第4話 邪竜復活! そして……
シータは十五歳となり成人となったその日、とうとう世界を滅ぼす邪竜が復活してしまった!!
「なっ!? 邪竜だとーっ! 冗談じゃないっ! そんなのを相手にしてられるか!! 私は逃げるぞ!!」
シーバイ公爵は妻のマリアナと共にいち早く逃げ出した。屋敷に残る兄、ヤッター·ロウ·シーバイにシータは聞く。
「兄上は逃げないのですか?」
シータの言葉に弱々しいながらも笑みを浮かべだヤッターは言う。
「これでも父上とは違って公爵家としての矜持は持ち合わせているつもりだよ、シータ。それよりも君も早く逃げると良い。敵わないまでも私が時間を稼ぐから」
この兄を見誤っていたと反省するシータ。
「兄上、邪竜は私が倒します。なので兄上にはお願いがあります。私は密かにこの王都並びに国の全ての町や村、それに街道に結界を張りました。その結界は邪竜の攻撃を二回は防ぎます。けれどもひょっとしたら三回目の攻撃があるかも知れません。その時の為に兄上や同僚の人たちで結界に魔力を注いで欲しいのです! お願い出来ますか?」
「シータ…… こんな何も出来なかった兄でも信頼してくれるんだね。わかった、必ずそうしよう」
「頼みましたよ、兄上! それでは私は邪竜討伐に向かいます!!」
「生きて戻ってくるように、シータ」
兄ヤッターの言葉に頷いて自室に向かい着替えるシータ。姿は着流しの上から革ジャンを羽織っている。
「俺は宇宙侍刑事シータ! いざ邪竜討伐に赴かん!!」
そう言ってシータは表に出た。王都の東門に向かって走り出すシータ。町中でパニックになっている人々の中にメレルが居た。
「シータ!! 何処に行くの!?」
「メレル!! 俺は邪竜を討伐する! 町中にいれば安全だ! 俺を信じて家でおとなしくしていてくれ!」
メレルはシータの言葉を信じて両親や住込みの従業員を説得した。家で大人しく待つ事にしたのだ。
シータが役名を自分の名にしたのはこのような事態に備えての事だった。自分の名にしておけば呼ばれても役になりきった状態を続けられるからだ。
東門から王都の外に出たシータは叫ぶ!
「来いっ!! シャイバー!!」
空から光るサイドカーがやって来た。それに飛び乗るシータ。
「さあ! 邪竜退治だ相棒! よろしく頼むぜ!」
すっかり宇宙侍刑事になりきっているシータの台詞に答えてシャイバーは空を駆ける。
一分もしない内に邪竜の目の前に到着するシータ。そのシータを見て邪竜は笑った。
「グワーッハッハッ、誰かと思えば矮小な人ごときが我を倒せると勘違いして来おったか! いまならば許してやるぞ小僧! まあ死ぬのが一分後になるだけだがな!」
邪竜の言葉にシータは叫んだ!
「させるか! この宇宙侍刑事がいる限り、この世に邪は蔓延らせる事はない!! 受けて見ろ! 我が竜殺刀の必殺剣を!!」
「抜け抜けと我を笑わす小僧じゃ!! よかろう、先手は譲ってやろうぞ! さあ、何処からでも掛かって来るが良い!!」
邪竜の言葉を聞いたシータは必殺技を繰り出した。
「竜殺技、【一刀両断滅魂】!!」
シャイバーに乗り邪竜の頭頂部の上までいったシータはシャイバーから飛び降りて竜殺刀を大上段に振りかぶり、邪竜の頭頂部に向けて振り下ろした。
邪竜は油断していた。自分を傷つける武器や技を人が作れる筈は無いと。
ここで少し邪竜とシータのステータスの攻撃、防御に限っての数値を見てみよう。
【邪竜】
攻撃力∶2,500,000
(人類に対してプラス500,000)
防御力∶3,800,000
(人類からの攻撃に対してプラス1,000,000)
【宇宙侍刑事シータ】
攻撃力∶2,000,000
(邪に対してプラス100,000,000)
(竜殺刀の竜に対する攻撃力プラス5,000,000)
防御力∶2,000,000
(邪からの攻撃に対してプラス200,000,000)
(竜殺刀のバリアプラス5,000,000)
圧倒的である。ここまでの役を作り上げなりきっているシータにとって、邪竜など敵では無かった。
一刀の元に斬り伏せられその魂も消滅させられた邪竜。
ついてもいない血のりを格好つけて振り払い、竜殺刀を鞘に収めたシータ。
「終わったな。これで世界がまた一つ平和へと近づいた……」
決め台詞を言うと何処かからエンディングテーマ曲が流れ出す。
テーマ曲が終わると共にシータは宇宙侍刑事を演じるのを止めた。それにより普通の攻撃力、防御力に戻るシータ。
それを神界から見ていた女神様はホッとしていたそうだ。宇宙侍刑事を演じている時は神にも迫る力をシータが持っていたからだ。
そして……
シータは英雄と呼ばれるようになったが、国王からの爵位を辞退してメレルと結婚した。シーバイ公爵家は兄のヤッターが継いだ。
更に芝居一座を立ち上げて王国各地で公演を行った。まさに前世のままの役者馬鹿であった。
晩年になりシータは孫たちにこう語ったという。
「いいか、役者というのは演じる者だ。役者自体は何も偉くなんてないんだ。偉いのは演じられるような人生を歩んできた先人たちなんだぞ。そこを間違えてはいけない。だからお前たちも将来は演じられるようなそんな素晴らしい役者を目指しなさい。それが私の願いだ」
そう言ってシータは静かに息を引き取ったそうだ。妻のメレルはそんなシータを見送り静かに言った。
「本当に最後の最後まで役者だったわね、貴方……」
享年八十八歳。奇しくも前世と同じ年齢でこの世を去ったシータはまた世界中から惜しまれて……
その惜しむ力が強大過ぎて手に負えなくなった神々は違う世界にその力を送り込み、またまた誤ってシータの魂も一緒に送り……
新たな異世界で新たな俳優伝説が始まる事になった……
異世界俳優伝説 しょうわな人 @Chou03
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