猫のミーコの宝物 ー猫になった僕の一夜の大冒険ー

かなちょろ

猫のミーコの宝物 ー猫になった僕の一夜の大冒険ー

 私の名前はミーコ。 この家で飼われるようになってつけて貰った名前。

 私は元々野良猫で、子猫の時に拾われてこの家に来たの。

 そして私が大人になった時、私の家に可愛い子が来たのよ。

 その子がグズれば私が寄り添い、夜泣きをすればおでこを舐めてあげたわ。

 すると直ぐに泣き止むの。

 遊び相手にもなってあげたのよ。

 この子が笑うと私も嬉しくなるの。

 あれからもう何年経ったのかしら……。

 今ではあの子が私を見てくれるわ。

 家に帰って来たら真っ先に私の元に来てくれるの。

 そしてこう言うのよ。


「ミーコ元気?」


 私はもう起き上がれないけど、この子は優しく暖かい手で撫でてくれるのが嬉しいの。

 もうお婆ちゃんで殆ど動けない私は、子猫の時から可愛がってくれたご両親とこの子のお陰で幸せに眠りにつく事ができたわ……。



 僕はミーコが天国に旅立ってから落ち込んでいた。

 でも来年から小学三年生だ。

 今度、弟か妹が産まれるんだってお父さんに教えてもらった。

 僕もお兄ちゃんになるんだからミーコの分までお兄ちゃんしないとね。


 今日もミーコに道で摘んだ綺麗な花をあげる。

 その棚の上には、まだ僕が赤ちゃんの頃、一緒に寝ている写真、泣いていた時におでこを舐めてもらっている写真、そして可愛いミーコが座っている写真がある。

 その時、気がついた事があった。

 棚には写真と一緒にミーコの着けていた鈴の付いた赤い首輪があるはずだったが、無くなっていたのだ。

 お母さんに聞いても知らないらしく、その日は一緒に探してくれた。

 だけど見つからなかった……。

 僕はお母さんに抱きついて泣いたけど、また明日探そうとお母さんは言ってくれた。


 その日の夜、僕が部屋で寝ていると、チリンと鈴の音が聞こえる。

 僕は鈴の音で起き上がると、僕の足元にはミーコと同じ黒猫がいる。


「ミーコ?」


 そう問いかけると、その黒猫は窓をすり抜け外へと出て行ってしまった。

 僕は窓を開けて体を乗り出し、辺りを見回して探すと、バランスを崩して僕は落っこちてしまった……。


「いたた……、あれ? 痛く無い?」


 気がつけばそこは僕の家の庭。

 でもいつもより低い場所しか見えない。

 体も何か変だ。 立っていると言うか、四つん這いになっているような……?

 僕は歩いて家の窓を見てみる。

 窓ガラスに映ったのは猫。

 白い猫の姿だ。


「え? これ僕? なんで? ネコになっちゃってる!?」


 顔の髭、耳、手の肉球、尻尾、何処をどう見ても猫だ。

 僕が混乱していると、黒猫が現れこちらをジッと見つめてくる。


「見つけて……」


 黒猫はその言葉を残して消えてしまった。

 何を見つけて欲しいんだろ?

 それよりこの姿は元に戻れるのかな?

 明日起きたらお母さんになんて言おう。

 僕猫になったんだよ。 とか言えば驚いてくれそうだ。 猫の姿で学校に通えるのかな?

 あれこれ考えていると、家の壁上を通っていた一匹の茶色い猫が僕に気がついた。


「おや? この辺じゃ見ない顔だな。 何処から来たんだ?」


 猫が喋ってる!

 そうか、僕も今は猫だから言葉がわかるのかも知れない。

 僕が驚いていると、茶色の猫は壁の上から下りて来る。


「よっと、もしかしてボウズ迷子か? ……よし、俺に着いて来な。 どうした? ビビんなって!」


 どうしようかなと考えていると、茶色の猫はまくし立て、せっかくなので着いて行く事にした。


 茶色の猫は普段は行けない場所ばかり通る。 車の上、壁の上、細い通路……。

 まだ猫の体に慣れていないので後ろを着いて行くのがやっとだ。

 車の上では転がり、壁にはよじ登り、細い壁の上ではよろけて落ちそうになる。


「おいおい、大丈夫か? そういや名前がまだだったな。 俺の名前は【トラ】ってんだ。 体の模様が虎みたいだからトラって名前さ。 ボウズは名前あるのか?」

「僕は──」


 名乗ろうとした時、茶色い猫のトラは壁から降りて行く。

 結構高いけど、僕降りられるかな?

