた、あのバカ
風紀委員会にとっては新年度最初の山場になる。
この中には去年、調子に乗って
いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」
「
紹介しよう。立て」
事前の打ち合わせも予告もなかった展開だが、二人とも無難に、まごつくことなく、すぐさま立ち上がった。
とはいっても、表情には
上下に厳しいタイプの人間には森崎の態度の方が好ましいだろうし、実力主義が
「一─Aの森崎
今日から早速、パトロールに加わってもらう」
ざわめきが生じたのは、達也のクラス名を聞いた
「
その代わりというわけでもないだろうが、手を挙げてそう発言したのは
「前回も説明したとおり、部員
新入りであっても例外じゃない」
「役に立つんですか」
形式上、岡田の言葉は達也と森崎の
予想された反応だったので、達也は丸投げの意思を込めて
しかし丸投げされるまでもなく、摩利は岡田を、うんざりした顔で見ていた。
「ああ、心配するな。二人とも使えるヤツだ。
司波の
それでも不安なら、お前が森崎についてやれ」
なげやりな回答に
「
あまり
日常的な光景、ということだろう。委員会内には根深い対立があるようだ。
トップが
「これより、最終打ち合せを行う。
「よろしい。
では
他の者は、出動!」
全員が
何の真似かと達也は思ったのだが、後で聞いたところによると、代々風紀委員会が採用している敬礼とのことだった。他にも、
その光景を見ていた摩利は、頭痛とため息を何とか
「まずこれを
横並びに整列した二人へ、摩利が
「レコーダーは胸ポケットに入れておけ。ちょうどレンズ部分が外に出る大きさになっている。スイッチは右側面のボタンだ」
言われたとおりブレザーの胸ポケットに入れてみると、そのまま
「今後、巡回のときは常にそのレコーダーを
ただし、撮影を
念の
「委員会用の通信コードを送信するぞ……よし、確認してくれ」
二人が正常に受信された
「報告の際は必ずこのコードを使用すること。こちらから指示ある際も、このコードを使うから必ず確認しろ。
最後はCADについてだ。
風紀委員はCADの学内
「質問があります」
「許可する」
「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」
「……構わないが、理由は?
摩利は、
また、あずさの
そんな彼が、あえて旧式のCADを使いたいと言うのだ。
「確かに旧モデルではありますが、エキスパート仕様の高級品ですよ、あれは」
果たして、苦笑交じりの回答は、思ってもみないものだった。
「……そうなのか?」
「ええ。
あのシリーズは調整が
バッテリーの持続時間が短くなるという欠点に目を
しかるべき場所に持ち込めば、結構な値段がつきますよ」
「……それを我々はガラクタ
なるほど、君が片付けに
「
「中条は怖がって、この部屋には下りてこない」
「ははぁ」
顔を見合わせて苦笑する
ここで
「コホン。そういうことなら、好きに使ってくれ。どうせ今まで
「では……この二機をお借りします」
「二機……? 本当に面白いな、君は」
◇ ◇ ◇
「おい」
部活連本部へ行く摩利と別れたところで、達也は背後から森崎に呼び止められた。
友好的な用件でないことは声音で分かる。
かなり本気で無視しようかと考えたが、
「何だ」
敵意をむき出しにした呼びかけに
友好的な
「はったりが得意なようだな。会長や委員長に取り入ったのもはったりを利かせたのか?」
「
「なっ……」
この程度の切り返しで逆上するなら最初から
反面、こういう素直さは羨ましくもあった。
「……だが、今回はやり過ぎだったな。
複数のCADを同時に使うなんて、お前ら
森崎のセリフを聞きながら、
「両手にCADを装着すれば、サイオン波の干渉で、両方のCADが使えなくなるのがオチだ。
この程度のことも知らずに格好を付けようとしたんだろう?
どうせ大した
「アドバイスのつもりか?
