第20話

彼女と桐也の墓参りをした日以来、桐也はもう二度と俺達の前に現れることはなかった。



「秋さん、入るよ」



「はーい」



いつもの呑気な声に俺が扉を開けると、そこには純白のドレスに身を包んだ彼女が数人のスタッフに囲まれ、身支度を整えている最中だった。



「"はーい"って…まだ終わってないじゃん…」



俺が引き返そうとすると、彼女が俺を呼び止める。



「もう少しだから待ってて」



そう言われて俺は備え付けのソファに腰を下ろして美しい彼女の姿を遠巻きに眺めていた。



あれから4年の月日を経て、俺達はようやく結ばれるのだ。



(これで秋さんは本当に俺の奥さんになるんだな…)



そうしみじみと喜びを噛み締めていると、やっと身支度を終えた彼女が重いドレスを数名のスタッフに持ち上げて貰いながら俺の方へとやってきた。



「2人で写真撮ってくれるって!」



キャッキャとまるで女子高生のように浮かれる彼女に、スタッフさんもノリがよく、「まず全身鏡でご自身達の仕上がりの確認をしましょう!」とそのまま2人揃って大きな鏡の前に立たされる。



身長181cmの俺と、ヒールでだいぶ身長を盛ってやっと160cm程の彼女。



そしてその間からひょっこりと顔を出して微笑む栗色の髪の男。




「はあ!?」



「ええ!?なになに!?」



一瞬見えてしまった幻(?)に俺は驚いて振り返ったが、そこには誰もおらず、俺達を見守っていたスタッフ達も彼女同様驚いた表情で俺を見つめていた。



「あ、いや…なんでもない!ちょっと耳元で羽音がした様な気がしてさ、俺虫苦手だから」



「え?からちゃん虫平気な人じゃん、何言ってんの?」



「いや、だから今からダメになったの!」



「変なの〜まあ良いですけど〜」



明らかな嘘までつき、その場の自分を落ち着かせようと彼女と笑い合い、再びチラリと鏡に目をやると、



そこにはやはり悪戯っぽい笑みを浮かべた桐也の姿があった。



(なんでお前いんだよ!?)



俺の心の中での抗議に、桐也はへにゃへにゃとした緩い笑みを浮かべながら誤魔化し、豪華なドレスに身を包んだ彼女を後ろから抱きしめ始めた。




(おまっ、馬鹿!俺の嫁だぞ!離れろ!あっちいけ!)



俺がシッシッ!と不自然に何かを払う動作をしながら彼女の周りを回っているのを、彼女も何故か桐也と同じように笑いながら眺めている。




できることなら、彼女のこの微笑みを俺だけのものにしたかったが、それはまだ叶わないらしい…。




(だけど法的には俺の勝ちだかんな!)



内心で桐也にマウントを取りながら、俺は桐也から彼女を取り返そうと負けじと彼女を抱き寄せる。



「え〜、ちょっとからちゃん、そんなに引っ張ったら危ないよ〜ドレスとか髪とか〜!」



自分が夫と元彼の幽霊に取り合われていることなど知らない彼女は呑気な声を出しながら「わはは」と笑い声を上げる。



俺はそんな君を、俺の一生を使って俺のもの《幸せに》にしてみせるよ。

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君はきっと俺のものにはならない 椿 @Tubaki_0902

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