 勇気を出して思い切って降りた。

 流石猫の体。 くるんと着地体勢を取り無事に着地する。

 でも地面がぬかるんでいたために、ズルッと滑ってベチャっと転んでしまった。


「「わはははは」」


 笑われた……。 猫になったばかりなんだから仕方無いだろ!


「いや、笑って悪かったよ。 まだ若いんだ、その内コツを掴むさ」


 トラさんが近寄って来ると、僕の隣りに座って前を向いて話し出した。


「ボウズ、紹介するぜ。 俺の仲間達だ」


 四匹の猫が横一列に並んでいる。


「俺はマロン」

 トラより全身茶色の猫だ。


「僕はカフェオレ。 カフェって呼んでくれ」

 黒と白の猫だ。


「私はラブ」

 白い毛並みに黒い毛並みが入ってる。 黒い毛並みの一部がハート型に見える。


「僕は〜、ファイト。 でも最近は〜、ファットって呼ばれてるからファットで良いよ〜」

 皆んなの中で一番ふと……、いや大きい。 灰色の毛並みだ。


「ねえトラ、その子はどうしたの?」


 ラブさんが聞いてきた。


「このボウズは少し先のミコ姉さんの庭にいてよ。 迷子のようだから連れて来た」

「ミコ姉さんの庭に?」

「ミコ姉さんの子供って訳でもなさそうだよね?」


 ミコ姉さんって誰の事だろう?


「ミコ姉さんって?」

「ミコ姉さんはこの辺りの猫なら皆んな知ってる猫さ」

 マロンさんが答える。


「僕も〜、他の猫にご飯を取られる所を〜、助けて貰ったんだ〜」

 ファットさんも知っているようだ。


「でもミコ姉さん……、少し前に亡くなっちゃったんだよね……」

 ラブさんが悲しそうにうつむいている。


「ミコ姉さんに君を紹介したかったよ」

 カフェさんも少し寂しそう。


「辛気臭い話しはするなって。 ミコ姉さん、大事な子が出来たって喜んでたじゃねぇか。 その時のミコ姉さんの笑顔を思い出しておこうじゃねえか」

「そうだね」


 う〜ん……、名前はミーコに似てるけど、ミーコは家猫だったから、外には出てないと思うし……。


「それでボウズ、行く宛はあるのか?」


 トラが聞いてくるから思い切って窓辺に現れた黒い猫の事を聞いてみた。


「僕はその黒猫を探しているんです」

「黒猫? この辺りで黒猫ってミコ姉さんしかいないよな?」

 マロンさんが皆んなに聞いてくれている。


「そうだね、う〜ん……他にいるのかな?」

 カフェさんも考え初めている。


「そう言えば〜……、僕がここに来る時に〜……、ミコ姉さんに似た猫を見たかも〜……」

 ファットさんが思い出したように、肉球を叩く。


「本当かファット! そう言う事は早く言えよ!」

 マロンさんに怒鳴られてしまってる。


「だって聞かれなかったから〜……」

「ファットさん、何処で見ましたか?」

「確か〜……、商店街の通りで見たよ〜……」

「ありがとうございます! 僕も行ってみます!」


 直ぐに走って行こうとした時、トラさんに止められる。


「まてまて、そう急ぐな。 もう直ぐ夜が明ける。 人も多くなるから、明日俺達も一緒に探してやる。 他の猫にも聞いてやるから、焦って探すんじゃねぇぞ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 皆んなは僕を見て頷く。

 僕は皆んなにお礼を言うと、お母さんにはなんて言おうと考えながら一度家に向かって歩く。

 家の庭まで戻って来たけど眠たくなってしまい、その場で眠ってしまった。

 朝、ベッドから起きると猫じゃ無くなっている。

 お母さんに話したけど、夢でも見たんでしょうと言われてしまった。

 あれは夢だったのかな?


「今日は早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」


 お母さんに言われ今日は早く寝る。

 なんたって明日はクリスマス! 僕が今一番欲しいのは……いや、無理だからやめておこう。 お母さんにはゲームと伝えてあるし……。

 でも今夜位は夢で会えるかな?

 ミーコの事を想いながら眠ると、僕はまた白い猫になり飛び起きた!

 

「やっぱり夢じゃない! 黒猫を探しに行こう!」


 こうして僕の黒猫探しの冒険が始まった。


 黒猫は何処にいるんだろう?