「ハッ! 僕はお前らとは違う。
お前らと僕たちの、格の違いを見せてやる」
言い捨てて立ち去る背中を
次がある、と信じられることの、何と幸せなことか……
◇ ◇ ◇
エリカと待ち合わせていたにもかかわらず、教室の前に彼女の姿はなかった。
(別にいいけどな……)
達也は入学以来すっかり習い性になってしまったため息をついて、
端末の電源を切らない程度の
まだそれほど遠くへは行っていない。
(もしもの時の用心だったんだがなぁ)
探しに来ることを完全に当てにされている。
表示を拡大して位置を特定し、エリカの端末が発している信号へ向けて、達也は歩き出した。
校庭
「お祭り
ぼそりと
彼女は元々、独り言が多い方だった。
だが、入学式からずっと、この
(
約束をすっぽかした──彼女の方から、だ──男の子に向かって、心の中で
中学生時代も、その前の小学生時代も、彼女は一人でいることの方が多い少女だった。
どちらかといえば、愛想は良い方だ。
その代わり、すぐ
四六時中
人間関係に
比較的仲良くしていた友人からは、
気まぐれな猫みたいだ、とも言われた。
自由に、気ままに、何の約束にも
それが彼女のモットーだったのだ。
(……モットーだったんだけどねぇ……最近のあたしはチョッとおかしいかも)
客観的に見て、最近の自分は彼に付きまとっている気がする、とエリカは思った。
自分から一緒に回ろうと言い出すなんて、少し前なら思いもよらなかったことだ。
まだ一週間足らずだから、その内、いつものように
同時に、今度はいつもと違うかもしれない、とも思うのだ……
「エリカ」
約束の時間から十分。校舎内から校庭へ、ちょうど
意外に早く追いついたな、とエリカは思った。
「達也くん、
「……悪かった」
「…………謝っちゃうんだ?」
予想を外されて、
「十分とはいえ、待ち合わせの時間を過ぎているのは確かだからな。
「あぅ……ごめん」
いささか変な表現だが、大真面目な顔で
「……達也くんってさぁ、やっぱり、性格悪いって言われない?」
「心外だな。
性格に文句をつけられたことはない。
人が悪いと言われたことならあるが」
「同じじゃん! てか、そっちの方が
「ああ、違った。
人が悪いじゃなくて、悪い人だった」
「そっちのがもっと
「
「もういいって!」
「
「……達也くん、絶対、性格悪いって言われたことあるでしょ?」
「実はそうなんだ」
「今までの流れ全否定なのっ?」
エリカはがっくりと
◇ ◇ ◇
そして、五分で帰りたくなった。
正直なところ、「バカ
なるほどこれなら、
校庭を
もっともこの結果は、達也の方がエリカよりもすばしこかった、ということを意味するとは言い切れない。
達也は新入生にしては背が高い方だが、どちらかと言えば着やせするタイプで、パッと身の
一方エリカは、とても目立つ美少女である。しかも、
要するに、何が起こったのかというと。
エリカにクラブの
彼女が二科生である、という事実は、この際何の
おそらくはマスコット、あるいは広告塔となるキャラクターを求めて、主に非
彼女を中心に、巻き込んで。
それにしても、エリカは思ったより
少し
エリカに直接群がっているのは、上級生の女子生徒。さすがに女の子の身体をペタペタ
しかし、そろそろ助け出さなければならないだろうなぁ、と達也が考えたのと、その声が聞こえたのは、同時だった。
「チョッ、どこ触ってるのっ? やっ、やめ……!」
聞こえてきたのは、いささか色気に欠けているとはいえ、
どうやら本格的に、シャレにならない
達也は
地面が
その振動を、達也の構築した魔法式が
足の裏から伝わる振動だけで、人の
しかし足下から身体を揺さぶられて、人垣を作る生徒たちは自分でも気づかぬうちに
達也が人垣の中に
彼の腕にかき分けられた上級生は、簡単に
男女の区別無く
女子生徒ばかりで築かれた最後の
目指す相手の姿を見つけ、
「走れ」
短くそれだけを告げて、達也はエリカの左手を引っ張り、走り出した。
◇ ◇ ◇
人混みをかき分け、ではなく手品のようにすり抜け、達也は校舎の
つないだままだったエリカの手を
ネクタイの
「見るなっ!」
視界をかすめた足の向きで、達也が振り返ったことに気づいたのだろう。エリカの声は
「……見た?」
赤くなった顔の色が容易に想像できる声でエリカが
「…………」
しかし達也はこの時、すぐには答えをひねり出せなかった。
見ていない、と答えるべきだろう。それが
だが、しかし。
スッキリした
下着のカップを
「見・た?」
同時に声のトーンの変化から、
こうなったら、せめて一発、
──などと、現実
幸い、制止する声はなかった。これでまだ服を直し終わっていないなどということになれば、事態の改善は絶望的となる。
「見えた。すまない」
だが、思っただけでそれを口にはしなかった。赤面の
エリカは
「……ばかっ!」
手は、飛んでこなかった。その代わり、
エリカは達也の向こう脛を
達也は、スタスタと歩いていくエリカを、無言で追いかける。
達也からは見えないが、エリカはきっと、目を
彼の脛は
エリカの不自然な足取りに、見て見ぬふりをするのが、彼の
◇ ◇ ◇
校庭一杯にテントが並んでいるとはいっても、それはあくまで「校庭」のことで、専用の競技場では、そこを
体育館も同様だ。
二人が足を運んだ時、第二小体育館、
──ちなみにエリカの頭はとっくに冷えていた。八つ当たりだということは彼女も最初から自覚していたのだ。達也が一言も言い訳めいたことを言わなかったのも効果的だった。もっとも、「蒸し暑い」の一言で、またしてもネクタイを緩め
二人は小体育館の
「ふーん……
エリカが何の気無しに
「どこの学校にも
やはり、何の気無しに
しかしその顔を、エリカは短くない時間、マジマジと
「……なんだよ?」
「……意外」
「何が?」
「達也くんでも、知らないことがあったんだね。
それも、武道経験者なら
エリカの発言を聞いて、達也は少し
「
「えっ、いや、そんなことないよ?
