第3話 役者となる
シータは翌朝から家の中でも役を演じ始めた。と言っても自分で決めた役になりきってというものである。
今回は家にとって役に立たない職を授かり、成人と共に家を追い出されることに不安を感じている五歳の子供を演じている。
その子役を一年間の間に演じ続けたら今度は自暴自棄になり、暴力的になった子供を演じ始めた。と言っても役なので実際に暴力を当てたりはしない。面白い事にシータが殴る真似をすると効果音が鳴るのでけっこう楽しんでいるシータであった。
そして更に次の年には反省し真面目に生きようと改心した子供を演じた。その頃から屋敷内の書庫に入り、封印されし邪竜についての伝承を調べ始めた。役になりきりながらも、次の役について考えるシータ。
その翌年、シータは各地の伝説、伝承を読み漁る。既に家からは役立たずという烙印を押されているので家庭教師もつけられず、好き勝手に自分の知りたい事を調べる事が出来る。
その中で邪竜に対して有効だろうという職を調べてそれを自分の部屋で納得がいくまで演じる日々を送るシータ。
そして九歳の時に五百年前の伝説の勇者を演じたシータはその役になりきったまま、魔獣の蠢く森へと出かけた。
「うぉぉーっ、喰らえ! マッドウルフども! 【火炎疾風斬り】!!」
五百年前の勇者の必殺技を繰り出すシータ。見事に成功してマッドウルフ三十頭は瞬時に灰となって散った。消えた後に魔核を残していたのでシータは魔術バッグにしまった。
この魔術バッグは伝説の大賢者スレーインを演じた時に作った物で、演じている間に得た力は演じるのを止めれば消えるが、その時に作った物はそのまま使える事に気がついたシータであった。
「良し、流石は大賢者スレーインの作った魔術バッグだ。容量無限に時間停止、時間操作まで使える優れものだからな。これで金を貯めて伝説の鍛冶師バルガムに剣を打ってもらおう」
演じているシータはあくまで五百年前の勇者が言うであろう台詞しか口にしない。
そして半年、その勇者を演じたシータはこの勇者では邪竜を倒せないと悟り、次は三百年前の剣聖を演じる事に。
しかし、それでもまだ倒せない事を悟るシータ。ここは思い切って性別までも変えて演じるしかないと、大聖女と呼ばれた人物を演じるシータ。
手応えはあったのだが封印するに留まりそうだと一年で役を降りた。
それから十五歳になるまで様々な役を演じきったシータであったが、どの役も邪竜を倒し切る事は出来ないと悟った。
「そうか、ならば作れば良いんだな! 邪竜を倒し切る人を!!」
邪竜復活まで半年となり、気持ちは焦るがシータは真剣に考える。
考える、考える、この世界だけに思考を留めずに、前世の世界の特撮にまで思考を広げて考え続け、遂に、
「そうか!! この役だ!!」
シータは邪竜を倒しうる役を作り出したのだった。半年でなりきるまで演じきらねばならぬと、さっそく役作りに入るシータ。
先ずは衣装からだと家の御用達の店ではなく、この数年ですっかり意気投合した服飾店に発注するシータ。
「これまた変わった服ね〜。ホントにコレで良いの?」
シータが貴族の子息だと知っているが、それでもシータがタメ口でと頼んで気安く話せる関係となった同い年のメレル。今では実家の服飾店一の腕前のお針子である。
「うん! メレルなら作れるだろう?」
「勿論よ、それで急ぎなのね。それじゃ二日後には完成させるわ」
「有難う! よろしく頼むよ!」
シータはメレルにそう言って家に戻り懺悔小屋に入るそこで、伝説の刀鍛冶【
「フッフッフ、竜か? 竜を斬る刀! この辰吉がこの名に賭けて見事に打ってみせようぞ!!」
この十合辰吉という役は前世で演じたホラ吹き侍という作品に出てくる刀鍛冶で、天下の名刀【政宗】を斬る刀を打つ鍛冶師という役であった。
この時に十合を演じた役者は士太郎では無く、士太郎が尊敬する先輩役者であったので、その演じる役を確りと見ていたのであった。
そうして打ち上げた刀の銘は【
「俺は
シータの考えたオリジナル役であった。特撮と時代劇の融合である。
シータは己の作り出したこの役になりきる為に役作りに励んだ。その度にここは違う! ここはもっとこうだ! と改善に改善を重ねて緻密に役作りをしていくシータ。邪竜復活まで二カ月をきった時にはメレルに頼んで衣装を新たに五着も作って貰うよう依頼を出す羽目になった。
激しい役作りの所為で作って貰った衣装が破れてしまったからだ。
また、役作りの間に打った【竜殺刀】は今使用している分で八振り目である。
こちらも役作りの間に改良を重ねていったのだ。
シータは役作りに励んでいた。それは何よりもシータが前世で感じていた事を今もまた感じているからだ。
役者って楽しい!!
それに尽きていたのだった……
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