 今日は昨日ファットさんが見かけたと言っていた商店街に向かう事にする。

 人の足だと直ぐに着くが、猫の足だと結構遠い。

 自動販売機の明かりに虫が集まっている。

 それを見ると体が疼く。

 捕まえたい気持ちになるけど、そんな暇は無い。

 僕は黒猫を探すんだ。


「ここかな?」


 商店街の入口までやってくる。

 ここのお肉屋さんのコロッケが僕は好きなんだ。

 そのお肉屋さんの所まで歩いていると、灰色と黒の猫が店の隙間から出て来た。


「黒猫を探しているってのは君かい?」

「は、はい!」

「やっぱりそうか。 話しは聞いたよ。 僕はどうやら黒の猫には縁があるようだ」

「何か知っているんですか?」

「勿論さ。 僕が見たのは少し前にこの商店街を抜けて駅の方に向かったよ」

「駅かぁ……、わかりました。 ありがとうございます」

「いやいや、僕は黒猫のミコ姉さんに助けられているからね。 黒猫探しなら手伝うさ」

「助けられてる?」

「そうだよ。 ここのナワバリ争いで、助けてもらったのさ」

「そうなんですね。 これから駅に行ってみます」


 その猫さんに手を振られ、駅に向かった。

 ナワバリ争いか……、猫の世界も大変なんだな……。


 商店街を抜けて、駅までやってくる。

 もう駅も閉まっていて人通りは無い。


 駅の周りをぐるっと一周。

 黒猫はいない。

 仕方なく戻っていると、この遅い時間に散歩している犬とすれ違った。


「白い猫……、おーい! ちょっと待ってよ!」


 犬に呼び止められた。


「もしかして黒猫をお探しかい?」

「はい、そうですけど……?」

「やっぱりそうかあ! 一緒に住んでる猫に聞いたんだよ、黒猫を探している白い猫の子供がいるって! もしその子に会ったら教えてあげようと思ってたところさ!」

「黒猫を見たんですか!?」

「見たよ〜、僕が見たのは散歩していた時に、神社の方で見たよ」

「神社の方ですね。 ありがとうございます」

「お礼なんていいよう! 前に僕の飼い主の仕事帰りが遅くてお腹空かせている時、黒猫のミコ姉さんがご飯分けてくれたんだ! だから黒猫探しなら協力するよぉ!」

「ありがとうございます。 神社行ってみます!」


 お礼を言って神社に向かう。

 神社は商店街とは反対方向で大きなマンションが最近出来た方だ。

 神社に向かいながらミコ姉さんって皆んなを助けてあげてる凄い猫なんだな。

 一体どんな猫だったんだろ?


 大きなマンションを抜けて行くと、昔からある神社が見えてくる。

 僕は長い神社の階段を駆け上がっていると、途中で猫の鳴き声が聞こえる。

 何だか遊んでいる声だ。

 茂みの中から声がするので覗いてみた。


「きみだあれ?」

「さては敵だなあ!」


 僕と同じ位の二匹の猫が襲いかかってくる。

 慌てて僕は逃げ出した。


「まてまてー!」

「逃がさないぞー!」

「まってよ! 僕は何もしないよー!」


 階段を駆け上がり、神社の下に潜り込む。

 丁度そこに一匹の猫がいた。


「こら! やめなさい! この子驚いてるでしょ!」


 二匹の子猫はその猫に怒られると僕を追いかけるのを辞めた。


「ごめんなさいね、この子達、イタズラばっかりで」

「い、いえ……大丈夫です」

「あら? あなたもしかして黒猫を探してる子かしら?」

「え? 知ってるんですか?」

「もちろんよ。 聞いてるもの、白い子猫が黒猫を探しているって、皆んなのウワサになってるわよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。 それで、黒猫何だけど、私は見てないの」

「僕達見たよー!」


 二匹の子猫はこの母猫によじ登りながら教えてくれた。


「えっとね、神社からあっちに歩いて行ったよ」

「あっち、あっち」

「こらこら、あっちじゃわからないでしょう。 ちゃんと行った先を教えてあげないと」


 背中を毛づくろいされながら教えてくれた。


「う〜んと、家がいっぱい並んでる方だよ」

「いっぱいね、いっぱい」

「こんな答えでわかるかしら? でもなんで黒猫を探しているの? お母さんはいないの?」


 黒猫は大事な猫なので探している事にして、帰り方はわかってるから大丈夫と伝えた。


「そう、ならいいけど……。 もしお家が無ければまたここに来なさいよ。 私がお母さんになってあげるから」

「ありがとうございます。 家がいっぱいある方に行ってみます」

「黒猫が見つかったら教えてね。 それがミコさんならお礼が言いたいから」

「なにかあったんですか?」

「それはね……」


 猫のお母さんは何かを思い出しているようだ。


「私の子供達がまだお腹にいた頃、マンションの近くでお腹が空いて倒れちゃったのよ。 そこをミコさんが通りかかって、この神社の下に連れて来てくれたの。 そして自分のご飯を分けてくれて無事に子供達を産む事ができたのよ。 子供を産んでからもミルクのためにご飯を持って来てくれたりして助けてもらったの」