ただ何となく、達也くんって何でも知ってそうな
「雰囲気って言われてもな……エリカと同じ高校一年生だぞ、俺は。
まあ、いい。それより
「そ、そうよね。同じ一年生だもんね……同じって言葉にチョッと
ええと、剣道のことよね。
魔法師が使うのは『剣道』じゃなくて『
小学生くらいまでなら剣技の基本を身につける
「へぇ、そうなのか……剣道も剣術も同じものだと思っていたよ」
「本当に意外」
達也の言葉を聞いて、エリカは本気で
「達也くん、武器術の方もかなりのウデに見えるのに……
あっ、そうか!」
「どうしたんだ?」
ちなみに
「達也くん、武器術に魔法を併用するのは当たり前だって思ってるんでしょ? ううん、魔法とは限らないかもだけど、
「それは当たり前なんじゃないか? 身体を動かしているのは筋肉だけじゃないぞ」
達也にしてみれば、エリカの言い出したことは
そんな
「達也くんにとっては当たり前かもしれないけど。
「なるほど」
間接的な言い方だったが、それでようやく達也も自分と
「ところで、そろそろ大人しく見学することにしないか?」
今度は達也がエリカに認識のズレを理解させる番だった。彼が意味ありげに動かした視線を
エリカは愛想笑いを浮かべた後、無言でフロアに視線を落とした。
レギュラーによる
中でも目に止まったのは女子部二年生の演武だった。
女性としてもそれほど
力ではなく、
しかも、彼女の方にはまだまだ
模範試合に
観衆もほとんどが彼女の技に目を
しかし、ここにも例外はいた。
それも、ごく身近に。
彼女が、殺陣のように
不満げに、鼻を鳴らす音がすぐ
「お気に
「え? ええ……」
自分が問われたのだとすぐには分からなかったようで、エリカの答えが返って来るまで、少し間が空いた。
「……だって、つまらないじゃない。
手の内の分かっている格下相手に、見栄えを
試合じゃなくて
「いや、確かにエリカの言う通りなんだが……」
達也の口元が、自然に
「宣伝の
よくプロの武術家で
武術の
「……クールなのね」
「思い入れの違いじゃないか?」
だがその表情は、
多分エリカは、見栄え重視で武の本質を
ただ、
乱入する、などと言い出したりはしないだろうが、それに近いことはやらかしかねない。その前に、と達也はエリカを促してその場を後にした。
ハッキリとは聞こえてこないが、何事か言い争っているのは分かる。
エリカに引きずられる形で、達也も
それは、
女の方は、ついさっきまで試合に出ていた──エリカに言わせれば
「ふ~ん、達也くん、ああいうのが好み?」
「いや、エリカの方が
「……棒読みで言われても少しも
「慣れてないんでな」
「……もう!」
まだ何やらぶつぶつ
それほど
一体何が起こっているのか、適当に見物人を
「
どうしてそれまで待てないのっ?」
「心外だな、
あんな未熟者相手じゃ、新入生に剣道部
「無理矢理勝負を
協力が聞いて
「暴力だって?
