第12話

「なんだったんだ…」



あっという間に走り去ってしまった車を呆然と見送った父親が冷たい空気にブルりと震え、家へと戻ろうとしたその時、



目の前に銀色の光が落ちたかと思うと、記憶の一部がポッカリと抜け落ちてしまい、自分が一体なぜ家の外に一人でいるのかも思い出せなくなってしまっていた。



そしてふと手に持っていたメモを見て、何故か自然と人事と繋がりのある上司へと相談しなければと思い、足速に家へと入っていった。





「ところで恋さんはどうして私があの家に居るって分かったんですか?」



毎度の事ながら助手席に座らされ、体にシートベルトがくい込んだ状態の朱殷が、シートベルトをいじりながら恋の方を見た。



「ん?そりゃあ分かるよ。朱殷さんはもう僕の一部同然だからね♡」



「一部…?」



「うん、いつも食べてるあのピンク色のクッキー、アレ、実は僕の血を混ぜて作ってるんだ」



「えぇぇえぇぇ!?そんなこと言われたらもう食べれない…うぇぇぇ…」



衝撃を受ける朱殷に、恋はバッグミラー越しに微笑む。



「もう無理だよ、朱殷さんの魂をその体に縫い止めているのは僕の血だからね。今更だけど、朱殷さんはもう僕無しじゃ生きられないんだよ♡」



「な、なんてこった…」



「ふふふ♡だからね朱殷さん、もし僕が死んだら、朱殷さんの魂も今度は本当に死んでしまうんだよ?僕達は死ぬ時も、死んだ後もずっと一緒だよ♡今日は朱殷さんとの繋がりを改めて確認出来て本当に良かった♡」



「そ、ソウデスカ…」



(そんな設定あったならはやく言ってよ〜!だからあのクッキーだけは無性に食べたくなるのか!くぅ〜!)



朱殷は騙されたような、悔しいような思いでシートベルトをガジガジと噛んでいたが、



家に帰り、牡丹が準備していたクリスマス料理を見た瞬間に忘れてしまった。




「んむ…んむ…」


「朱殷さん美味しい?」



口元に沢山の食べかすをつけながらモグモグと口いっぱいに物を頬張る朱殷に、恋は口の端に詰まった食べかすを拭き取ってやりながら聞くと、



朱殷は手もみ洗いされたばかりで少し湿った前足にプラスチックのフォークを持ちながら大きく頷いた。



「はい!クリスマスって楽しいですね!」



そんな朱殷の微笑みに、恋の心臓は愛しさで一層熱く燃え上がるのだった。






おわり

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☆朱殷の怒涛のクリスマス☆ 椿 @Tubaki_0902

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