第22話 達紀くんには、この服装が似合いそうよね!

「んー、そうね。この服装もいいかもね」


 津城芹那つしろ/せりなは唸っていた。

 今、手にしている服を持ち、悩んでいるのだ。


 店内には、多くの衣服が取り揃えられている。

 普段着に、スーツ。それからコスプレ系や、今風の韓国系統の衣装などである。


「芹那さんは、その服にするんですか?」

「んー。でも、ちょっと違うかなって、今思っていたところなの」


 芹那は鏡の前に立ち、今手にしている服を体に重ねていた。

 しっくりとこないようで、別の服も自身の体に重ね、確認していたのだ。


 二人は、街中の洋服関係の専門店に訪れていた。

 木曜日の学校終わりの放課後。

 蓮見達紀はすみ/たつきは、芹那から連絡を貰い、一緒に街中に行く事になったのである。


 達紀は今週末の休みに、スポーツ関係のイベントに参加する事になっているからだ。

 だから、変装する手段として身につける服を選ばないといけなかった。


「達紀くんの方は何かいい服とかってないの? 見つけられた感じかな?」


 芹那は鏡の前に立ち、横目で達紀の事を見てくる。


「俺の方は普通に私服でもいいかと。基本的に制服で生活する事が多いので、意外と私服だと、あの人にバレないと思うんですよね」

「そうかもね。でも、私服だけだとよくないし。そうだ、髪の色とか変えるとか?」

「髪の色……染めるって事ですかね?」

「染めないのなら、ウイッグでも良いと思うの。達紀くんはウイッグって持ってない?」

「いや、そういうのは。そもそも使う機会がないので持ってないですね」


 ウイッグはアニメのコスプレをする人が頭につけているイメージがある。

 達紀がどうしようかと服装について悩んでいると、芹那の中で購入したい衣装が決まったらしい。


「んー、これでいいかもね」


 芹那はハンガーにかけられている陳列棚の前で、とある衣装を手にする。


「何にしたんですか?」

「これよ」


 芹那が見せてきたのは、黒色をした男性用の服だった。

 とある執事系の漫画に登場するキャラが着てそうな衣装である。

 いわゆるテールコートのようなものであり、清潔感のあるイメージが強い。


「それ、男性用ですよね」

「そうよ。この衣装を着て男装すれば、私が誰かなんて、あの人にはわからないでしょ」

「確かにそうですね。ちなみに芹那さんは男装したことってあるんですか?」

「ええ、あるわ。私って、大学の学園祭の時に男装カフェの店員をやってたんだから」


 芹那は自慢げに言う。

 初めて知った情報だ。


「そ、そうなんですね。全然、そういうイメージはないですけど」


 人は見かけによらないものだ。

 芹那はどちらかというと、金髪系のギャルといったイメージが強いからこそ、男装が得意と言われても想像しづらかった。


「その顔、信じてないなぁ、もしや。私ね、こう見えてファッション系の大学に通ってるんだよね」

「そ、そうなんですか。まあ、見た目的にもそういう学校に通ってそうですよね」


 達紀は彼女の容姿を全体的に見て、そう言葉を零した。


「私ね、結構メイクとか上手い方だから、達紀のメイクもしてあげよっか。その方がいいよね?」

「そこまでするんですか? ウイッグだけじゃなくて」

「そうよ。やるなら徹底的にやらないとね」

「でも……男性がメイクってのは」

「変かな? でも、今の時代は男性でもメイクするのは普通だよ。知らない? 今は男性用メイク用品も売ってるんだよ」

「そうなんですね。知らなかったです」

「そういう時代なんだから、少しくらいいいじゃん! ね、達紀くん」

「わ、わかりました」


 達紀は内心、緊張しているのである。

 人生でメイクなんてした事のない達紀からしたら、どんな自分になるのか不安でしかないのだ。


「私は、このテールコートにするから。今度は達紀くんの服を選ばないとね!」


 達紀は彼女から背を押され、店内を移動する。

 二人が行きついた先には、カジュアル系の私服が置かれてあった。

 若者風の私服が多く、チャラそうな感じの服装だ。


 洒落てはいるが、“今日の企画は何ーッ”と言いそうな、グループ系の動画配信者が良く着てそうなイメージがある。

 爽やかな雰囲気はあるものの、自分自身が着ても似合うかは別だろう。

 そもそも達紀はチャラそうな感じではないからだ。


 達紀は、それらの服がある陳列棚の前に立ち、唸るように考え込んでいた。


「ま、一先ず着てみなよ! 話はそれからじゃん?」

「え……は、はい」


 達紀は乗り気では無かったが、しぶしぶと頷く。

 これも、今後のために必要な事なのだ。


 今週末のイベントに参加し、津城武尊つしろ/たけるの悪事を暴くためにも、芹那の意見に従っておこうと思う。


 達紀は、ファッション系の大学に通っている装飾のプロから直々に選んで貰う事となったのだ。


「これ何かいいんじゃない? 達紀くんには黄色系が似合いそうよね」

「そうですかね?」

「んー、まずは着てみた方がいいわ。はい、これね。あっちに試着室があるから着替えてみてよ」

「わかりました」

「私は、他の服も選んでおくから」


 二人は一旦別れ、達紀は試着室へ。

 芹那は若者系の服装の前で、達紀の姿にベストマッチしそうな服を吟味し始めていたのだ。




「芹那さん、こんな感じになりましたけど」

「いいんじゃない? でも、やっぱり、こっちの白色の服装もいいかも。試しに、こっちも着てみて」


 試着室のカーテンを開け、達紀は彼女の前で姿を披露する。

 その後で、芹那から新しい服を渡されるのだ。


 達紀は再びカーテンの中に隠れ、着替える。


「今度はどうですかね?」


 和風というよりも、韓国風のイメージが強い服装である。

 少し厚い感じのトレーナー系統の服。

 今の季節は春であり、寒くもなく暑くもない程よい状態を保てそうな感じだ。


「この上着だとね……そうね、下は黒っぽい感じがいいかも。ちょっと待ってて。上着は着たままで」


 芹那はプロのような立ち振る舞いを見せ、目を輝かせている。彼女は、今の達紀に適したズボンを探してくるようだ。

 達紀が試着室のカーテンを開けて待っていると、彼女は二分ほどで戻ってきた。


「これね」


 芹那が持ってきたのは、ストリート系の黒っぽいデザインのズボンだ。


「着てみて」


 芹那から渡された。

 カーテンを閉め、再び彼女の前に完成形のコーデスタイルを見せるのだ。


「いい感じね! 後は髪色ね。今の私と同じ金髪系でもいいけど。茶髪でもいいかもね」


 芹那は、達紀の姿を見て一人で考察していたのだ。


 なんか……芹那さんの趣味寄りのコーデになってないか?


 達紀は少々困惑していたが、芹那と一緒に過ごせて内心嬉しかったのだ。それからも彼女と日が暮れるまで、街中のお店を回って準備を続けるのであった。

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付き合っていた恋人を年上の男性に寝取られたので、俺はその男性の妹&姉と付き合う事にした 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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