「へー、そのミコさんって凄いんですね」

「なんでも自分にも可愛い子が出来て、同じだからって」

「へ〜」


 ミコ姉さんについてまた一つ知ることが出来た。


「それじゃ気をつけて行きなさいよ」

「はい、ありがとうございます」


 猫のお母さんと子猫の兄弟と別れ、家が沢山並んでいる方に向かった。

 学校の友達も近くに住んでいる場所だ。


「いつも遊びに行く時は気にしなかったけど、似た家が沢山並んでるんだな」


 並んでいる家を見ながら歩いていると、前を黒猫が通って行くのが見えた。


「黒猫だ!」


 走って後を追いかける。

 すると、小さな空き地に出た。

 その空き地の奥に黒猫が座っていた。


「君はだれ? もしかしてミーコなの?」


 近づいた時、チリンと鈴の音を立てて黒猫の姿は消えてしまい、一つのダンボール箱を見つけた。

 ダンボールの中を見ると、赤い首輪がある。

 僕はその赤い首輪に触れると、眠たくなってしまい、そのダンボールの中で眠ってしまった……。


 朝起きた時、枕元にはゲームと赤い首輪が置いてある。

 あれは夢じゃ無かったのかな?

 沢山の猫と話しをした夢。

 でもなんであんな所にミーコの首輪があったんだろう。

 気になった僕は、ミーコの赤い首輪を持ってダンボールの合った空き地に走った。

 家を出る時にお母さんが何か言ってたけど、僕はダンボールの方が気になる。


 ただ、空き地の場所が良くわからない。

 猫の時の記憶がボヤけてしまっている。

 家を出てどっちに行けば良いか迷っていると、一匹のトラ模様の茶色い猫が出て来た。

 そして白い毛並みにハートの柄がある猫、黒と白の猫、ちょっと太めの猫が僕の前に集まると、向きを変えて走り出す。

 僕はその猫達の後を追う事にした。


 ちょっと太めの猫は途中で止まってしまったので、僕が持って走って行く。

 猫の後を追って案内されたのはあの空き地だ。

 僕はゆっくりとダンボールを覗いてみた。

すると、中には白い子猫がミャーミャーと鳴いている。

 僕はその白い猫をそっと持ち上げ、撫でてあげると、白い子猫は僕の手をペロッと舐めた。


 きっとミーコはこの子猫の事を教えたかったのかも知れない。

 僕は家に連れて帰る事にした。

 気がつくとここまで連れて来てくれた五匹の猫はいつの間にかいなくなっていた。

 僕はもうわかっていた。

 ミコ姉さんがミーコなのだと。

 家に帰ると、お母さんに頼んでこの白い猫を飼うことを許してもらった。


「ちゃんとお世話するのよ。 外に出ちゃったらミーコみたいにちゃんと戻ってくるかわからないんだから」


 そうか、ミーコはたまに外に出ていたんだ。

 そして皆んなを助けてあげていたのか。

 僕はミーコのように困っている人を助けてあげられるようになろうと思った。

 もちろんこの小さな白い子猫の事もだ。


「きみは今日から僕のネコだよ。 名前を付けなくっちゃね……、女の子だから……、う〜ん……名前……名前……」


 名前を考えていると、僕の腕からぴょんと飛び降り、ミーコの写真の前でミャーと一鳴きする。


「うん、決まったよ。 きみの名前は【ミャーコ】だ」

「ミャー!」


 ミャーコは気に入ってくれたようだ。


「これからよろしくねミャーコ」

「ミャー」


 そして僕はお小遣いでミャーコに新しい首輪を買ってあげた。

 こうしてミャーコは家族の一員になった。


 あれからあの五匹の猫には会っていない。

 何処かに行ってしまったのだろうか?

 そんな事は気にせずミャーコはお転婆で部屋の中を元気に走り回っている。


 商店街におつかいに行った時、お肉屋の所から猫が出てきて一鳴きするとまた隙間に入っていった。

 友達と神社に行った時、二匹の子猫が神社から飛び出して来て遊んでいる。

 僕はミャーコ用に買っていたキャットフードを石の上に出してあげると、お母さんの猫も出て来て一緒に食べている。

 そして僕を見て一鳴きする。


 数日後、僕には妹が出来た。

 とっても可愛い妹だ。

 これからはお兄ちゃんとして頑張っていこう。

 ミャーコも懐いてくれている。

 

 その夜、僕はミーコの夢を見た。

 また僕が猫になってミーコとかけっこをしている夢だ。

 ミーコは僕があげた花を頭に着けている。

 楽しい夢だった。

 きっとミーコはこの先もきっと、ずっと僕と一緒にいてくれるのだろう。

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