おいおい壬生、人聞きの悪いこと言うなよ。
防具の上から、竹刀で、面を打っただけだぜ、
仮にも剣道部のレギュラーが、その程度のことで
しかも、先に手を出してきたのはそっちじゃないか」
「桐原君が
「面白いことになってきたね」
ワクワクしている、ということが、声音からも
「さっきの茶番より、ずっと面白そうな対戦だわ、こりゃ」
「あの
「直接の
達也の問い掛けに
「女子の方は試合を見たことあるのを、今、思い出した。
壬生
「……二位だろ?」
「チャンピオンは、その……ルックスが、ね」
「なるほど」
マスコミなぞ、そんなものだろう。
「男の方は桐原
こっちは
「全国大会には出ていないのか?」
「剣術の全国大会は高校からよ。
競技人口じゃ比べ物にならないからね」
それはそうだろう、と
剣術は剣技と術式を組み合わせた競技、ならば
魔法学の発達により魔法を補助する機器の開発が進んでいるとはいえ、実用レベルで魔法を発動できる中高生は、
成人後も実用レベルの魔法力を
この学内でこそ二科生は落ちこぼれ
「おっと、そろそろ始まるみたいよ」
万一に備えて、ポケットに
女子生徒の方には、防具をつけていない相手へ打ち込むことに対する
おそらく、男──
「心配するなよ、
「剣技だけであたしに
「大きく出たな、壬生。
だったら見せてやるよ。
身体能力の限界を
それが、開始の合図となった。
いきなり、むき出しの頭部
竹刀と竹刀が激しく打ち鳴らされる。
悲鳴は、
見物人には、何が起こっているのか分からなかったことだろう。
ただ、竹と竹が打ち鳴らされる音、時折金属的な
──少数の、例外を除いて。
「女子の剣道ってレベルが高かったんだな。
あれが二位なら、一位はどれだけ
「違う……
あたしの見た
たった二年でこんなに
息をつく者と、息を
見物人の反応は、二つに分かれた。
「どっちが勝つかな……」
息を潜めてエリカが問う。
「壬生
「理由は?」
「
最初の
魔法を使わないという制約を負った上で、
平手の勝負でも、
「
でも、桐原先輩がこのまま
エリカの
「おおぉぉぉぉ!」
この立ち合いで初めて、
両者、真っ向からの打ち下ろし。
「
「いや、
桐原の竹刀は紗耶香の左上腕を
紗耶香の竹刀は桐原の
「くっ」
左手一本で紗耶香の竹刀を
「
「そうか、だから剣勢が
完全に相討ちのタイミングだったのに……結局、非情になれなかったか」
勝負あった、と見たのは
いつの間にかギャラリーの最前列に来ていた、剣道部とは別の道着の一団──剣術部の部員たちは、苦虫を
「
素直に負けを認めなさい」
その言葉に、
紗耶香の
「は、ははは……」
負けを認めたのか?
そうは見えなかった。
達也の中で、危機感の水位が
彼以上に、
改めて構え直し、
「
だったら……お望み通り、真剣で相手をしてやるよ!」
見物人の間から悲鳴が上がった。
ガラスを
青ざめた顔で
片手の打ち込みに、速さはあっても最前の力強さはない。
だが
当たってはいない。
せいぜい、かすめただけだ。
それなのに、紗耶香の
竹刀に真剣の切れ味を与えているのは、
「どうだ壬生、これが真剣だ!」
再び紗耶香に向かって振り下ろされる片手剣。
その眼前に、
飛び込む直前、達也は、CADを着けた左右の
細く
今度は、見物人の中に口を
乗り物酔いに似た
その代わり、不快な高周波音が消えていた。
桐原の竹刀と、達也の
肉を打つ竹の音、は、鳴らなかった。
生じた音は、板張りの
音と
それは、投げ落とされ
◇ ◇ ◇
小体育館──「
「
ざわめきは、剣術部が
囁かれる声に、男女の別はなかった。
残りの半円は、ただ息をひそめている。
「──こちら第二小体育館。
大声を張り上げたわけではなかったが、達也の言葉は人垣の外側まで届いた。
一呼吸置いて、その意味が
「おい、どういうことだっ?」
気が動転しているのだろう。あまり意味のある
「
その怒鳴り声に対して、達也は
見ようによっては、相手を
剣術部の上級生も、そう感じた。
「おいっ、
達也の
達也は桐原の手を放して、
足と
投げ飛ばされた時に受け身を取り損なったのか、
相手のことを
「なんで
それに対して、達也は
「
無視してりゃいいのに……と
「ざけんな!」
完全に逆上した上級生が、再び達也に摑みかかる。
今度は
その剣術部員はムキになって次々に拳を
軽やかなステップで
両手を
危ない、とエリカが叫ぼうとした、その意思が言葉となる前に。
達也の身体がクルリと
剣術部員その二は、剣術部員その一へ突っ込み、
再び
しかし、もし擬態語が実際の音に変わったとしたら、「ぶちっ」というかなり大きな音が達也とエリカの耳に届いたことだろう。
次の
剣術部員たちは、
悲鳴が上がる。
剣術部員以外──ギャラリーだけでなく剣道部員までもが、巻き込まれることを
その中でただ一人、この
「待て、
だが、同じ剣道部の三年生男子部員が、彼女の
「あっ、
彼女の顔は後ろめたさでいっぱいだったが、それでも彼女は、この三年生、剣道部男子部主将・司
紗耶香が男子部主将に手を引かれ乱闘の場より
もっとも、迎え撃つといっても彼らに
達也の身ごなしは、
次々と光った
だが、魔法は発動しなかった。
達也が視線を向ける都度、乗り物
訳が分からないという顔で八つ当たりの
その様子を男子部主将が
〈つづく〉
魔法科高校の劣等生 @TSUTOMUSATO
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法科高校の劣等生の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます